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看護現場の「合理的配慮」実践Q&A:カスハラとの違いや性的マイノリティの人への配慮
「合理的配慮」について、看護師がおさえておきたいポイントを解説。看護現場から寄せられた合理的配慮に関する疑問に答えています。 前回の記事はこちら 〈見出し〉●患者さんの申し出に、ナースとして対応できる範囲は?●合理的配慮とクレーム・カスハラとの違いは?●個人ではなくチームで合理的配慮を進めるには?●ナースどうしでの合理的配慮の提供は必要?●性的マイノリティの人への合理的配慮とは? 患者さんの申し出に、ナースとして対応できる範囲は? ――合理的配慮について、基本的なことは理解できたと思います。ただ、自分が実際にそのような場面に遭遇したとき、うまく対応できるかはまだ自信がないです。他の医療従事者は現場でうまくできているのでしょうか? 喜多 じつは、僕は医療従事者と合理的配慮の話をすることがほとんどありません。おそらく、多くの医療従事者が「合理的配慮って何?」や「聞いたことはあるけど……」という状態なのだと思います。 ――そうだったのですね。医療現場で合理的配慮が浸透するのは、まだこれからですね。 喜多 そうですね。一方で、当事者の「対応してもらえなかった」という話を耳にすることは少なくないです。例えば、精神障害のある友人がはじめての医療機関に入院する際、治療方法や入院後の生活に見通しが立たなくて不安を感じていたんです。そこで「教えてほしい」と申し出たのですが、医療従事者からは「入院しないとわからない」ばかりで、満足のいく回答をしてもらえないとつらい思いをされていました。 ――たしかに、実際に入院して検査をしないと今後の方針が決められないこともよくありますし……。ナースだと医師のように病状を説明できないこともあるから、私も聞かれたら困っちゃうかもしれません。 喜多 たしかに、すべてを伝えることは難しいかもしれません。しかし、部分的にでも伝えられることはあるのではないでしょうか? ――う~ん……。考えてみると、あるかもしれませんね。例えば、まだ詳しい治療方針は決まっていないけれど、「〇日に〇〇という検査をして調べた結果が翌日にわかるので、AかBで治療を続けるのか決まります。具体的な話は〇日に医師からあります」みたいなことは伝えられるかもしれないです。 喜多 そういうことですね。大事なのは「負担が重すぎない範囲」と「対話」という原則に立ち戻ることです(第1回の記事参照)。ナースとして対応できる範囲を明確にして、現時点で説明できることを伝えて、「他にも不安なことはありませんか?」と対話してほしいんです。無理に医師から指示出しをしてもらったり、無理に治療方針を立ててもらったり、過度に対応する必要はないんですよ。 合理的配慮とクレーム・カスハラとの違いは? ――実際に働いている場面のことを考えると、クレームやカスタマーハラスメントとの違いがわかりにくいとも感じました。例えば、患者さんから「ちょっとした要求が多い」とか「細かなことを指摘してくる」というのは、ナースとして働いているとわりと経験すると思うんです。 喜多 例えば、「他の患者さんよりも優遇した対応をしなさい」や「あなたの態度が気に入らないので改めなさい」というものについては、合理的配慮の申し出と考えることは難しいですね。違いを考えるときには、「社会モデル」という考え方に立ち戻ってもらいたいのです(第1回の記事参照)。社会モデルでは、障害のない人を中心としてつくられたさまざまな環境によって、障害のある方が困難を生じると説明しました。合理的配慮が図ろうとしているのは、この環境のあり方を調整していこうという取り組みなんです。 ――少し難しいですね……。どういうことでしょうか。 喜多 例えば、病院受付の呼び出しシステムが音声のみだったときには、聴覚障害のある方には情報が届きませんよね。これだけでも、聴覚障害のある方とない方には格差が生じてしまいます。この格差を埋めるのが合理的配慮になるんです。患者さんからの過度な要求や細かな指摘は、この格差を埋めるために必要なものかを考えてみることがヒントになると思います。 ――なるほど。そう考えると、合理的配慮は患者さんを特別扱いするわけではないということですね。合理的配慮の提供をすることで「あの患者さんにはしているのに、私には何でしてくれないんだ!」という声が聞こえてきそうだな……、なんてことも思っていました。 喜多 合理的配慮は医療機関だけではなく、教育機関や一般企業にも周知が広がってきています。