島根県にある隠岐広域連合立隠岐島前病院(以下、隠岐島前病院)では、2024年11月に「看護師が使いこなす エコーハンズオンセミナー」が開催されました。「看護師が活用するエコーの有用性をもっと多くの施設に広めたい」「看護師エコーレベルをもう一段上げたい」との思いから開かれたこのセミナー。セミナー開催メンバーとなった現場の看護師の声をお届けします。
エコーの活用がチーム医療の質向上や、
看護師のキャリア形成につながる
奥本良美看護師
7月の終わり、突然その時がやってきました。院長から「大事な話がある」と声をかけられ、何事かと思いながら話を聞きに行きました。そこで伝えられたのは、まったく予想もしていなかった「看護師エコーセミナーをこの病院で開催する」という話であり、そのメンバーに加わってほしいという依頼でした。
しかし、私はこれまで積極的にエコーを用いて患者さんの状態を評価することはもちろん、医師が行うエコーに興味をもったことすらなく、なぜ自分が選ばれたのか不思議でなりませんでした。
膀胱エコーについては経験があったものの、IVC(下大静脈)測定に関しては、医師が行う様子を見よう見まねで試みる程度で「これが本当にIVCなのか」と、その都度医師に確認してもらう必要があるレベルでした。
セミナー準備のため、勤務終わりに院内関係者と勉強会を行う日々
そんな私の不安をよそに、看護師エコーセミナーのスタッフが決まり、急ピッチでの準備が始まりました。私はまず、毎日エコーの機械の操作方法やプローブの走査方法に慣れることからスタートしました。
勤務終わりに院長や医師たち、医療秘書、事務を巻き込んでエコーの勉強会を行う日々が続きました。皆さんが時間外にもかかわらず遅くまで練習に付き合ってくださったことに、深い感謝の気持ちを抱きました。これまで一度もエコーの研修に参加したことがなかった私は、大阪まで足を運び、エコー研修にも参加しました。


「訪問看護ステーション おひさま」を立ち上げ、ストーマケア、褥瘡ケア、糖尿病の方のフットケアなどにエコーを活用しておられる西川貴子さん。「医療法人 社団静和会 静和記念病院」の皮膚・排泄ケア認定看護師で、エコーを用いた排便ケアや排尿機能評価に関する講演や執筆活動をされておられる畠山誠さん。「春秋会 城山病院 心臓血管センター」心不全療養指導士で、心機能評価や患者ケアにおいてエコーの知識や経験が豊富な石原一志さんなど。
看護師エコーの普及に尽力されてきた先駆者の方々を紹介していただき、外部講師として準備段階からアドバイスをもらうことで、エコーセミナーのノウハウを学び、非常に多くの知見を得られました。
セミナー準備では、事前学習用スライドの作成やYouTube動画の制作、講義内容の計画など、はじめての挑戦ばかりで悪戦苦闘の連続でした。それでも、周囲の支えに助けられながら、ひとつひとつ乗り越えていきました。
苦手なパソコン操作を手取り足取り教えてくれた医療秘書。幾度も練習モデルになってくれた医療事務。CT画像を使って解剖生理を教えてくれた若手医師。セミナー当日や後日にもご褒美スイーツを作ってくれた医師。膨大な量の動画や静止画を撮影してくれた薬剤師と事務長。運営を陰ながら支えてくれた事務責任者。このセミナーを発案してくれた参与。全体を見守り、ホストとしてセミナーを成功に導いてくださった院長。
これら多くの方々の支援と協力があってこそ、無事にセミナーを開催することができました。

