川嶋みどり 看護の羅針盤 第54回

　20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 （ライフサポート社、2020年）。　

　この連載では、本書に収載された看護の現場や看護職の想いだけでなく、個人としての視点や感性も込められた366の言葉を、毎日1つずつご紹介します。

　看護学が医学に比べて遅れを取った理由の1つに、個人の技能の言語化の遅れがある。さきの看護師長のように予測性のある観察眼がありながら、看護師長個人の勘のレベルにとどまっている限り、これを後輩に伝えることができず、看護師長一代限りの技能で終わってしまう。そこで、個人レベルの技能を技術化することにより、その技の普及が可能になる。（中略）

　経験を語るとはまさにこの、個人レベルの技能の技術化のステップとも言えよう。自分の経験を語るプロセスは、自分の感覚や知覚を投入して得たことを言語によって追体験することであり、経験していた時には気づかなかった要素を発見できることはしばしばある。

（出典：『看護の技術と教育 看護の時代３』122～123ページ、勁草書房）