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脳出血の画像の見方とケアでの活用ポイント
脳出血を画像で理解するための基本を解説。被殻出血、視床出血、皮質下出血、脳幹出血、小脳出血の画像の見方や、画像を見てケアで予測すべきことなどを紹介します。 脳出血とは? ●脳出血とは、脳実質内に起こる出血をいいます。●脳出血のうち高血圧が原因で起こる高血圧性脳出血が全体の80%以上を占めます。●種類は出血する部位によって、被殻出血、視床出血、脳幹出血、小脳出血、尾状核出血、皮質下出血、その他の出血に分けられます。発生頻度を図11に示します。●原因として、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病と思われがちですが、それ以外に血管奇形や脳腫瘍などが原因のことがあります。 図1 脳出血の部位別頻度 (文献1より引用、一部改変) 脳出血の画像診断の第一選択は? 脳出血の画像診断は、迅速に判別しやすいため、CTが第一選択になります。 脳出血はCT画像で脳実質内に白く描写される“高吸収域”の有無で診断されます。MRIでも診断可能ですが、脳出血の程度によっては緊急手術の判断などが求められるため、実施前の確認事項や検査に時間がかかるMRIよりCTが選択されることが多いです。その後、脳出血の種類や程度によって原因検索として、造影CTや脳血管造影などにより脳血管に異常がないかの確認が進められます。 こちらもチェック!●脳出血と髄膜炎の症状・特徴的所見「脳出血」「髄膜炎」の症状やアセスメント方法を解説しています。 脳出血の画像の見方 1)被殻出血の画像の見方 図2は被殻出血の画像です。出血部位が白く見える“高吸収域”が確認できます。 図2 被殻出血(CT) 責任血管は中大脳動脈(MCA)から分岐するレンズ核線条体動脈です。 被殻は運動神経の通り道である内包が近いため(図2)、反対側の運動麻痺が現れます(機能局在は脳画像の読み方入門:図で学ぶ脳の構造を参照)。図2の症例では、左の内包が障害され、右半身の運動麻痺が出現していました。 また視床まで出血が及ぶと感覚障害が出現することがあります。 2)視床出血の画像の見方 図3は視床出血の画像です。 図3 視床出血(CT) 責任血管は後大脳動脈から分岐する視床穿通動脈と視床膝状体動脈です。 視床は感覚神経が通る部分であり、反対側の感覚障害や運動神経が通る内包も近くにあるため、反対側の運動麻痺が出現することがあります。また、視床は意識にもかかわっているため、意識障害や、眼球が内側下方に向く(鼻先凝視)の共同偏視を認めることがあります。 図3の症例では、左の視床と内包が障害され、意識障害、右半身の運動・感覚障害が出現していました。 なお、視床出血は脳室内に出血が及ぶ脳室穿破(せんぱ)が多い脳出血です(図3も側脳室が白くなっており、出血が脳室内に及んでいるのがわかります)。脳室穿破を合併すると、意識障害が重度になってしまうことがあります。急性水頭症になると手術が必要になる場合もあり、予後不良になってしまいます。 3)皮質下出血の画像の見方 図4は皮質下出血の画像です。 図4 皮質下出血(CT) 責任血管は前・中・後大脳動脈から分岐した血管です。皮質とは大脳皮質のことで、大脳の表面の部分をいいます。 皮質下出血は、部位によって症状が異なります。 図4の症例では左の前頭葉の障害により、右上下肢の運動麻痺が出現していました。 なお皮質下出血は、“高血圧性脳出血以外”の脳出血のアミロイドアンギオパチー*1や脳動静脈奇形*2が原因の脳出血が多く見られます。 また皮質下出血では、けいれんの可能性を念頭に置く必要があります(詳細は後述)。 *1【アミロイドアンギオパチー 】=脳表近くの血管にアミロイド蛋白が付着し、血管壁の脆弱化が起こる疾患のこと。