そこでは「特別扱い」や「わがまま」といった言葉で、障害のある方ががまんや努力を強いられてしまう状況もあると聞きます。合理的配慮には、社会モデルの考え方をセットで考えていくことで、より理解が深まると思います。 ――看護師としては働くなかで耳にすることがほとんどなかったけど、これからは知っておくべき言葉になっていきそうですね。 個人ではなくチームで合理的配慮を進めるには? ――合理的配慮について、私にもできそうなことがわかってきました。でも、私1人が一生懸命がんばったとしても、限界はあると思うんですよね。同じチームや部署、関係する他職種でも同じように理解が進めばいいなと思うんですけど……。 喜多 とても大切な視点だと思います。例えば、小さなクリニックで患者さんが多い時間帯にスタッフ数も少なくて手が回らないとき、「ちょっと外まで迎えに来てほしい」と患者さんから申し出があったとします。それに対して個人の裁量で「合理的配慮で必要だから行ってきます!」と外に出て行ってしまったら、どうでしょうか? 他のスタッフに負担がかかってしまうし、他の患者さんにも迷惑がかかってしまいますよね。もしかしたら医療事故につながるかもしれません。 ――あると思います。よかれと思って、やさしい看護師さんがそういう行動をすることはありそうです。私がそれをやったら、先輩からめちゃくちゃ怒られそうです。「1人がやりだしたら、みんな対応しなきゃいけないじゃん」とか「チームのことちゃんと考えて、勝手な行動をしないで」とか言われそうです。 喜多 そうなんです。なので、個々人で提供できるような合理的配慮も、他のスタッフたちの理解や協力を必要とするものだと思います。患者さんから申し出があったときには個人で勝手に判断せず、チームで話し合っていくことも大切だと思います。 ――なるほど! でも具体的に、チームではどんなふうに話し合えばいいでしょうか。 喜多 「スタッフが外まで迎えに行くことは合理的配慮として必要だと思うんですけど、今の状況だとなかなか難しいです。どうしたらいいですか?」と。こういうところから話し合うとよいかもしれませんね。 ――そうか、そのまま投げかけてよいのですね。こうやって1つ1つ話題にしてみんなで考えていくことが、合理的配慮を考えるきっかけにもなりますよね。 喜多 そうですね。どのような合理的配慮が提供できるのか……。合理的配慮を提供できるようにするための基礎的環境整備をみんなで考えるなかで見えてくる部分があると思います。 ナースどうしでの合理的配慮の提供は必要? ――これまで患者さんに対する話が多かったのですが、同じナースどうしでも合理的配慮って必要なんでしょうか。例えば、障害という診断がついていなくても発達特性がある後輩ナースがいて、指導するときに口頭でメモをとってもらうのが難しそうなので、書面にしてあらかじめ渡すとか……。そういうことも必要なのかなって。 喜多 ナースどうしでも合理的配慮は必要となりますね。でも、現場のナースが忙しい業務のなかで同じナースのことを考える余裕なんかない……というのが実情ではないでしょうか。僕も病院で働いていたことがあるので、ナースの大変さもわかります。ただ、だからこそ合理的配慮の提供が意義あるものになると思うんです。 ――どういうことでしょうか? 喜多 ナースが合理的配慮を必要としているときは、何かしらの業務がうまくいっていないときだと思うんです。なので、そのままではそのナースは仕事をうまく進めることができず、結果的に他のナースに負担がかかっている状態になっていることが多いはずです。そこで適切に合理的配慮が提供されれば、業務が円滑に進むようになって、どのナースも楽になるのではないかと思うんです。 ――たしかに。合理的配慮と聞いて、「また新しい業務が増えるのか……」という気持ちになっていました。でも、結果的に他のナースも自分自身も楽になるのであれば、考え方が変わりますね。 喜多 診断がなされていなくとも困りごとを抱えているナースは少なくないと感じています。他の例としては、勉強会の資料をちょっと変更することで、効率のよい学びができるナースは一定数いるのではないでしょうか。合理的配慮の考え方が広がっていくと、業務や学習など広い側面からよい方向に向うナースが増えていくと思います。あと、部下・後輩指導をがんばっているナースのなかに、「自分の教え方が悪くて……」と、悩んで落ち込んでしまう方もいると思うんです。合理的配慮の視点をもつことで「こういうふうに伝えればいいんだ!」と気づくことがあるかもしれません。 性的マイノリティの人への合理的配慮とは? ――これまで障害のある方の話がメインでしたけど、障害のない人にも合理的配慮の提供をすべきなのでしょうか? 喜多 僕は必要だと感じています。