卒業しても、退職しても、看護のつながりは終わらない──。「アルムナイ」という新しい視点が、キャリアの未来をひらきます。

●横浜市立大学では、看護に特化したアルムナイ・ネットワークを運営中
●「アルムナイ」という概念の由来
●看護領域にも広がる「アルムナイ」
●看護職のキャリア形成と「アルムナイ」
●個別的で多様な経験を可視化
●「YCU看護アルムナイ・ネットワーク」構築プロジェクトを発足
●「YCU看護アルムナイ・ネットワーク」の取り組み

横浜市立大学では、看護に特化したアルムナイ・ネットワークを運営中

 横浜市立大学(Yokohama City University:YCU、以降本学)では、医学部看護学科の卒業生や附属2病院(横浜市立大学附属病院、横浜市立大学附属市民総合医療センター)で共に看護を担った方々との“つながり”を大切にし、その経験や知識を未来に活かすことをめざして「YCU看護アルムナイ・ネットワーク」を運営しています。

 このネットワークは、卒業後や退職後も、看護にかかわる知識・経験・想いを共有できる場です。そこから生まれる交流は、地域医療の発展や人材育成につながり、さらに看護の専門性やキャリアを深める力になります。

 本稿では、まず「アルムナイ」という言葉の由来や背景を整理し、看護職にとっての意義を確認します。そのうえで、キャリア形成とのかかわり、そして本学の取り組みを紹介していきます。

「アルムナイ」という概念の由来

 「アルムナイ(alumni)」はラテン語の“alumnus”(養われた者)を語源とし、もともとは大学などの教育機関の卒業生・修了生を指す言葉です。欧米の大学では古くから、卒業生との関係を重視してきました。寄付や教育活動への参画、同窓ネットワークの整備を通じ、知識の循環やキャリア支援、大学運営の基盤強化に貢献しています。

 特にアメリカでは「アルムナイ・アソシエーション(alumni association)」が広く組織され、卒業生と母校が互いに価値を生み出す文化が根づいています。

 日本でも、大学改革や生涯学習の推進、リカレント教育の広がりに伴い、卒業生ネットワークの活用が進んでいます。最近では大学に限らず、企業や自治体でも退職者・離職者を「アルムナイ」と位置づけ、再雇用や知見の循環を促すしくみが導入されています。

看護領域にも広がる「アルムナイ」

 看護領域でも、教育機関と医療機関が連携し、卒前・卒後・継続教育をつなぐコミュニティの必要性が高まっています。

 看護職はライフステージに応じて働き方が変化しやすく、臨床だけでなく教育・研究・行政・地域包括ケア、国際支援など幅広い分野で活躍しています。だからこそ「またつながれる場」としてのアルムナイ・ネットワークは、キャリアの連続性を維持し、専門職としてのアイデンティティを支える大切な基盤になります。

 看護という実践的・感情的・倫理的な営みにおいて、「人とのつながり」や「所属意識」はモチベーションや自己効力感と深くかかわっており、アルムナイはその心理的な支えにもなります。

 このような背景から、医療機関や教育機関が卒業・退職後の看護職との関係を戦略的に設計し、「離れてもなお仲間であり続ける」ことを可視化するしくみは、今後ますます重要になるでしょう。アルムナイという概念は、看護職が多様なキャリアを歩むなかで、自分の看護観を振り返り、つながりのなかで成長を続けるための実践的な枠組みです。

看護職のキャリア形成と「アルムナイ」

 看護職のキャリア形成を考えるうえで、教育政策の動向は重要です。文部科学省が委託した報告書では、リカレント教育を推進する取り組みのなかで、修了生や卒業生のネットワーク活用が効果的だと指摘しています1。

 そして、会報誌やメーリングリスト、アルムナイSNS(アルムナイのメンバー限定で使用できるソー
シャルネットワーキングシステム)といったツールによる周知、さらに口コミによる広がりが学び直しのきっかけになること、そして修了生との接点を継続的に維持する重要性が強調されています1。

 これは、看護職におけるアルムナイ・ネットワークの有効性を裏づけています。単なる人的交流にとどまらず、学び直しやキャリア形成を支える基盤として機能する点を明確に示しています。

個別的で多様な経験を可視化

 看護職は子育てや介護、転居、進学、新たな専門分野への挑戦などを理由に、一時的に現場を離れることが少なくありません。しかし、再び臨床現場や関連領域に戻る人も多くいます。このような歩みのなかで「どこで、誰と、どのように働いてきたか」という軌跡は、職務遂行力や自己肯定感、職業的アイデンティティの形成に直結します。

 アルムナイの視点は、このキャリアの蓄積を“つながり”という観点から再評価し、個々の経験を集合知へと変えていくものです。看護界全体ではまだ浸透の途中にありますが、キャリア支援や学び直しの基盤としての有用性は大きく、今後の展開が期待されます。アルムナイ・ネットワークに期待できる具体的な効果として、表1の4点が挙げられます。