沈着が高度になると血管が破綻し、出血が起こる。アミロイドアンギオパチーは高齢者に多く、年齢とともに増加し、比較的短時間に再発を繰り返すことがある。また、アルツハイマー型認知症を合併することもある。MRI(T2強調像など)の検査で鑑別される。 *2【脳動静脈奇形(arteriovenous malformation、AVM)】=通常、動脈と静脈の間には毛細血管があるが、脳動静脈奇形は毛細血管がなく、nidus(ナイダス)と呼ばれる拡張・蛇行した血管の塊が見られる(図5)。脳動静脈奇形は20~40歳の若年成人に多いため、若年成人の脳出血では脳動静脈奇形を疑って、造影CTやMRI、脳血管造影などの検査を進めていく必要がある。 図5 脳動静脈奇形(AVM) こちらもチェック!●出血性脳卒中とは?脳卒中の原因、早期発見のポイントなどを解説しています。 4)脳幹出血の画像の見方 図6-1は脳幹出血の画像です。脳幹は中脳・橋・延髄から構成されますが、脳幹出血で多いのは橋出血です。 図6-1 脳幹出血(CT) 責任血管は脳底動脈から分岐する橋動脈です。 橋は意識や呼吸の調整などの役割があるため、障害されると強い意識障害や呼吸障害を起こし、脳出血のなかで最も予後不良です。 図6-1の症例では出血量が多く、強い意識障害と呼吸障害などが出現していました。 また、橋には左右の運動を司る錐体路が通るため、四肢麻痺の症状が起こったり、嚥下中枢も隣接することから嚥下障害が出ることもあり(図4参照)、救命できたとしても大きな後遺症が残ります。 このブロック以降のコンテンツは非表示になります 図6-2 脳幹・小脳の機能局在 5)小脳出血の画像の見方 図7は小脳出血の画像です。 図7 小脳出血(CT) 責任血管は上下小脳動脈です。 小脳出血では、回転性のめまいや反復する嘔吐、出血と同側に運動失調が出現することがあります(図6-2参照)。 図7の症例では左小脳が障害され、左上下肢の失調症状とめまいの症状が出現していました。 なお小脳は、第4脳室(図6-2参照)が近くにあるため脳室穿破を起こしやすく、急性水頭症も起こすことがあります。 脳出血の画像を見てケアで予測すべきことは? 1)脳ヘルニアの状態を確認しておく 脳出血の画像を見る際に注意したいこととして、脳ヘルニアがあります。脳ヘルニアとは、血腫や脳浮腫などにより頭蓋内圧が亢進し、本来の位置から押し出される状態です。 脳ヘルニアになるとさまざまな神経症状や呼吸・循環障害や脳幹の圧迫を起こし、生命の危機的状況になります。画像でよく見られる脳ヘルニアの特徴として、血腫や脳浮腫などにより圧迫され、正中線がずれる正中偏位(図8)があります。 図8 脳ヘルニア(CT) 2)脳浮腫の状態を確認しておく 脳浮腫とは、脳出血が起こると血漿中の水分が間質に流出し、水分で脳が腫れることです。 脳浮腫は、脳出血の発症3~4日で最大となります。そのため、出血量は増えていないにもかかわらず、脳浮腫により周囲の細胞が障害されるため、新たな症状が出現したり、症状が増悪したりします。 さらに脳浮腫が増強していくと頭蓋内圧が上昇し、脳ヘルニアの危険性があるため、治療・管理していく必要があります。CTの画像の特徴として出血周囲に低吸収域を認めます(図9)。 図9 脳浮腫(CT) 3)皮質下出血ではけいれんに注意 脳ヘルニア以外にも注意しなければいけないのがけいれんです。けいれんの原因は、大脳皮質で異常な電気信号が生じることです。そのため脳出血、なかでも特に皮質下出血ではけいれんが起こる可能性を考えておく必要があります。 また、けいれんは急性期だけでなく、回復期・慢性期でも起こる可能性があります。けいれんを発見したときには、“どの部分から始まって”“どのように広がったか”を確認します。全身にけいれんが広がったときには、気道を確保し、呼吸状態を観察し、医師に報告しましょう。 