スキントラブルを予防するため、カギとなるのがおむつ。適切なおむつを選ぶことが、褥瘡やIADを防ぐことにつながります。おむつを通じてスキンケア、スキントラブル予防のサポートに取り組んでいる大王製紙では、「必見!今日から活かせる『介護の快護化Ⓡ』に向けたスキントラブル予防の実践レクチャー」を開催。WEBセミナーの様子を抜粋して紹介します。
高齢者のスキントラブル(IAD ・褥瘡)の判断基準と改善のポイント
演者:仲上豪二朗先生
(東京大学大学院医学系研究科老年看護学/創傷看護学分野 医学系研究科附属 グローバルナーシングリサーチセンター 教授)
本日のお話の目標は、下記の2つになります。
- スキントラブル(IAD/褥瘡)の発生メカニズムを理解し、排泄ケア・おむつがどのように影響するかを理解する
- IADの予防・ケアのポイントを知る
本日の内容は、日本創傷・オストミー・失禁管理学会が発刊している『IADベストプラクティス』(2019)、『スキンケアガイドブック』(2017)に基づいておりますので、より詳しい内容を参照される場合は、こちらのほうもぜひお手に取っていただければと思います。
皮膚の構造と機能のおさらい
まず、皮膚の構造と機能から振り返ってみたいと思います。皮膚は最外層にある人間最大の臓器であり、体内の恒常性維持機能がこの皮膚によってもたらされています。上から表皮、筋皮、皮下組織があります。皮下組織は大部分が皮下脂肪であり、さらにその下に筋肉、骨と続いていきます。
皮膚にはたくさんの機能がありますが、IAD(incontinence associated dermatitis:失禁関連皮膚炎)に特に関係するものでは、角質層のバリア機能があります。これによって、水分喪失防止や保湿機能が保たれています。また、静菌・緩衝作用という、菌が繁殖しすぎないように抑えている機能もあります。
皮膚のしくみ

皮膚の病変① 褥瘡
本日、ご紹介する皮膚の病変の1つ目が褥瘡です。日本褥瘡学会では、褥瘡を次のように定義しています。
「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる。」(日本褥瘡学会、2005)
すなわち外から加わった外力が皮膚にある血管を閉塞させることにより、組織に酸素不足や栄養不足が生じ、褥瘡になってしまうということです。
褥瘡を有する患者さんはどれくらいいるのか?
褥瘡有病率は、日本褥瘡学会をはじめとしてさまざまな対策がとられてきたこと、ガイドラインの制定や診療報酬改定に伴い低下しており、ここ数年は1~2%の間で推移しています。いわゆる医療先進国といわれるような国と日本の褥瘡発生率を比べてみると、急性期病院に限っているデータですが、日本は突出して低いということがわかっています。
しかしながら、近年はこの低い有病率も底打ちであり、これ以上、有病率を下げるためには、本日のお話に出てくるIADの対策も重要な一翼を担っています。
褥瘡の発生メカニズム:阻血が及ぼす影響
褥瘡はどのように発生するのか、図を用いて説明したいと思います。この図は皮膚を拡大したもので、皮膚には血管が走っています。

グルコースが分解されることによって、細胞のエネルギー源となるATPが作られます。これによって細胞活動が行われますが、その分解の過程でピルビン酸が発生します。発生したピルビン酸は、酸素が豊富な組織であれば、TCA回路に入って分解されます。

しかし、褥瘡が起こるような状態、すなわち外から外力が加わって血流が低下している状態ではピルビン酸が嫌気性代謝により乳酸に変化し、これが組織のpHを酸性に傾け細胞死が生じます。さらには血流が低下しているため、グルコースも不足します。この2つの原因から細胞死が生じ、組織損傷となります。これが阻血による褥瘡発生の単純なメカニズムです。
褥瘡の後発部位
褥瘡は外力が加わりやすいところに発生するため、多くは仙骨部、踵骨部、大転子部、座位をとると尾骨部に生じます、つまり、褥瘡が発生する場所は、多くが骨突出部位に一致しているということになります。
IADと褥瘡
本日のテーマであるIADと褥瘡は、初期には見た目が赤いということもあって、見分けることが非常に困難であることが、最新の研究でも明らかになっています1。IADにもかかわらず、d1やd2の褥瘡と間違って判断してしまうケースがあるということで、その見きわめが非常に重要です。IADと褥瘡の大きな違いは、骨突出部位に発生しているかどうかです。また、IADは失禁によって起こるため、尿または便が付着する部位に一致しているかどうかも褥瘡とは異なる点です。
皮膚の病変② IAD
本日のテーマであるIADは、日本語で「失禁関連皮膚炎」といい、尿または便あるいは両方が皮膚に接触することにより生じる皮膚炎と、日本創傷・オストミー・失禁管理学会によって定義されています。IADはおおむね、高齢者患者・入所者の4~20人に1人は発症していると報告されています2。
IADの症状として、紅斑は赤く皮膚の赤みとして、びらんは真皮までの損傷、そして潰瘍は真皮を超える損傷として認められます。
IADが患者に及ぼす影響としては、細菌感染や褥瘡発生リスクの増加、そして前述したような激しい疼痛や掻痒感などによる患者のQOL低下といったものがあります。これらの症状は排泄物が付着する際に増強されるため、患者の苦痛は極めて大きくなります。さらに、この疼痛は認知症患者や意識障害がある患者の場合、自ら訴えることができないため、見過ごされることが多いという課題があります。看護師は患者の立場に立ち、IADが及ぼす影響の大きさを理解してケアにあたることが求められます。次の項目から、このIADがなぜ起こるのか、そしてどうやったら予防できるのかについて学んでいきたいと思います。
IAD患者の実態調査(臨床研究):尿便に曝露した皮膚
失禁がある人と失禁がない人で、皮膚の水分量とpHがどうなっているのかというのを見ると、失禁がある方のほうが、当然ながら皮膚、水分、角質、水分量が高くなっていました3。そして、皮膚のpHがアルカリ性に傾いているということがわかりました。すなわち、皮膚の浸軟が起こり、過剰な水分曝露による皮膚湿潤状態であるということです。
そのような状態の皮膚は非常に光沢しており、皮膚紋理(肌理)がまったくないような状態が特徴的な所見であるということがわかりました。これは皮膚の平坦化を示唆しており、この平坦化した皮膚は、失禁があるだけの皮膚よりもさらにバリア機能が低下していました。
また、IADの有無で皮膚特性と患者要因を比較した調査では、IAD患者では、周囲皮膚の角質水分量が非常に高い傾向にあり周囲皮膚も浸軟していることがわかりました4。pHに着目してみると、尿便失禁患者は臀部の角質水分量とpHが高い傾向にあり、pHの高さには失禁パッドのpHが関連していることもわかりました5。つまり、皮膚のpHを下げるためには、失禁パッドに何らかの機能をもたせることが重要といえます。
「すべての尿便失禁患者さんにIADが発生するわけではない」ということから、「排泄物の性状に関して何か違いがあるのでは?」という臨床疑問に対して実施した調査の結果、軟便もしくは水様便であること、尿臭が強いことがIADのリスクを上げているということがわかりました6。
IADの症状
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