おさえておきたいこと

接触皮膚炎とは
●いわゆる「かぶれ」のことで、 皮膚科診療では頻度の高い疾患
●漫然とステロイド外用薬を投与し続けることでこじらせてしまうことがある
●接触皮膚炎の標準的で正しい診療を普及させるため、『接触皮膚炎診療ガイドライン』が作成された

ガイドライン作成の背景と改訂のポイント

 接触皮膚炎はいわゆる「かぶれ」のことを指し、皮膚科診療のなかでは頻度の高い疾患です。かぶれの原因を除去すれば治癒する疾患ですが、原因の特定がされないまま、症状に対して漫然とステロイド外用治療をする対症療法が行われ、症状をこじらせてしまうことがあります。

 そのため原因を推定し、原因を特定するためにパッチテスト検査を活用し、その結果を適切に解釈し、原因を除去することが必要です。

 『接触皮膚炎診療ガイドライン』は、接触皮膚炎の標準的で正しい診療を普及させることを目的に作成されました。

 改訂版となる2020年版には、本邦における最近の疫学調査が加えられ、パッチテストのジャパニーズベースラインシリーズ(JBS)の内容がJBS2015に改訂されています。ガイドラインの内容としては、次の6つを中心に記載されています。

①症状 ②病態 ③疫学 ④パッチテストの方法
⑤アレルゲン(原因)の推定 ⑥治療・予防

 今回は、ナースの皆さんに役立つ内容を選び、それぞれの概要を解説します。

おさえておきたいこと

接触皮膚炎対応のポイント
●接触皮膚炎のなかでも、「刺激性」と「アレルギー性」のものが特に頻度が高い
●化学物質への接触が原因である刺激性皮膚炎の場合、保湿などの予防も重要である

『接触皮膚炎診療ガイドライン2020』の要点

①症状

 症状は一部に限局した湿疹病変(丘疹〈きゅうしん〉や小水疱、紅斑〈こうはん〉、図1)のことが多いですが、原因によっては全身に広がることもあります。

図1 接触皮膚炎の症例写真
接触皮膚炎の症例写真

②病態

 接触皮膚炎は、「(1)刺激性接触皮膚炎」「(2)アレルギー性接触皮膚炎」「(3)光接触皮膚炎(光毒性接触皮膚炎、光アレルギー性接触皮膚炎)」「(4)全身性接触皮膚炎・接触皮膚炎症候群」「(付)接触蕁麻疹」に分類されます。このなかで頻度が高いのは、(1)と(2)です。

 刺激性接触皮膚炎は化学物質の特性によって皮膚のバリアが破綻することに始まる皮膚炎で、原因例を挙げると洗剤やマスクがあります。物質の特性によって起こるため、誰にでも生じますが、もともとアトピー性皮膚炎など皮膚バリア機能が弱い人に頻度が高いことが知られています。

 アレルギー性接触皮膚炎はまず原因物質による感作が起こり、その後再度同じ物質が接触したときに症状が誘発される惹起(じゃっき)反応が起こります。原因例を挙げるとゴム手袋に含まれる加硫促進剤や毛染め剤などがあります。

③疫学

 JBS2015の陽性率の全国調査が行われており、その結果からはニッケル、金、ウルシオール(ウルシやギンナンに含まれる)、パラフェニレンジアミン(毛染めの成分)の陽性率が高いことがわかりました1。 また患者の持参品を用いた検査では、化粧品、OTC医薬品に対する陽性率が高いという結果になっています1

④パッチテストの方法

 JBS2015は本邦での陽性率が1%以上の化学物質を組み合わせたもので、日本皮膚免疫アレルギー学会の接触皮膚炎班によって定期的に内容が吟味されています。主に接触皮膚炎の原因をつきとめるために患者の背部に貼付し、スクリーニングに用います。
 
 JBS2015の概要を以下に示します。JBS以外にも、金属シリーズやレジンシリーズ、化粧品シリーズ、患者の持参品などを貼付することがあります。

JBS2015に含まれている接触皮膚炎を起こしやすい化学物質

金属
●硫酸ニッケル ● 重クロム酸カリウム
●塩化コバルト ●金チオ硫酸ナトリウム
●塩化第二水銀
防腐剤
●イソチアゾリノンミックス ●パラベンミックス
●チメロサール ●ホルムアルデヒド
化粧品・日用品
●ラノリンアルコール ●パラフェニレンジアミン
●香料ミックス ●ペルーバルサム
薬品
●カインミックス ●硫酸フラジオマイシン
樹脂
●ロジン ●エポキシ樹脂 
● パラターシャリーブチルフェノールホルムアルデヒド樹脂
ゴム関連物質
●チウラムミックス ●メルカプトベンゾチアゾール
●メルカプトミックス ●カルバミックス
●黒色ゴムミックス
植物
●ウルシオール

(文献1をもとに作成)

 パッチテストは背部の傍脊柱部分に貼付し、48時間後に貼付した試薬をはがし、貼付72時間後、1週間後に判定を行います。
 判定はICDRG基準にのっとって行われます(図2)。

図2 図1で行ったパッチテストの結果(貼付から72時間)
図1で行ったパッチテストの結果(貼付から72時間)
水疱と、その周囲に紅斑が生じている(香料ミックス3+の陽性判定であった)

*【ICDRG基準】international contact dermatitis research group(国際接触皮膚炎研究班)によるアレルギー反応の判定基準。紅斑や浮腫、丘疹、水疱などによって判定する。

⑤アレルゲン(原因)の推定

 症状から接触皮膚炎を疑った場合には、問診や部位から原因を推定します(文献1、p531参照)。
 問診で大切なことはいつから・どのような状況で皮膚症状が出現したか、職業は何かなどの生活歴を聴取して、パッチテストにつなげていくことです。

⑥-1 治療

 治療の基本は原因の除去のうえステロイド外用を行うこと、抗ヒスタミン薬を内服することですが、難治性の場合には紫外線照射を併用することや免疫抑制薬のシクロスポリンの使用を検討することもあります。

⑥-2 予防

 化学物質の特徴で起こる刺激性皮膚炎の場合には、予防も大切です。コロナ流行下においては病院でも頻繁に手を洗い、マスクを長時間着用する必要があります。

 手の洗浄に使う洗浄剤はもちろんですが、アルコール消毒薬も刺激性接触皮膚炎を起こします。マスクも擦れや蒸れが、刺激性皮膚炎、ざ瘡の原因になります。

 手は予防的にバリアクリームを塗ること、保湿をすることが推奨されています。 マスクに関しては、口の動きに合わせて動かないように鼻にしっかり合わせること、立体的にマスクを広げることが重要です。また必要に応じたこまめな装着・着脱も大切です。

1.日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン改定委員会:接触皮膚炎診療ガイドライン2020:523-567.
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/130_523contact_dermatitis2020.pdf(2024.5.27アクセス)

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この記事は『エキスパートナース』2022年7月号の記事を再構成したものです。
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