4)脳出血のたどる経時的変化を想定しておく 脳出血は、時間の経過とともに画像も変わっていきます。図10-①のように発症直後は血腫がありCTで白く写っていますが、血腫は徐々に吸収されていき、3か月後のCT(図10-②)では黒く写っていきます。発症直後に血腫が広がっていた部位も血腫が吸収され、障害が改善してくることもあります。 脳出血の慢性期になると血腫は髄液と同じ濃度になるため、低吸収域(=黒く見える)になります。 なお画像上、脳梗塞でも低吸収域になりますが、脳出血の慢性期では不整形に見えるのが特徴です。CT画像の判別で見間違えることもあるため、“今起きている症状”と画像所見からの判断、MRIなどで精査していく必要があります。 図10 脳出血の経過 * 脳出血では、全身状態の管理や症状の観察をすることに目を向けがちです。もちろん大切なことではありますが、看護師として、画像から得た情報をケアに活かすことも大切です。 例えば「脳幹出血」の場合では嚥下障害が出現することがあり、食事を開始する際にはスクリーニングテストなどで嚥下障害の有無を判断する必要があります。また「視床出血」「被殻出血」の場合は、運動麻痺に加えて感覚障害が出現することがあり、移乗や移動の際などに麻痺側をぶつけてしまっても気がつかずに外傷などになることがあるため、麻痺側の管理をしなければなりません。 画像から、治療や今後起こりうる症状を予測し、何を観察しなければいけないかの判断につなげていく必要があります。 脳出血の治療の進み方は? 外科的治療、保存的治療 脳出血の治療として、「外科的治療」「保存的治療」が行われます。 外科的治療の適応は『脳卒中治療ガイドライン2021』で推奨されており、血腫量や大きさなどによって決まります(表1)2。 表1 外科的療法の適応 被殻出血 :血腫量が31mL以上かつ血腫による圧迫所見が高度の場合視床出血:手術適応なし皮質下出血:脳表より深さ1cm以下の場合脳幹出血:手術適応なし小脳出血:血腫径が3cm以上で、神経学的徴候が増悪している場合、出血が脳幹を圧迫し水頭症を併発している場合 (文献2より引用、一部改変) 外科的治療は開頭して血腫を除去する「開頭血腫除去術」と、内視鏡を使用する「内視鏡下血腫除去術」があります。急性水頭症に対しては、「脳室ドレナージ術」が行われます。 保存的治療は、再出血を予防するために止血薬(アドナ®、トランサミン®など)を使用します。また、頭蓋内圧亢進を防ぐために浸透圧利尿薬(グリセオール®、マンニットールなど)を使用します(保存的療法で使われる止血薬や抗浮腫薬は、外科的治療の適応のある患者さんにも使われます)。 2)脳出血の管理 脳出血の管理のポイントとして、再出血を予防することが重要です。 再出血は発症直後から 24時間以内(特に数時間以内)に多いとされます。高血圧が持続すると再出血を起こし、症状の悪化 ・ 生命の危機になることがあるため、血圧の管理が大切です。 発症直後は血圧が200mmHg以上に上昇することがあります。『脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2025]』では“で きるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満へ降圧させることが示されています。降圧薬や、必要に応じて鎮静薬も使用します。 さらに抗凝固薬や抗血小板薬を内服している患者さんは、特に血腫が増大するリスクが高いため、入院時に内服や既往歴について十分に確認する必要があります。 3)脳出血のケア 観察のポイントとして、バイタルサイン・意識レベル・神経症状・瞳孔所見(図11)3が重要です。 脳出血は、運動麻痺や感覚障害だけでなく、障害される部位によって記憶力や注意力が低下する後遺症が残ることがあります。後遺症が残ると患者さんのADLの低下はもちろん、介護をする家族への負担も大きくなります。