日々の看護業務のなかで感じるさまざまな悩み。内容によっては他職種に相談することで、すぐに解決するかもしれません。どんな状況で、どんな職種の人が頼りになるか、現場の声から考えます!
【第1回】リハスタッフとの申し送りが難しい!
【第7回】嚥下訓練中の患者さんの食上げ、段階を上げるかどうかの判断が難しい!
「チーム医療」の関連記事はこちら
タサモたさも
臨床工学技士(CE)
地方の小規模病院に勤務。医療機器の保守・点検・管理をしつつ、機器の安全管理についての勉強会を行い、周知活動をしている。
クラークくらーく
診療放射線技師(RT)
地域中核の総合病院勤務。施設内だけでなく、地域医療圏へ向けたMRIに関する安全啓発活動も行っている。
●臨床工学技士(CE:Clinical Engineer)
病院で使用する医療機器を取り扱う仕事。生命維持管理装置の保守・点検を行い、安全に、安心して機械が使用できる環境を維持する。また病棟をはじめ、透析室・集中治療室・手術室・心臓カテーテル室などで人工呼吸器や人工透析装置を操作して、治療に携わっている。
●診療放射線技師(RT:Radiological Technologist)
放射線機器やMRIなど、各種画像診断機器を扱う。検査に関連することとして、撮影以外にも画像精度管理、診断支援画像の作成、安全管理、放射線管理、医療情報管理などを行う。
禁忌事項が多いMRI検査!どんなことを優先的に注意したらいいの?
MRI(magnetic resonance imaging:磁気共鳴画像診断)の禁忌事項として、金属の持ち込みがダメだということはわかりますが、他にも覚えることやチェックすることが多く、何を優先的に見ていけばよいのか悩むことがあります。
また先日、磁気をもつタイムカードを名札ケースにしまっていて、MRI室で取り外すのを忘れてしまい、カードが使えなくなったということもありました。まさかこんなところで……と思いました。このように、MRIの禁忌事項について、あまり知られていないけれど「じつはこんなことにも注意!」という点があったら知りたいです。
MRI検査時にナースが気をつけたいこと
MRI検査は、X線検査やCT検査などの他の画像検査とは異なり、強力な磁力に関する医療事故が発生しうる点に注意しなければいけません。医療機器に詳しい臨床工学技士(CE)と、MRI室の現場で働く診療放射線技師(RT)にポイントを聞いてみました!
現場で起きている事例から学ぼう
MRIに持ち込んではいけない物品や体内金属(ペースメーカー、体内除細動装置など)、顔料に金属成分を含む刺青(いれずみ)など、注意点は非常に多岐に渡ります。それらの多くは医師により検査の可否の判断が行われますが、検査に向かう段階で気をつけたいのは「所持品」です。所持品については、医療者と患者さんの双方に注意を払う必要があります。
実際の金属持ち込み事例に関する過去の報告を見てみましょう(下記)¹。このように一見、多くの人が「持ち込んではダメ」とわかっていそうなものが意外にも上位を占めています。そのため、特殊なものを周知することと同時に、日々のルーティンチェックが重要ということがわかります。
MRIへの金属持ち込み例
医療者
1位 ボールペン
2位 ヘアピン
3位 ヘアクリップ
患者さん
1位 ヘアピン
2位 鍵
3位 ライター
(文献1を参考に作成)
MRIで気をつけたい意外なもの
患者さん側で気をつけるべき意外なものとして、以下のようなものがあります。
●保温性の高い下着
保温性が高いことで汗をかきやすく、検査中に発生する磁場による電流から熱傷のリスク要因となるため、MRIでは着替えなければいけません²。
●カラーコンタクトレンズ
色がついている部分に金属が含有されていることがあるため、取り外す必要があります³。
●アイメイク、化粧
化粧品のなかには熱上昇を起こすものもあります¹。それだけでなく画像も劣化させます。実際の検査でも、化粧の影響で眼球が半分ほど映らなくなったことがありました。これでもし眼球の疾患を見逃したら……と思うと怖いですね。
●薄毛隠し用の粉末
これにもMRIに引きつけられる素材が使われていることがあります²。粉末がMRIに付着すると取り除くのに特殊な作業が必要となるため、数百万円の損害を生むこともあります。ただし、面と向かって問いただすと患者さんに恥ずかしい思いをさせてしまうので、事前の問診票などを活用し、「増毛パウダー」などの項目を足すとお互いに気まずくならないかもしれません。
*
医療者側の注意点としては、磁気を利用したカードなどを持ち込むと使用できなくなってしまうことが知られています。他にも特に注意が必要なのはアンクルウェイトです(図1)。足につけたアンクルウェイトが磁気で引かれ、MRIに足ごと吸着された事例もあるくらいです¹‚⁴。トレーニングを趣味にしている人は注意しましょう。
一見大丈夫そうでも、きちんと確認が必要なもの
じつは、名前だけ見ると勘違いしてしまいがちなのが「MRI対応心臓ペースメーカー」です。MRIでは絶対禁忌とされてきた植込み型心臓ペースメーカーですが、近年はMRI対応のペースメーカーが続々と出てきています。
ただし、MRIに対応しているからといって、そのまま検査をしてよいわけではありません。検査にあたってはさまざまな条件を満たさないと、実施することができないからです。
まず、病院がMRI対応心臓ペースメーカーの施設基準を満たしていること。また、対応する医師や臨床工学技士、診療放射線技師、看護師、臨床検査技師が研修を受けていることが必要となります。実際に検査を行う場合には、事前にペースメーカーチェックを行い、ペースメーカーをMRIモードに変更する必要があります。
まだまだMRI非対応のペースメーカーが多く、対応しているペースメーカーに当たることも少ないため、突然患者さんからペースメーカー手帳やMRI対応カードを提出されて気づくこともあるかもしれません。そのため、対応するスタッフが十分に注意する必要があります。
ペースメーカーの機種によっては撮像条件が決められている場合もあるため、ペースメーカー手帳・カードをしっかり確認し、医師、看護師、臨床工学技士、診療放射線技師とあらゆる角度から確認して実施する必要があります。
MRIに関する注意点は日々アップデートされますので、なかなか覚えきるのが大変です。チェックシートなどを用いながら随時わかりやすく更新し、みんなで相互に声をかけ合うことで、安全文化を形成しやすい雰囲気をつくりましょう!
- 1.土井司,山谷裕哉,上山毅他:MR装置の安全管理に関する実態調査の報告―思った以上に事故は起こっている―.日本放射線技師学会雑誌 2011;67(8):895-904.
2.土井司:MRIにおける患者サービスと安全確保の境界~歯科インプラント,タトゥー,化粧品などへの対応~.日本磁気共鳴医学会雑誌 2020;40(2):72-81.
3.天内廣:産学共同事業:「MR装置とコンタクトレンズとの相互作用に関する実地検証」報告.日本放射線技師学会雑誌2007;63(4):390-393.
4.公益財団法人日本医療機能評価機構 医療事故防止事業部:医療事故情報収集等事業 第50回報告書(2017年4月~6月).
https://www.med-safe.jp/pdf/report_50.pdf(2024.8.7アクセス)
薬について医師に直接提案しても通らないことが多い……薬剤師にどう相談すればよい?【多職種連携でわからないことは、他職種に聞こう:第9回】(11月23日配信予定)
この記事は『エキスパートナース』2021年11月号連載を再構成したものです。
当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。