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慢性心不全の終末期ケア:告知・臨死期・死亡時の看護のポイントを解説
循環器疾患(慢性心不全)の終末期ケアのポイントは?告知から死亡退院時の各時期における、看護師に求められる役割を解説します。 患者設定 ●Bさん 85歳女性●心筋梗塞後の心不全増悪を繰り返し、末期心不全と診断された。●長年、高血圧症と糖尿病で内服治療を行ってきたが、75歳のときに急性心筋梗塞を発症しカテーテル治療をした。●入院中には心臓リハビリテーションなどを行い、内服管理指導、栄養管理指導なども受け、退院後は自宅での生活を送っていた。介護者は夫で、入院中の生活指導も一緒に受けており、協力的にBさんのサポートを行っていた。●内服管理、栄養管理などは継続していたが、何度か心不全増悪が起こり、救急搬送され入退院を繰り返していた。●今回も急性心不全のために入院したが、酸素投与、点滴治療でも改善が乏しく、今後の治療方針について、本人、夫、長男と話し合いが行われ、緩和ケアへの方針をとることとなった。●Bさんは「なるべくなら、自宅で過ごしたい。しんどさを減らせるようにお願いしたい。延命処置はしないでください」と話し、夫と長男も、「本人がつらくないように生きられたらいいです。延命処置は望みません」と話している。 心不全の終末期の概要 日本循環器学会によると、2026年現在の日本での心不全患者は約120万人といわれており、少なくとも2035年までは増え続け、132万人程度になると推定されています1。心不全は、65歳を超えるころから年齢とともに罹患率が増加することから、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年以降には、心不全患者がさらに増加することが予測されます。爆発的な心不全患者の増加を、感染症の大流行になぞらえて「心不全パンデミック」と表現されることもあります。 心不全とは、「心臓の構造・機能的な異常により,うっ血や心内圧上昇,およびあるいは心拍出量低下や組織低灌流をきたし,呼吸困難,浮腫,倦怠感などの症状や運動耐容能低下を呈する症候群」と定義されています2。 心不全は単一の疾患ではなく、多様性を示す臨床症候群であるため、心機能障害から、血行動態、病態、時間経過、重症度などにいたるまで、さまざまな視点での評価が重要となります。慢性心不全においては、がんとは異なる病の軌跡をたどり、急性増悪による入退院を繰り返しながら、最期は比較的急速に悪化するため、終末期の判断は困難であるといわれています(『2025年改訂版心不全診療ガイドライン』p.19-20参照)2。 しかし、心不全患者では、医学的な要素以外にもフレイルやサルコペニアなどの身体的要素、うつや認知機能障害などの神経・精神的要素、独居などの社会的要素などのさまざまな要素が、特に高齢者で認められることが多いため、医学的な側面以外に、社会資源の活用も含めた多方面からの介入が必要となります。 こちらもチェック!●心不全患者へのACP支援はどうする? 心不全の余命告知時における看護師の役割は? ポイント● 心不全の予後予測は立てるのが非常に難しい。● 患者さんが、“今”体調をどう感じ、どう生きたいと思っているかを知ることが大切である。 心不全の経過は治療がどれだけ功を奏すか、治療をしてみないとわからない部分があります。そのため、予後予測が非常に難しいのです。予後予測が立てにくいからこそ、予後告知は「あと○か月」と明確にはしにくいのです。そのため「いつ悪くなってもおかしくありません」「治療がどこまでできるかわかりません」という曖昧な予後告知となる可能性があります。それでも増悪を繰り返すたびに、自分の体調が悪くなり、生活がしづらくなっていくことを、患者さんや家族は感じています。大切なことは、患者さんが今の自分の体調をどう感じ、自分に残された時間をどう生きたいと思っているのか、知っていくことです。 心不全の余命告知時~看取り期における看護師の役割は? ポイント●心不全の緩和ケアは早期から介入し、患者さんのQOLを保つことを意識する。●看護師は多職種連携のコーディネーターとしての役割を担う。 心不全の緩和ケアは、終末期から始まるのではなく、心不全症状が出現した早期から介入を開始し、病態の進行に合わせて緩和ケアの内容を増やしていく必要があります。予後に焦点を当てるのではなく、患者さん・家族のニーズに応じて患者さんのQOLを損なっている問題点の整理を行い、症状や社会的問題、精神心理的問題などに対しての多職種によるサポートや、必要な意思決定支援(ACP)を考えていくことが重要となります(『2021年改訂版 循環器疾患における緩和ケアについての提言』p.16「心不全患者における緩和ケアの提供体制」参照)3。そのため、看護師は医療従事者と患者さんと家族間のコーディネーターとしての役割が期待されています。患者さん・家族、病院医療チーム、在宅医療チームとの情報共有が重要です(図1)。 図1 余命告知時~看取り期の多職種連携 [連携の内容]①生活指導の内容などを在宅医療スタッフとも共有する②退院後の患者さんの状況や指導内容が活かされているかの共有③病院での指導内容を引き継ぎ、患者さん・家族とともに実践④自宅での生活での成功点や疑問点をともに振り返る⑤患者さん・家族から「まだ動けるうちにやりたいことがある」と希望があったら、各所と相談し一時外出、一時外泊、一時退院などができるようサポートする⑥過ごし方の希望、治療に関する疑問、家での生活状況を伝える このブロック以降のコンテンツは非表示になります [その他の連携]●院内に専門職種(緩和ケアチーム、認定看護師、専門看護師、心不全療養指導士など)がいる場合は、早めに相談しておく●退院前カンファレンスを活用し、再発予防やACPについて早期に話し合えるようにする 心不全の臨死期における看護師の役割は? ポイント● QOLに影響を及ぼす症状が持続する場合は、緩和ケア的アプローチの追加を検討する。