後遺症を最小限にするため、早期リハビリテーションが大切です。 図11 瞳孔所見 (文献3をもとに作成) 脳出血では、発症24時間後のCTで「血腫の増大」と「水頭症」がなければ、離床することが勧められています。リハビリテーションスタッフだけに任せるのではなく、看護師も食事や排泄、整容などの生活場面で、離床を意識してかかわっていきましょう。また、麻痺だけでなく障害された部位の症状にも注意して離床を行います。多職種と情報共有を図り、チームで進めていきましょう。 (第5回) 引用文献1.国循脳卒中データバンク2021編集委員会 編:脳出血部位、血腫量と転帰.脳卒中データバンク2021,中山書店,東京,2021:102.2.日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会 編:高血圧性脳出血の手術適応 開頭手術、神経内視鏡手術.脳卒中治療ガイドライン2021.協和企画,東京,2021:129-133.3.服部悦子,井口秀人,波多野武人:脳出血のケアのポイント.波多野武人 編著,まるごと図解 ケアにつながる脳の見かた,照林社,東京,2016:64. この記事を読んだ方におすすめ●画像検査の情報を看護に活かすための見方と注目ポイント●X線画像やエコー画像の原理などを解説!観察とケアがつながる画像●そのほかの連載記事はこちら ※この記事は『エキスパートナース』2017年2月号特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。
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春から差がつく!看護師の学び特集:おすすめ本、確認テスト、AI活用術
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脳梗塞の画像の見方とケアでの活用ポイント
脳梗塞を画像で理解するための基本を解説。脳梗塞診断におけるCT・MRIの特徴や、画像の見方、画像を見てケアで予測すべきことなどを紹介します。 脳梗塞とは? ●脳動脈が何らかの原因により閉塞し、閉塞部位より末梢の組織(脳実質)に壊死が起こる病態を「脳梗塞」といいます。●脳梗塞は時間経過とともに梗塞巣が明瞭化し、一度壊死を起こした脳細胞は回復しません。このような状態になる前に、一刻も早く血管の閉塞を取り除き、血流を改善させることが治療の根本です。●脳梗塞の病型分類は、大きく「アテローム血栓性」「心原性血栓症」「ラクナ梗塞」の3つに分類されます(表1)。 脳梗塞の画像診断 1)脳梗塞診断におけるCTとMRIの違い 脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)が疑われる患者さんが搬送されてきたとき、多くの施設では、まず脳のCTが行われます。なぜなら、CTのほうが短時間で撮影ができ、早急に情報を得ることができるためです。 しかし、脳梗塞におけるCT所見は、発症数時間でうっすらと変化(early CT sign)を認めることがあるものの、CT上、脳梗塞として判断できる低吸収域(黒色)になるには、発症後24時間以上かかります。それでは超急性期の脳梗塞を診断できず治療には間に合いません。 これに対してMRIは、画像の種類によって超急性期脳梗塞を捉えることができ、発症経過がわかりやすくなります。 2)MRIの画像の種類 脳梗塞の病期を診断するために必要なMRIの画像の種類は「拡散強調像(DWI)」「ADCmap」*「T2強調像」です。 DWIでは脳梗塞発症から30分程度で信号変化が起こりはじめます。またDWIと同時に撮影されることの多いT2強調像では、発症から6~12時間が経過すると梗塞部位が高信号域になりはじめます。 