20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 (ライフサポート社、2020年)。
この連載では、本書に収載された看護の現場や看護職の想いだけでなく、個人としての視点や感性も込められた366の言葉を、毎日1つずつご紹介します。
病人にとって
過去に食べた美味しい食物
懐かしい味が食欲を引き出す
きっかけになる
<ひとすじの素麺がきっかけ食に>
第二次大戦で救護看護婦として病院船に乗船した先輩から聞いた話である。点滴などのない時代であり、まして船上の不自由な生活である。腸チフスなどにより食欲がなく、衰弱しきった兵士の口に合うものはないかと探しているうちに、船底の食料倉庫の床に落ちていた数本の干し素麺をみつけた。早速茄でて「さあ、故郷のお母さんの懐かしい味」と言って勧め、涙を流して啜った素麺がきっかけで薄いお粥を口にするようになったという。
これは、重症患者へのきっかけ食のヒントになった。病人にとって過去に食べた美味しい食物、懐かしい味が食欲を引き出すきっかけになることを、その後、梅の甘煮や一粒のマスカットがきっかけになった例など数多く経験した。経管栄養や胃瘻造設に安易に走る昨今には通じない話であろうか。
(出典:『いま、看護を問う』47ページ、看護の科学社)
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