『末期ガンでも元気です 38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』【医療漫画を語り合う会：番外編】

　いまや学習のツールは、教科書や参考書からYouTubeといった動画教材、VRまでさまざま。そのひとつとして、医療漫画にも注目したいところ。医療監修や取材によって細部まで丁寧に作り込まれた作品や、原作者が医療者ということもあって現場のリアルが身近に感じられる作品などがそろいます。

「こういう看護師、医師がいたらいいなぁ」
「これは同じような経験したことがある、大変だよね」
「そうか、こうした考えはなかった」
「名前は聞いたことがあるけど、実際はこんな感じなのか」
などと、共感する場面も多いのではないでしょうか。

　そんな医療漫画について、看護師のかげさん、ナースの大森ちゃん、そしてライター・白石弓夏の現役看護師3人が、座談会形式で語り合う企画。前回に引き続き、1人ずつ医療漫画をひとつ選んでプレゼンします。今回は看護師のかげさんに、ここ最近読んだ作品のなかからおすすめを紹介してもらいました！

『末期ガンでも元気です 38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』

著：ひるなま／COMICポラリス

ユーモアたっぷり、でもリアルな闘病記

※一部作品のネタバレがあります

かげさん　次は私から！『末期ガンでも元気です 38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』いう漫画を紹介します。このタイトル、最初に見たときは「どんな内容なんだろう？」「どうやってこの作品は終わるんだろう」って思いました。大腸がんのステージ4と診断されたBL漫画家の著者による闘病記なのですが、読んでみたら予想以上に面白かったんです。

白石　当事者が描いた漫画って、私はあまり読んだことないかもです。

かげさん　まず、医療の描写がすごくリアル。私は消化器外科にいたことがあるんですが、大腸がんの患者さんの検査や治療の様子がすごく細かく描かれていて。新人看護師さんが読んでも勉強になるくらいです。難しい医学用語をただ並べるんじゃなくて、すごくわかりやすく説明してくれるんです。登場する医療者だけでなく、漫画家さんの説明の上手さにも感心しました。

　また、著者は親との関係があまりよくなくて、実家に頼れない状況。でも、その代わりに夫の親族が助けてくれるんです。だから、単なる闘病記じゃなくて、家族看護を考える要素も多いですね。

大森ちゃん　複雑な家族関係の患者さんは、実際に出会いますよね。

かげさん　そうなんです。あと、夫のキャラクターも面白いです。見た目はプロレスラーみたいなのですが、実はメンタルが弱くて…むしろ病気の著者のほうが夫を励ましているんです。でも、こういう家族もいるよなって。それと、看護師の描写も印象的でした。症状がつらいときに声をかけてくれる存在として描かれていて…自分の仕事を想像しながら読めて、すごくいい作品でした。

白石　いいですね。でも、闘病記って話が重たくなりがちじゃないですか？

かげさん　そこがこの漫画のすごいところで、重たくならないんです！むしろユーモアたっぷりで。たとえば内視鏡検査のシーンとかも、お尻の部分はちょっとぼかして桃のイラストで説明されていましたね。ライトなBL漫画みたいないいぼかし具合になっていて、でも妙に効果音とか臨場感がある感じがテンポよく読めて、引き込まれました。

大森ちゃん　（笑）なるほど。医療の現実も伝えつつ、読者への配慮もあるんですね。

かげさん　一般の人が読んでも楽しめる、そんなレアな闘病記だと思います。闘病記のなかでも読みやすくて、そんなに落ち込まないでいられる。でも、患者さんの気持ちとか、治療の流れもわかるっていうところでおすすめに挙げました。

次回はナースの大森ちゃんが、『アンメット－ある脳外科医の日記－』をプレゼンしてくれます！

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