そして、脳梗塞の際には、MRA(磁気共鳴血管造影法)を確認することも病態を知るうえで重要です。MRAは脳実質に供給している血管のみを描出することができ、動脈硬化により狭窄した脳血管や、閉塞した脳血管の途絶などを確認することができます。 *【ADCmap】=脳梗塞と特定するために補助的に行うもので、脳梗塞の場合は低信号域(黒く写る)となる。 表1 脳梗塞の病型分類 ①アテローム血栓性脳梗塞 (文献1を参考に作成) ●要因として「動脈硬化などにより狭窄した脳血管が閉塞する場合」「頸動脈などに形成されたプラークが剥がれて脳血管を閉塞する場合」「脱水や低血圧により狭窄した脳血管の血流が低下して起こる場合」の3種類がある ●アテローム硬化の好発部位は、主幹動脈である総頸動脈、内頸動脈、中大脳動脈、椎骨動脈の起始部(これより末梢の動脈に生じることもある) ●動脈硬化による血管の狭窄が緩やかに起こり、閉塞した際には軽い感覚障害や運動障害などが出現し、数分~24時間ほど持続し、消失を繰り返す。その後、脳梗塞を発症すると、時間経過とともに麻痺などの症状が固定し、段階的に症状が悪化していくことが多い ②心原性脳梗塞 (文献1を参考に作成) ●不整脈や急性心筋梗塞、拡張型心筋症、人工弁などの心臓壁に血栓を形成させるような基礎疾患により、血栓子が脳動脈を詰まらせて発症する●突然に動脈を閉塞するため、短時間で広範囲の梗塞巣が完成する●発症時に意識障害を伴うことが多く、麻痺や失語などの症状が重症化する場合が多くみられる ③ラクナ梗塞 (文献1を参考に作成) ●主幹動脈から分岐する穿通枝などの微小血管に血栓が詰まることで発症する●起床時などの安静時に発症することが多く、例えば、夜寝ていて朝、目が覚めたときに手足のしびれを感じ様子を見ていると麻痺が徐々に出てきたなど、症状の進行が緩やかなことが多くみられる ●穿通枝は細い脳血管であり、小梗塞で済むことが多く、症状が軽症であることが特徴。しかし、穿通枝の根元に血栓が詰まると数時間~数日かけて梗塞巣が拡大し徐々に症状を悪化させることがあるため、小梗塞とはいえ慎重に対応する必要がある ●高齢者ではラクナ梗塞があっても神経症状が出現しない場合がある(無症候性脳梗塞)。しかし発症を何度も繰り返すと、脳血管性認知症やパーキンソン症候群、嚥下障害などの症状が重症化していく こちらもチェック!●脳梗塞既往患者では心房細動(AF)に注意!心原性脳梗塞と危険な心電図波形について解説しています。 脳梗塞の画像の見方 1)脳梗塞(急性期アテローム血栓性脳梗塞) 異常所見 車の運転中に左上下肢の脱力と感覚障害を自覚し受診された患者さんの例です。受診当初のCTに異常所見はありませんでしたが(図1-1)、MRIを撮影したところ、拡散強調像(DWI、図1-2)で脳の右側に高信号域があり、右内包後脚の急性期脳梗塞と診断されました。 図1-1 急性期アテローム血栓性脳梗塞のCT画像 図1-2 急性期アテローム血栓性脳梗塞のMRI(DWI、拡散強調像) T2強調像(図1-3)でもすでに高信号となっていることが確認できたため、発症後6~12時間が経過した右内包後脚の急性期のアテローム血栓性脳梗塞と診断され、急性期治療に準じて抗凝固薬(アルガトロバン)の投与が開始されました。 図1-3 急性期アテローム血栓性脳梗塞のMRI(T2強調像) 責任血管 右内包後脚(図1-4)の責任血管は、内頸動脈より分岐する前脈絡叢動脈であるため、内頸動脈に関連する中枢から末梢の脳血管のどこかに狭窄や閉塞を起こしていることが考えられます。 図1-4 急性期アテローム血栓性脳梗塞の障害される部位 関連する脳機能 本症例の脳梗塞では、右内包後脚周辺に梗塞を起こしているため、症状としては、梗塞巣と反対の四肢・顔面に運動麻痺や感覚障害を呈することがあります。これは、大脳皮質の運動野から延びるニューロンが収束して内包後脚を通過するからです。 