先ほどの社会モデルの考え方を思い出してください。合理的配慮は環境のあり方によって生じた格差を埋めるために行うとお話ししましたが、それに該当する場合が少なくないからです。 ――最近よくメディアでも取り上げられる、性的マイノリティに対してはどのようなことに気をつければよいのでしょうか? 喜多 例えば、同性パートナーでは病状の説明や同意書へのサインができないという問題があります。10年、20年と一緒に暮らしているにもかかわらず、「大切な署名ですのでご家族さんでなければ……」と戸籍上の家族でないことで断られてしまうことは少なくありません。 ――その方の気持ちになると、なかなかつらいものがありますね。同性パートナーであってもなくても、同じように円滑に入院生活を進められるようにしたいですね。 喜多 他にもナースの身近なところでは、外来や受付などで保険証で記載されているフルネームで「呼ばない」ということが挙げられます。名前から想定される性別と見た目から想定される性別が異なっていた場合には、それだけで周囲からの視線がつらいものになってしまいます。最近では増えてきていますが、受付番号で呼ぶといった対応が必要です。 ――え~! ナースだと患者間違いをしてはいけないから、フルネームで確認することが身についているので驚きです。でも、外来でいろんな人がいるなかで呼ばれるのと、病室で名前を確認するのとでは、ちょっと話が違いますよね。 喜多 そうなんです。あらためて考えてみると慣習的に行われているだけで、じつは改善の余地のあることがたくさんあるはずです。「こういうところって見直せるんじゃないかな?」と日々の業務や患者さんとのかかわりを見直してみるのもよいですね! 最後に 合理的配慮と聞くと「また新しい仕事が増えるのか……」と負担に感じてしまうかもしれません。しかし、患者さんが安心して医療を受けられることにもつながり、それによってナースの業務が楽になる場面も増えてくるはずです。ナースにとってよい循環を生み出すきっかけになると考えています。 合理的配慮……社会モデル……。難しい言葉がたくさん出てきましたが、大切な考え方は「患者さんと丁寧に話をしよう!」です。患者さんが困っていることがあれば、しっかりと話を聞いてできることを検討し、それで十分かを一緒に考える、話し合うことがあたりまえの医療現場になっていけばうれしいです。 本稿を執筆するにあたり、臨床心理士・公認心理師の初川久美子様に有益な助言をいただきました。心より感謝申し上げます。 編集協力をしてみて 医療従事者として個人の症状や障害に目を向けがちでしたが、対話や社会環境を整えることの大切さに気づきました。また、誰もが安心して医療を受けられる環境づくりは、誰もが働きやすい職場づくりにもつながるかもしれないと思いました。1人ひとりの困りごとに耳を傾け、チームで知恵を出し合いながら、できることから始めていきたいです。(白石弓夏) 参考文献1.内閣府ホームページ:障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針.https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/honbun.html(2026.3.2アクセス)2.外務省ホームページ:人権外交 障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)(Convention on the Rights of Persons with Disabilities).https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html(2026.3.2アクセス)3.内閣府ホームページ:リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました」.https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_leaflet-r05.html(2026.3.2アクセス) この記事を読んだ方におすすめ●【連載まとめ】ナースが共有したい看護介入・ケア実践事例●【連載まとめ】看護研究からわかる患者さんのこころの中●そのほかの連載記事はこちら ※この記事は『エキスパートナース』2025年4月号特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。
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