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(advance care planning:ACP)
人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス(厚生労働省)
近年、世界各国でアドバンス・ケア・プランニング(ACP)は重要視され、多くの取り組みが行われています。日本でもACP支援に興味をもつ看護師が増え、「ACPは大事ってよく聞くけど、いつ誰がどんなふうにすればよいの?」など、以下のような疑問が多く寄せられるようになりました。
そこで、本連載では国内外のACPの定義、話し合いの内容やポイント、メリットと課題、看護師に期待される役割について紹介します。よくある質問と回答、看護の場面によって異なるACPのコツも合わせて解説します。ぜひ、実際の現場で役立ててください。
ACPの定義
ACPについてさまざまな解釈がありますが、現在国内外で主に用いられている定義を下記1,2,3に示します。
①ヨーロッパ緩和ケア学会(EAPC)の定義(2017)1
●ACPとは、意思決定能力を有する患者が、自分の価値観を明らかにし、重篤な病をもつことの意味や将来について考え、今後の治療・ケアの目標や希望を明確にし、これらを家族や医療従事者と話し合えるようにすることである
〇ACPは、身体、心理、社会、スピリチュアル面についての患者の心配ごとや気がかりを話し合うことも含まれる
〇患者が意思決定できなくなった場合も、意向が尊重されるように、代理意思決定者を選定し、治療・ケアの選好を記録しておいて、定期的に見直すことが推奨される
(文献1を参考に作成)
②厚生労働省の定義(2018)2
●人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス
●心身の状態の変化等に応じて、本人の意思は変化しうるものであり、医療・ケアの方針や、どのような生き方を望むか等を、日ごろから繰り返し話し合うことの重要性を強調
(文献2を参考に作成)
③日本版ACPの定義(2022)3
アドバンス・ケア・プランニングとは、必要に応じて信頼関係のある医療・ケアチーム等*1の支援を受けながら、本人が現在の健康状態や今後の生き方、さらには今後受けたい医療・ケアについて考え(将来の心づもりをして)、家族等*2と話し合うことです。
*1:本人の医療やケアを担当している医療、介護、福祉関係者
*2:家族や家族に相当する近しい人
(文献3より引用)
ACPには、健康な人も広く対象に含み、生涯を通じて長期にわたって連続して行われる話し合いから、病をもつ人々や人生の最終段階にある患者さんを対象とする話し合いまで、さまざまなバリエーションがあります。
ここでは、慢性疾患や重篤な疾患をもつ患者さんを対象とするACPに主眼を置くこととします。多くのACPの定義で重要視されていることは、患者さんの「意思決定能力が損なわれる場合に備え」て、「患者・家族らと医療者」が、「本人の価値観や目標に沿った治療やケアの方向性」を、本人の意向を大切にしながら、あらかじめ「繰り返し話し合う」ことです。
ACPで医療者と患者さんが話し合う内容
ヨーロッパ緩和ケア学会(European Association for Palliative Care:EAPC)の白書1では、上記①1に示したACPの定義以外に、ACPで話し合われる内容として推奨される要素も公表されました。それらの推奨項目に基づいて、私たち看護師を含む医療者がACPにおいて患者さんと話し合う内容と、ACPの支援のポイントを下記に示します。
ACPにおいて患者さんと話し合う内容(青ライン)と、医療者による支援のポイント(ピンク字)
①導入
●まず医療者は、患者さんにACPの目的や意義について患者さんに説明
●患者さんの心理面をアセスメントし、準備状況に合わせながら、患者さんの了承が得られた場合のみACPの話し合いを始める
②目標の確認
●患者さんが大事にしていることを聴くことで、ご本人の価値観の理解に努める
●そして、将来の治療やケアの目標を探索
●必要に応じて、現状と今後の見通し、治療やケアの選択肢の利点や負担についての患者さんの理解を確認し、修正や補足が必要な点があれば、主治医と相談しつつ補う
③代理意思決定者の選定
●患者さんがもしもの時のことに目を向けられる心境であれば、代理意思決定者(患者さんの意向を表明することができなくなった際に、本人の代わりに代理決定する者)の選定や依頼について確認
④将来に希望する治療・ケアの検討
●可能であれば患者さんの状態が落ち着いている間に、患者さんと代理意思決定者を交えて、将来の治療やケアに関する方針について話し合い、合意をめざす
●この話し合いには、生命維持治療に関する選好が含まれることもある
⑤意向の表明
●話し合われた内容は、診療録に記録し、主治医をはじめとする医療チームに共有する