また内包後脚周辺には視床があり、全身の感覚ニューロンが通過しているため、感覚障害も同時に出現していると考えられます。 図1の症例では、右内包後脚の急性脳梗塞のため、左の四肢・顔面に運動麻痺や感覚障害が出現した。 2)脳梗塞(急性期の心原性脳梗塞) 異常所見 突然の意識障害が出現したため、家族が救急要請して搬送されてきた患者さんの例です。 すぐにCT(図2-1)が撮影され、右中大脳動脈領域において低吸収域を示していました。そこで脳梗塞が疑われMRIを施行し(図2-2)、その結果、DWIでは広範囲に高信号域を、ADCmapでは低信号域を認め、またT2強調像においても高信号域が認められました。 発症後、数時間が経過している急性期の右中大脳動脈領域の心原性脳梗塞と診断され、ヘパリンの投与が開始されました。 図2-1 急性期の心原性脳梗塞のCT画像 図2-2 急性期の心原性脳梗塞のMRI(DDWI、拡散強調像) 責任血管 この症例のMRA(図2-3)では、左中大脳動脈と比較して右中大脳動脈が消失し途絶していることがわかります。 内頸動脈から分岐する中大脳動脈は、主に前頭葉、頭頂葉、側頭葉の外側面などの大脳の広範囲に血流を供給しています(第3回の記事参照)。 図2-3 急性期の心原性脳梗塞のMRA 図2の症例では10日間ほどで意識障害から脱したものの、顔面を含む左上下肢の片麻痺、注意障害、左側空間無視の症状が残存した。 関連する脳機能 中大脳動脈の支配領域(前頭葉、頭頂葉、側頭葉)の障害では、梗塞巣と反対の上下肢の麻痺と感覚障害、構音障害、視野障害(同名半盲:両側の同じ部位が見えなくなる)などの症状が出現します(第3回の記事参照)。 また、注意障害や遂行機能障害、失行 ・ 失認などの高次脳機能障害に加えて、優位半球の障害では主に失語症が出現し(表2)、劣位半球の障害では半側空間無視などのさまざまな症状が出現します。 表2 言語障害の区分 ●失語症要因:大脳皮質における言語中枢の損傷運動性失語(ブローカ失語)感覚性失語(ウェルニッケ失語) ●構音障害要因:大脳皮質の顔面・咽喉頭・舌運動にかかわる領域の損傷 (文献2を参考に作成) 脳梗塞の病型を診断することは適切な薬剤を選択するうえで重要となります。その補足の検査として、心原性脳梗塞を疑う場合には、心電図により心房細動などの不整脈や心筋梗塞の有無を確認し、心臓超音波検査などにより心臓内に血栓形成がないかを確認します。アテローム血栓性脳梗塞では、必要に応じて、3DCTA、脳血流シンチグラフィなどを行う場合もあります。 脳梗塞の画像を見る際に大切なのは、脳梗塞の発症時間や発症部位はもちろんのこと、出現している症状が梗塞巣と合致しているかを確認することです。 こちらもチェック!●脳梗塞を疑う症状と鑑別の判断基準「脳梗塞」の症状や特徴的な所見、初期対応などを解説しています。 脳梗塞の画像を見てケアで予測すべきことは? 1)脳浮腫の徴候があれば全身状態を確認していく 脳梗塞の急性期では意識障害を呈することがあり、その原因としては、意識を司る部位が直接損傷を受けた場合と、脳梗塞による脳浮腫が原因で起こる場合があります。 脳浮腫は、脳梗塞により細胞が壊死することで細胞内から水が漏れ出し、脳内に貯留することで起こります。脳浮腫は、脳梗塞発症から3~5日でピークを迎えて2週間ほど続く可能性があり、その間の状態変化の観察が重要となります。脳浮腫は、CTで見ると浮腫の部分は正常な脳より黒く描写され、脳溝がはっきりと確認できなくなります。特に、広範囲の脳梗塞を起こした場合や脳幹梗塞では、意識障害に加えて呼吸・循環動態の悪化を認めることがあります。 また、広範囲の脳梗塞や脳幹梗塞では、脳浮腫により脳ヘルニアに移行することがあり、その場合、意識障害や呼吸状態の悪化を起こします。 そのため、GCSやJCSなどによる意識障害の程度の把握や、瞳孔、バイタルサインなどの経時的な観察を行う必要があります。 