皆さんが看護師として、日々行っている臨床現場での「実践」。それらは、どんな“気づき”をきっかけとして起こるのでしょうか?また、“患者さんの力”をどう引き出すのでしょうか?
 事例紹介をもとに、看護介入をナラティブに伝えます。

父親の“肝臓がんの告知”に直面した長男の、医師との話し合いへの橋渡し

 肝臓がんの診断を受けた 80代男性の、長男であるAさんは、農家を継承し、10年前に母親が他界したのち、父親と2人暮らしです。Aさんの弟は県外に在住しています。

 ある日、Aさんが「父の主治医を変えてほしい」とがん相談支援センターに来訪されました。その窓口を担当していた私は、Aさんの険しい表情や興奮した口調から主治医に対する不信感があると感じ、Aさんになぜそう思うのか、もう少しくわしく教えてほしいと話を促しました。

  すると、Aさんは「悪いものだったら父に言わないでほしいので、私は検査結果を1人で聞きました。そしたら肝臓がんと言われて」「前もって先生に『父はがんと聞くとショックを受けるので告知しないで治療をしてほしい』とお願いしたけれど、“本人へ告知しないと治療ができない”と言われて」と強い口調で話しました。

Aさんの“強い口調”から伝わってきたこと

 私は、Aさんの言動には、“父親が肝臓がん”という衝撃的な事実から自身の心を守ろうとする防衛機制がはたらき、怒りや否認が生じていると思いました。
 私は父親のがんの事実に動揺する気持ちを理解することに配慮し、「お父さんがショックを受けるとご心配なのですね」「お1人で聞かれ、びっくりしましたね」と伝えました。

 するとAさんは、「父ががんのことを知ったらショックで寝込んでしまうのではないかと思って」と、心配そうにゆっくりとした口調で言いました。
 Aさんのお話から、過去に“友人のがんを知って落胆していた父親を見た”という体験も影響していることがわかってきました。

 私は「ショックで寝込んでしまうのではないかと心配なのですね」と言葉を返し、Aさんの気持ちを受け止めることに努めました。Aさんの動揺した気持ちをサポートできれば、少しずつ父親のがんの事実に向き合えるようになるのではないかと考えました。

 次に私は、Aさんに医師から病気や治療についてどのように説明を聞いたか尋ねました。

 Aさんは「肝臓がんでステージⅢ、治療はカテーテル治療で……」と話してくださいました。しかし、具体的な治療内容や方法、効果や副作用について把握できておらず、そのことがAさんの不安をさらに大きくしていると考えました。

 私は、父親の心身の負担を心配する話の内容から、Aさんにとって父親は大切な存在であると思いました。
 Aさんは今回のカテーテル治療について、過去に父親が受けた冠動脈バイパス術のような全身麻酔の治療をイメージしていました。過去の父親の治療体験がAさんの不安を大きくさせていると感じました。

 責任感の強いAさんは、日中は仕事に出かけ、自宅では家事全般を行い、父親の通院の付き添いもしていました。

 また「食べる量が少なくて背中も痩せて」「トイレも間に合わず汚すこともあって、着替えも手伝ったりして大変で」と話される内容から、私は、Aさんが1人で父親の介護や家事、家計を抱え、父親の体力や生活力の衰えにとまどいながらも、必死に父親の生活を支えているように感じました。

 私はAさんに、1 人で抱えることには限界があるため支援したいこと、父親の生活について支援できることを伝えました。