● 患者さん・家族の意向をもとに方針を決定、つど検討していく。 末期心不全における症状については、心不全自体に由来するものや併存症によるもの、全身状態や治療の副作用に伴うものなどがありますが、これらはQOLを損なう大きな要因となります(表1)。 表1 末期心不全におけるQOLを損なう大きな要因 心不全治療そのものが症状緩和につながることが多いですが、ガイドラインに基づいた適切な心不全治療にもかかわらず、持続する症状に対しては、緩和ケア的アプローチの追加が検討されます(『2025年改訂版心不全診療ガイドライン』p.63-64「心不全治療のアルゴリズム」参照)。 積極的な治療、延命治療を望んでいないBさんは、ステージDにおける最善の心不全治療を継続しながら、症状緩和については本人と家族と医療チームで、そのつど検討していくことが大切となります。「積極的な治療を望んでいない=何も治療しない」ではなく、例えば原疾患以外による急な病変(窒息、転倒による骨折・外傷)に関しては、検査や治療を行います。 Bさんは、呼吸困難や倦怠感が持続しており、何とか軽減できないかと話されています。医師は、酸素投与に加え、利尿薬や血管拡張薬などできる限りの心不全治療で経過を見ていましたが、改善する様子がありませんでした。本人、家族との話し合いで、少量のオピオイドによる苦痛の緩和を行うことになりました。 家族からは「麻薬を使うと体に悪いのではないのでしょうか?」と質問がありましたが、主治医からも安全性のある範囲での使用であること、呼吸困難という苦痛の緩和をすることで、本人も安楽に生活できるとの説明を受け、安心されています。 数日後、呼吸困難は増悪し、全身状態も悪化、尿量も少なくなっていました。Bさんからは「このつらい状況を早く終わらせてほしい。もう十分生きました」との言葉が聞かれるようになりました。夫・長男からも「本人の意向に沿いたいと思います。見ていてつらいです」との意向を聞きました。主治医との話し合いを設け、持続鎮静を開始することとなりました。 本人、家族との時間を設けたあと、持続鎮静を開始しました。鎮静開始して2日後に、穏やかな表情で永眠しました。 心不全の死亡時における看護師の役割は? ポイント●家族が故人とお別れをするのに適切な環境を整える。●希望があれば、家族もエンゼルケアを行うことができる。 家族が故人に、お別れの言葉や感謝の言葉を伝えられるように、環境を整え時間を設けます。ひととおり時間が設けられたら、看護師から声をかけ、医師の死亡確認を行います。本人に装着されているモニターや点滴の音は可能な限り消しておきましょう。医師に死亡診断書の記載を依頼すると同時に、病棟管理者(師長または管理当直師長)にも連絡し、家族に各事務手続きの説明を行ってもらいます。 死亡確認が終わりしだいエンゼルケアを行います。点滴やチューブ類、モニターなどは、先に外しておきましょう。家族のなかで一緒にケアをしたい方には声をかけて一緒に行います。その際には、生前の本人との思い出や闘病生活での想いなどを聞きながら行うのもよいと思います。体をきれいに整えた後は、エンゼルメイクをしておきます。 Bさんの表情はとても穏やかでした。夫も長男も「最期に苦しい思いをしなくてよかった。よくがんばってくれたね。ありがとう」と、本人に語りかけていました。体を拭く際には、「僕たちは大丈夫です、お願いします」とのことでしたが、体を拭いた後のお顔拭きの際に声をかけ、夫と長男と一緒に行いました。 心不全の死亡退院時における看護師の役割は? ポイント●家族が落ち着いたタイミングで、葬儀会社へ連絡をしてもらう。●迎えが来るまで家族と故人が一緒に過ごせるようにする。 エンゼルケアが終わり、ご家族も落ち着かれたタイミングで、葬儀会社への迎えの連絡を依頼します。 迎えが来た際には、スムーズに車まで移動ができるようにエレベーターを停止させておくなどの配慮をしておきましょう。 (第6回) 引用文献1.日本循環器学会編:心不全療養指導士認定試験ガイドブック 改訂第二版.南江堂,東京,2022:2.2.日本循環器学会,日本心不全学会.2025年改訂版心不全診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf(2026.3.19アクセス)3.日本循環器学会,日本心不全学会:2021年改訂版 循環器疾患における緩和ケアについての提言.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Anzai.pdf(2026.3.19アクセス) 参考文献1.日本終末期ケア協会監修:終末期ケア専門士 公式テキスト 第2版.アステッキ,兵庫,2023.2.日本循環器学会編:心不全療養指導士認定試験ガイドブック 改訂第2版.南江堂,東京,2022.3.大石醒悟,高田弥寿子,竹原歩,他編:心不全の緩和ケア 心不全患者の人生に寄り添う医療 改訂2版.南山堂,東京,2020.4.松田能宣,山口崇編:これからはじめる 非がん患者の緩和ケア 第2版.じほう,東京,2023.5.平原佐斗司編著:チャレンジ! 非がん疾患の緩和ケア.南山堂,東京,2011.6.日本循環器学会:2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf(2023.8.20アクセス) この次に読まれている記事●【事例紹介】心不全患者の終末期における「その人らしさ」を尊重した看護介入●心不全患者へのACP支援はどうする?●心不全パンデミックとは?看護師が備えておくべきこと●そのほかの連載はこちら ※この記事は『エキスパートナース』2023年10月号特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。
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