2)嚥下障害が起こることを念頭に置く 急性期の脳梗塞患者における摂食嚥下障害の有病率は、病変部位や発症時期によって異なりますが、約30~81%であるといわれ、6か月以降の慢性期になっても摂食嚥下障害が残存していた患者は約8%であったとの報告があります3,4。 特に、脳梗塞の発症後3~4日は、脳浮腫によって摂食嚥下障害が顕著に現れることがあります(図4)。 このブロック以降のコンテンツは非表示になります 図4 脳浮腫より起こる嚥下障害 脳梗塞の急性期は摂食嚥下障害を併発しやすく、誤嚥性肺炎の発症リスクが高くなりますが、この間に誤った対応をすると、以下のようなリスクが考えられ、重症化させてしまうことがあるので注意が必要です。●口腔ケアが不十分で口腔内衛生不良の状態で放置する●意識障害のある時期に経口摂取を行う、嚥下の能力に合っていない食形態を提供し評価を怠る●摂食嚥下障害による経口摂取量の減少に気がつかずに低栄養の状態になる 3)患者さんのできること・できないことを予測してケアに活かす 「脳梗塞の画像の見方」の項で脳梗塞の画像と症状が合致しているかを確認することが必要であると述べましたが、脳の画像を大まかにでも把握ができると、その障害される機能がある程度把握できます。そうすると、患者さんへの介入方法も変わってきます。 例えば、左の大脳半球にある言語中枢が障害された場合、失語症のため言葉の表出ができにくくなりますが、会話の速度をゆっくりとし、短く質問をすれば、理解できることが多くあり、有効なコミュニケーションを図るうえで重要となります。 また、症例に挙げている右の大脳半球が障害された場合は、多くは半側空間無視が出現し、左空間の認知能力が低下します。半側空間無視は、歩行や車椅子の操作時に左半身をぶつけるなど、今後の生活全般の障害にかかわってきます。このような場合は、無視側の左側から話しかけたり、左側に目印を置いて注意が向くようにしたりして、空間認識を促していくことが大切です。 大まかな脳の機能を知っておくと、急性期の介入方法がすいぶんと変わり、慢性期のリハビリテーションがスムーズになることが多くあります。 脳梗塞の治療の進み方 t-PA静注療法 脳血管が閉塞すると、脳実質では、閉塞した中心部にほとんど血流は行き届かず早期に脳の不可逆性変化を起こしますが、その周囲には血流が再開すれば脳細胞が回復する可能性のある可逆的な領域が存在します。 その領域を「ペナンブラ」と呼びますが、このペナンブラが不可逆性変化を起こし脳梗塞巣が拡大する前に、できる限り早期に血流を回復させる必要があります。そのため、脳梗塞では初期対応が重要となります。 近年、脳梗塞治療を迅速に開始できるように、多くの病院では脳卒中初期診療(ISLS)アルゴリズムが導入されています。この背景には、2005年から「t-PA静注療法」が保険適用となったことが要因として挙げられます。 t-PA静注療法とは、発症から4.5時間以内の超急性期脳梗塞患者が適応となり、アルテプラーゼ(t-PA)という脳梗塞治療薬を投与するもので、症状の著明な改善が期待できる治療です。投与方法は、1回目に投与総量の10%を静脈内に急速投与し、2回目に残りの90%が1時間で点滴投与されます。 投与中は副作用として脳出血のリスクが高くなるため、投与から1時間では15分ごとの血圧・呼吸のモニタリングや、NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)による神経所見の評価などが行われ、厳重な管理が必要となります。 そのため、年齢や既往歴、抗凝固薬の内服歴がないか等の適応条件が詳細に示されています。それ以外にも、4.5時間を経過した急性期脳梗塞では、脳梗塞の病型によって投与される薬剤が異なります。 脳浮腫の改善 ・ 予防に対し浸透圧利尿薬を、脳梗塞発症後に産生される有害物質から脳を守るための脳保護薬(エダラボン)なども併用して投与されます。