便秘には、ときには重篤化する病態が潜んでいることも。重篤な便秘の見きわめ方を知りましょう。今回は、化学療法中や、麻薬投与中のがん患者さんの排便コントロールについて解説します。

「見抜きたい!重篤な便秘」の連載まとめはこちら

Q. 抗がん剤や麻薬を使用しているがん患者さんの便秘予防、どうする?

Answer
●薬の副作用がみられることを予測して、あらかじめ緩下剤を服用(投与)します。
●便秘の原因は薬物だけではないことを認識しましょう。

がんの治療薬が排便に及ぼす影響は?

 がん治療として用いられる薬剤のなかには便秘に移行しやすいものがあります。化学療法に使用されるビンカアルカロイド系タキサン系の抗がん剤(表1)、そしてがん性疼痛に対して用いられるモルヒネが代表的な薬剤です。

 これらの抗がん剤やモルヒネが投与されると、自律神経障害や腸管運動抑制が起こりやすく、その結果便秘をもたらします。

表1 化学療法に伴う便秘
化学療法に伴う便秘
細胞質に存在する微小管の合成阻害や分解阻害により、抗腫瘍効果を示す抗がん剤では、副作用としてしばしば便秘がみられる

表2 麻薬に伴う便秘

オピオイド使用による影響
●小腸の運動を抑制し、腸液の分泌を抑制するために便が硬くなる
●中枢性の作用により、排便反射の抑制が起こる

モルヒネに伴う影響
●腸管の輪状筋が異常収縮し、腸蠕動が低下する
●便が腸管に停滞し、水分が再吸収される
●肛門括約筋が緊張し、直腸肛門反射が抑制される

化学療法中や麻薬投与中の患者さんの排便コントロール

 排便コントロールにおける基本は「便を排除する」ことです。上記に挙げた薬剤の使用にあたり、あらかじめ緩下剤を服用することで便を軟らかく、排泄しやすいように整えておくことが大切です。

 また、薬剤による影響に加えて、がん患者さんは手術による腸管の器質的、機能的変化や食事量や内容の変化、さらに治療やがん症状に伴う活動性の低下により便が出にくくなります(表3)。 そのため、「便が出ないから便秘」と決めつけず、患者さんの自覚症状や客観的データと照らし合わせながら対処するようにしましょう。

表3 がん患者の便秘の原因・要因
がん患者の便秘の原因・要因
1.上西紀夫 監訳:消化器癌.シュプリンガー・ジャパン,東京,2007:221-243.

【最終回】便秘予防のための正しい浣腸・摘便(9月2日配信予定)

この記事は『エキスパートナース』2016年6月号特集を再構成したものです。本記事の無断転載を禁じます。個々の患者の治療開始前には、医師・薬剤師とともに添付文書およびガイドライン等を確認してください。実践によって得られた方法を普遍化すべく万全を尽くしておりますが、万一、本誌の記載内容によって不測の事故等が起こった場合、著者、編者、出版社、製薬会社は、その責を負いかねますことをご了承ください。