※③と④の話し合いは、事前指示(アドバンス・ディレクティブ〈AD。詳しくは【第2回】参照〉)に含まれます。時とともに患者さんの意向が変わることはよくあることです。医療者は、状況の変化に応じて再確認し、適宜対応できるように備えます。
患者さんによるACPのプロセス
①目標や価値観を再確認する
②病状や今後の医療の選択肢を理解する
③代理意思決定者を選定し移譲する
④終末期の医療に関する希望を家族や医療者と話し合う
⑤将来に希望する医療や療養を主治医に表明する
ACPのメリットと課題
ACPを支援することのメリットが、国内外で多く報告されています4。これまでに蓄積されてきた主な
エビデンスを下記に示します。医療者が適切にACPを支援できると、患者さん中心のケアが実現し、家族の負担が軽減できるなどの、好ましい結果につながる可能性が高まることがわかります。
ACPを支援するメリット
●患者が希望どおりの医療やケアを受けられる
●患者が人生の最終段階に望む医療やケアの意向を家族等や医療者と話し合い、共有できる
●患者が代理意思決定者を選定し、医療者に伝えられる
●患者・家族と医療者とのコミュニケーションの質が向上する
●患者や家族の満足度が向上する
●遺族のストレスや、悲嘆、不安、抑うつが軽減する
●診療録へのACPに関連する内容の記載が増える
多くの利益が明らかになりつつある一方で、ACPには課題も少なからずあります。
例えば、医療者や患者さんの心理的負担への懸念、時間やリソースの制約、日本固有の文化的背景の影響により患者さんの本音の把握が難しいなど、さまざまな障壁があります5,6。
また、国外でさまざまな効果があると言われているACPですが、日本人にどのような影響を及ぼすか、いまだ明確なエビデンスが得られていません。今後の研究報告に期待したいところです。
ACPにおいて看護師に期待される役割
看護とは対人関係のプロセスであり、信頼関係の確立を基盤にその目的の達成をめざします。私たちは、看護師だからこそ、ACPの各過程を調整しながら、看護の基本的スキルである傾聴や共感の技術を生かして患者さんのACPを支援することができます。
病やその苦難に直面しておられる患者さんが、その意味を見出し、ご自身の力を再認識して、責任をもって自分にとっての最善を考え、自分の力で人生の舵(かじ)取りに最善を尽くした、と誇りをもって「生きて」もらえるような、生き方を創造する手助け。それがACPにおいてわれわれ看護師に期待される役割であると考えています。看護師は、苦難や絶望を体験している患者さんが再び希望をもてるよう、きめこまやかなかかわりでACPのプロセスを担当する者として、欠くことのできない存在であると言えます。
主治医との連携体制を基盤に、日ごろのベッドサイドでのケアを通して患者さんにとって大切なことの言語化を支援し、患者さんにとって最善の医療やケアの提供につながるよう、読者の皆さまとともに歩んで参りたいと思います。
- 1.Rietjens JAC,Sudore RL,Connolly M,et al.:Definition and recommendations for advance care planning: an international consensus supported by the European Association for Palliative Care.Lancet Oncol 2017;18(9):e543-e551.
2.厚生労働省 人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン 解説編 改訂 平成30年3月.
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197702.pdf(2024.11.15アクセス)
3.J.Miyashita,S.Shimizu,R.Shiraishi,et al.: Culturally Adapted Consensus Definition and Action Guideline:Japan’s Advance Care Planning.J Pain Symptom Manage 2022 Dec;64(6):602-613.
4.森雅紀,森田達也:Advance Care Planning のエビデンス 何がどこまでわかっているのか?.医学書院,東京,2020.
5.垂見明子,三松早記,森田達也,他:終末期についての話し合いに関するがん治療医の意見:質問紙調査の自由記述の質的分析.Palliat Care Res 2016;11(1):301-305.
6.大桃美穂,鶴若麻理:アドバンス・ケア・プランニングの促進要因と障壁-独居高齢者―訪問看護師間のケアプロセスと具体的支援の分析を通して-.生命倫理 2018;28(1):11-21.
この記事は『エキスパートナース』2021年6月号特集を再構成したものです。
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