病院全体で看護師のエコー活用をバックアップ
セミナー後、参加者の方々からは「看護師や医師だけでなく、病院全体として取り組んでいる姿に感激した」「医師が看護師の行うエコーをしっかりサポートしていることが印象的だった」といった感想を多くいただきました。
患者さんの状態を迅速かつ非侵襲的に評価できるエコーを看護師が活用することで、訪問看護や在宅医療の場面でも早期の対応が可能になり、効率的なケアが実現できると考えます。診断や治療のためだけでなく、看護師の視点からエコーを活用できれば、地域を支えるチーム医療の質を向上させるとともに、エコーの技術を習得することは看護師の専門性を高め、キャリア形成にもつながります。
しかし、今回のセミナーで、看護師がエコーを活用することを医師や上司から快く思われず、思うようにエコー活用ができないという悩みを多く聞き、看護師が当然のように複数のエコーを使用でき、セミナーを開催するとなれば病院全体でサポートしてくれる当院の環境がいかに恵まれているかを再認識することができました。
今回のセミナーで出会い、親睦を深めた方々とのつながりは、私の看護師人生において大切な財産になると確信しています。このつながりを大切にしながらエコー技術の研鑽を続け、患者さんの状態を的確に評価し、患者さんの行動変容につなげられるような説得力のある画像描出と説明する力を身につけ、より良い看護ケアを提供できるよう努力を重ねていきたいと思います。
そのほかのセミナースタッフの声
髙橋ルミコ看護師
今回のエコーセミナーを通して、エコーを学びたい看護師の方々がこんなにも全国にいることにまずは驚きました。エコーが身近にある私たちの職場環境がどれだけ特別な環境なのか、看護師がエコーを当てることについての理解をしている医師や看護師の仲間がいることがとても大きいことも、あらためて気づかせられる機会になりました。
5年前に入職して使い始めた当初や、1年前の自分と今を比較しても、エコーの当て方・見方、用語に関する理解など、スキルが上がっている実感があります。
今後も自己研鑽を積みながら、エコーを学びたい方の一助になっていけたらと思っています。
足立茉緒看護師
先輩看護師から声をかけてもらい始まったセミナー準備。最初はエコーにそこまで興味があったわけではなかったため、私でいいのかという不安しかなかったです。ですが、院長をはじめ、メンバーみんなでエコーについて勉強したり、技術が向上したりしている時間はとても有意義なものでした。
また、私にとって当たり前だったエコーのある環境が、どれほど恵まれたものだったのかを知りました。看護師として未熟な私でもエコーを使えるようになったことで、受講生や外部講師の方とエコーについて話せたこのセミナーは、今までで一番楽しい時間でした。当院の職員にも「すごく生き生きしてたよ」と声をかけていただきました。
それほど今回のセミナーは私にとって大きなもので、看護の幅を広げるものとなりました。今回の開催で満足せず、今後もエコーについて深めていきたいと思います。
谷知看護師
今回のエコーセミナーを通して、なんとなくで使ってしまっていたエコーを仕組みや解剖と病態生理から勉強し、理解を深めることができました。また、その学びを受講生のみなさんに共有することで、よりエコーのよさを理解できたと思います。
疑問を共有しながらいろいろな工夫をし、理解を深めていった準備過程の時間は、とても充実していました。学びをこれからも深めていき、看護に活かしていきたいと思います。
尾崎美香看護師
他県の総合病院で働いてた私は、この病院に入職したとき、看護師が当たり前のように臨床でエコーを使ってケアをしている姿がとてもカッコよく見えました。いざ自分もその一員になりエコーを使い始めると、基礎がわかっておらず苦戦したことを覚えています。
今回のセミナーを通してエコーの基礎を理解し、人に伝えることでより臨床で自信をもって実践できるようになりました。自分のエコー技術が向上し、患者さんの苦痛を早期に発見できたときはとてもうれしかったです。
セミナー当日は向上心のある受講生の皆さんとたくさん交流でき、とても刺激的で、もっと患者さんのためにエコーを学びたいと思いました。
隠岐島前病院の概要

島根半島の北、約65kmの日本海に浮かぶ隠岐諸島は、島前(どうぜん)と島後(どうご)からなります。西ノ島、中ノ島、知夫里島の3つの島を合わせた島前は、人口5,348人(2024年7月末現在)の小さな地域で、本土からフェリーで2時間半の西ノ島に、隠岐島前病院は位置しています。
島前の医療機関は、3島にそれぞれ公立診療所があり、開業医はいません。そしてその中核的医療機関として、隠岐島前病院があります。島前地域で入院可能な医療機関は隠岐島前病院の44床(療養型病棟44床うち地域包括ケア病床18床、2025年1月現在)だけになります。
隠岐島前病院では、7名の常勤総合診療医が、内科、小児科、外科外来を行い、産婦人科、耳鼻科、眼科、精神科、整形外科の非常勤医師による診療を合わせて8科目の標榜診療科があります。そのなかで、急性期から慢性期、さらには終末期における入院・外来・訪問診療という一連の流れに多職種が継続的に関わっています。
「住民が安心して生活できるための医療を継続的に提供する」ことを掲げ、小さな島の医療を守り続けること、患者さんにとっての一番を考えることを大切にしています。私たちは、島の医療者でもあり一住民でもあります。島という小さいコミュニティーの中で、“その人らしく生きること”を意識しながら、住民の方々と向き合い、暮らしに寄り添いながら医療・看護を提供しています。
隠岐島前病院では以前から、総合診療の1つの柱として、医師がエコーを活用しています。すべての診療室にエコーが置いてあり、事あるごとに、全身どこでもプローブを当てて診療を行っています。
そのなかで、エコーに興味を持つ看護師も現れ、医師が指導しながら病棟診療や訪問診療でエコーを活用し、徐々に看護部全体に広まっていました。特に排尿・排便コントロールについては、近年は医師が指示することなくエコーを活用した看護を実践しており、皆が有用性を実感しています。
今回、隠岐島前病院白石吉彦参与の発案で、「看護師が活用するエコーの有用性をもっと多くの施設に広めたい」、そして「島前病院の看護師エコーレベルをもう一段上げたい」、という思いで、エコーセミナーを開催することとなりました。
セミナーを通じて、看護師のエコー技術の向上と普及に向けた大きな一歩を踏み出すことができました。今後も継続的な研修を通じて、看護師のスキル向上と地域医療の発展に寄与していきます。
次回セミナーの開催告知


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