必要時には、血栓回収療法やステント留置術などの血管内外科的治療が行われます。 脳梗塞の管理・ケア ①血圧管理と異常の早期発見 通常、血管は常に一定の血流を送るための自動調節機能がありますが、脳梗塞巣周辺の血管では自動調節機能が破綻するため、血流量の変化により血圧が変動してしまいます。そのため、血圧が高すぎると脳血流量が増加して出血性梗塞を起こしやすくなり、逆に血圧が低すぎると梗塞巣が虚血状態となり、症状が悪化する場合があります。 脳梗塞患者の血圧管理の基本は、降圧薬を使用しない方針ですが、収縮期血圧>220mmHg、拡張期血圧>120mmHg以上が持続する場合に、ニカルジピン塩酸塩などの持続静注による降圧療法が行われます。 特に注意が必要なのは、血圧が急激に上昇したときで、脳出血や脳梗塞の再発の可能性があります。その際には、再度、意識レベルや身体症状の増悪がないかを観察する必要があります。 ②嚥下障害 脳梗塞の急性期には嚥下障害が起こりやすいと先述しましたが、脳梗塞の発症部位によっても嚥下障害の重症度が変わります。 嚥下中枢のある脳幹の延髄に梗塞がある場合は、嚥下反射が起こらなくなるような重度の嚥下障害を呈します。しかし、大脳半球であっても両側性に障害を受けた場合、仮性球麻痺と言って、嚥下に関連する筋肉の協調性がなくなり、誤嚥を起こしやすくなります。 特に、大脳基底核を両側性に障害された場合は、誤嚥したのにむせがない「不顕性誤嚥の危険性」が高まります。脳梗塞の急性期では、必要時には嚥下スクリーニングテストや嚥下内視鏡、嚥下造影検査などで嚥下評価を行い、食形態の選定や体位調整などの代償嚥下法を取り入れながら段階的に経口摂取を進めていくことが重要です。 意識障害などのために唾液誤嚥が著明な場合は、口腔ケアを十分に行い、誤嚥性肺炎の予防を図ることが必要です。 (第4回) 引用文献1.市川博雄:症状・経過観察に役立つ 脳卒中の画像のみかた.医学書院,東京,2014:37.2.西村和子:脳の障害で出現する「言語障害」にはどのような特徴があるの?.眞野惠子編,森田功 監修,「脳」から起こる症状・徴候見抜き方ガイド.エキスパートナース2016年5月臨時増刊号;32(6):85.3.才藤栄一,植田耕一郎 監修:摂食嚥下リハビリテーション 第3版.医歯薬出版,東京,2016:294.4.Smithard DG , O'Neill PA , England RE , et al . :The natural history of dysphagia following a stroke.Dysphagia 1997;12(4):188-193.5.前掲書3:292. 参考文献1.日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会 編:脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2025].協和企画,東京,2025.2.阿部康二 編:レジデントのための脳卒中診療のコツ.文光堂,東京,2014.3.日本救急医学会,日本臨床救急医学会,日本神経救急学会 監修,『ISLSガイドブック2018』編集委員会 編:ISLSガイドブック2018 脳卒中の初期診療の標準化.へるす出版,東京, 2018. この記事を読んだ方におすすめ●画像検査の情報を看護に活かすための見方と注目ポイント●X線画像やエコー画像の原理などを解説!観察とケアがつながる画像●そのほかの連載記事はこちら ※この記事は『エキスパートナース』2017年2月号特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。
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