DNAR指示について、よくある誤解を切り口にして解説。今回は「DNARだからもう緩和医療にシフトしよう」という誤解です。DNAR指示と終末期医療、終末期医療と緩和医療、それぞれの違いを説明します。
よくある誤解②「DNARだからもう緩和医療にシフトしよう」は間違い!
まず、「緩和医療」についての誤解がある
「DNARだからもう緩和医療にシフトしよう」という考え方には、2つの誤解があります。1つは「DNAR指示=終末期医療」という誤解であり、もう1つは「終末期医療=緩和医療」という誤解です。
「終末期医療=緩和医療」という誤解は、2002年に出されたWHOの緩和ケアの定義(図1)を理解すると解消することができます。この定義によると、緩和ケア(医療)とは、診断の早期から治療と並行して全人的苦痛(身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペイン)を緩和することを目的に行われるものです。
図1 緩和ケアの定義(WHO,2002)

(定義は文献1より引用)
過去には、治療手段がなくなった段階で、「緩和ケアへのギアチェンジ」という考え方が一般的であった時代があります。しかし、この定義では、緩和医療は診断されたときから適応するものと位置づけられています。わが国においても、いまだに「終末期になったら緩和医療へシフトする」という考えが根強くありますが、ひと昔前に比べれば、終末期=緩和ケアでないことの認識は広がってきていると考えています。
患者側が誤解のないように合意形成を
次に、「DNAR指示=終末期医療」という誤解についてです。日本集中治療医学会『DNAR指示の勧告』2の第2項では、「DNAR指示と終末期医療は同義ではない。DNAR指示にかかわる合意形成と終末期医療実践の合意形成はそれぞれ別個に行うべきである」ことが勧告されています。
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