表1 アルムナイ・ネットワークに期待される4つの効果

①継続的な学びの場の提供
●勉強会や講演会、オンラインコミュニティを通じて最新知識に触れ、復職への不安をやわらげながら看護観を更新できる

②キャリア形成の支援
●資格取得や大学院進学、他分野への転換などの際、仲間の体験や助言が強い後押しになる

③採用・復職の橋渡し
●「戻れる場所がある」という安心感を生み、実際の復職・再配置の機会にもつながる

④地域や社会への貢献
●医療、福祉、教育、行政など多様な領域で活動する看護職の連携が、地域包括ケアや災害支援、多職種協働の新たな展開を生む

 アルムナイは「語り合い」「振り返る」場でもあります。自分の実践を言葉にし、仲間と共有することで暗黙知が可視化され、質の高い看護へと還元されます。

 また、世代の違う仲間と出会うことで多様な価値観に触れ、学び続ける組織としての看護コミュニティが育ちます。すなわちアルムナイは、看護の専門性を未来へ発展させる実践的な基盤といえるでしょう。

「YCU看護アルムナイ・ネットワーク」構築プロジェクトを発足

 本学では、2023年度に「YCU看護アルムナイ・ネットワーク」構築プロジェクトを発足しました。対象は、本学の卒業生、横浜市立大学附属病院および横浜市立大学附属市民総合医療センターの看護職員、退職者、教員、学生など多様です。

 本ネットワークは、2015年に設立され、看護職のキャリア形成を多角的に支援してきた「YCU看護キャリア開発支援センター」の中に新たに立ち上げられた事業として位置づけられています。当センターは、教育・臨床・研究・社会貢献を視野に入れた5つのプロジェクトを展開していますが、それとは別に、卒業生や附属2病院スタッフとの関係を結ぶ「アルムナイ・ネットワーク事業」を始動しました(図1、図2)。

図1 YCU看護キャリア開発支援センターの全体像
YCU看護キャリア開発支援センターの全体像の図
図2 横浜市立大学看護学科×附属2病院によるアルムナイ・ネットワークのイメージ
横浜市立大学看護学科×附属2病院によるアルムナイ・ネットワークのイメージ図

「YCU看護アルムナイ・ネットワーク」の取り組み

 「YCU看護アルムナイ・ネットワーク」の事業計画には、次のように示されています。

横浜市立大学医学部看護学科の卒業生、そして横浜市立大学附属2病院看護部で共に看護を提供した方々は、いつまでも仲間(アルムナイ)であり続けます。たとえ新天地へ出発したとしても、私たちはその皆さんとのつながりを大切にし、新しい関係性の中で“看護の未来を創造する”ために共に歩みます。

 本ネットワークの活動の柱は①誇りとつながりの継続、②看護の知の創造と交流、③採用・キャリア形成支援です。単なる同窓会ではなく、看護の発展と地域貢献をめざす実践型ネットワークです。

 具体的な活動としては、まず2025年3月に「看護キャリア開発支援センター創立10周年記念講演会」を開催しました。「看護現場学サポーター」の陣田泰子先生(聖マリアンナ医科大学病院看護部 キャリアアドバイザー、看護概念化サポーター)をお招きし、「看護を語ること」「看護を可視化して次世代へつなげること」の意義を再確認しました。

 また、陣田先生に加え、学科長や附属2病院の看護部長とのパネルディスカッションでは、語りのプロセスを通じて専門性がみがかれること、世代間の相互学習が促進されることが共有されました(図3)。

図3 「看護キャリア開発支援センター創立10周年記念講演会」の様子
横浜市立大学「看護キャリア開発支援センター創立10周年記念講演会」の様子
看護現場学サポーターの陣田泰子先生を迎えた講演とパネルディスカッションを実施。語りを通じて世代間の学びが深まった

 同年8月には、2部構成の講演会・研修会を実施しました。第1部では当ネットワーク立ち上げの経緯や、今後の展望を紹介しました。第2部ではPOLA株式会社の協力による「ビューティーリチャージセミナー」を開催し、印象形成に役立つメイクやスキンケアを学びました。「整えて、満たす。明日からまたがんばって働こう」というメッセージのもと、自己肯定感やリカバリーを後押しし、“仲間とつながる力”を体感する機会になりました。従来の学び直し型研修とは異なる切り口でしたが、アルムナイの価値を広く伝えるきっかけとなりました(図4)。

図4 「ビューティーリチャージセミナー」の様子(協力:POLA株式会社)
横浜市立大学「ビューティーリチャージセミナー」の様子
メイクやスキンケアを通じて自己肯定感を高め、仲間との交流から活力を得る機会となった

 今後は、広報誌やWeb・SNSを活用した情報発信、シンポジウムの開催などによるキャリア支援、アルムナイを対象とした復職支援を進め、事業内容を一層充実させていきます。また、同窓会や企業との連携、寄附金の募集を通じて、人材バンクの整備や活動予算の確保を図り、ネットワークの基盤を強化していきます。

*

 「アルムナイ」は、過去を懐かしむための言葉ではありません。つながりを力に変え、専門性を深め、キャリアの再構築や社会貢献へと活かす“未来の資源”です。

 YCU看護アルムナイ・ネットワークは、その可能性をひらく第一歩として、世代や立場を超えた学びと協働の循環を生み出しています。私たちは、この輪をさらに広げ、看護の未来をともに創造していきたいと考えています。

「看護・医療の知っておきたいTOPIC」の記事一覧

1.PwCコンサルティング合同会社:大学等におけるリカレント教育の持続可能な運営モデルの開発・実施に向けたガイドライン(詳細版):87.
https://www.mext.go.jp/content/20240424-mxt_syogai03-000013335_2.pdf(2025.9.20アクセス

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※この記事は『エキスパートナース』2025年11月号の記事を再構成したものです。当サイト内の文章・画像・動画等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。