「医療・看護の知っておきたいトピック」シリーズの記事はこちら

おさえておきたいこと

ガイドラインの変更点・重要点
●新たな疾患概念、 合併症を含む病態、 画像診断法、 治療方法について紹介
●糖尿病や心血管・脳血管等の動脈硬化性疾患を中心とした合併症との関連について広く記載

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(NASH)はわが国に約2,000万人以上の患者がいると想定され、今後、さらに増加することが危惧されています。また本疾患を成因とした肝細胞がん(肝がん)が近年、急増しています。

 こうした状況に対し、疾患概念・病態・画像診断法・治療方法について、また肝疾患のみならず、メタボリックシンドロームや糖尿病、さらに心筋梗塞や脳梗塞等の動脈硬化性疾患、肝がん以外の他臓器がんへのスクリーニングの重要性を広く普及させるために「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020」が6年ぶりに改訂・発刊されました¹。
 この新しいガイドラインについて、ナースの皆さんに知っていただきたいことをご紹介します。

多職種連携やかかりつけ医から肝臓専門医への紹介基準や、肝臓専門医と関連疾患の専門医との連携の基準を実用的なものに改訂

 新しいガイドラインでは、以下の5つを中心に記載されています。それぞれの概要を解説します。

①病態や予後における肝線維化の重要性
②線維化が進行した症例の効率的な拾い上げ
③肝発がんに関するスクリーニング方法
④本疾患の最大の死因である心筋梗塞や脳梗塞等の心・血管系疾患への合併リスクの拾い上げへの注意喚起と、それらの疾患の専門医へのコンサルテーション基準
⑤最新の治療方法

①病態や予後における肝線維化の重要性

 NAFLDの有病率は29.7%で、肥満人口の増加とともに増加しています。男女別の有病率では男性41.0%、女性17.7%であり、国内全体では約2,000万人と推定されます。
 一方、NASHの有病率は3〜5%で100〜200万人と推定されています²。また、小児でも4〜10%と増加していると推定されており、問題になっています³。

 死因としては、B型肝炎やC型肝炎と異なり、心筋梗塞や脳梗塞等の心・血管系疾患が最多ですが、死因によらず、そのリスクは肝線維化の進行と相関していることが明らかになってきました⁴。
 つまり、NAFLD/NASHは、肝がんや肝硬変での死亡以外でも肝臓の線維化が進んだ症例の生存予後が不良であることから、肝線維化の進展例を見逃してはなりません。

 NAFLD/NASHについてはメタボリックシンドロームを基盤病態とし、2型糖尿病や高血圧、脂質異常症の管理の重要性が強調されています⁵。
 したがって、NAFLD/NASHは健診やかかりつけ医、それら生活習慣病の専門医の診療現場に潜んでいて、患者さんや医療者が気づかぬうちにNAFLD/NASHが進行してしまっていることも少なくありません。

②線維化が進行した症例の効率的な拾い上げ 

 NAFLD/NASHの拾い上げといえば、まずは腹部超音波検査で脂肪肝を診断することです。しかし、肝硬変に近くなってくると、肝の脂肪化が減ってくるということに注意が必要です。

 一方、血液検査での肝機能検査であるASTやALTの高さは、線維化とは関係がないということも重要です。 ガイドラインでは、FIB-4インデックス(図1)やNAFLD fibrosis score(図2)といった、いくつかの値を組み合わせて計算して肝線維化を囲い込む方法や、肝生検ではなく肝臓の硬さを超音波やMRIを使って測定する方法も紹介されており、実際、いずれも広く使われるようになっています。

図1 FIB-4インデックス
図2 NAFLD fibrosis score

③肝発がんに関するスクリーニング方法

 肝がんの発症も肝線維化の進展と相関します。現在、NAFLD/NASHからの肝がん早期発見のスクリーニング方法は確立しておらず、B型肝炎やC型肝炎といったウイルス性慢性肝疾患における肝がんスクリーニング方法に準じて行っています。
 もちろん肝硬変など、線維化が進展した症例で発がんリスクが高くなりますので、注意が必要です。

④本疾患の最大の死因である心筋梗塞や脳梗塞等の心・血管系疾患への合併リスクの拾い上げへの注意喚起と、それらの疾患の専門医へのコンサルテーション基準

 今回のガイドラインでは初めてフローチャートも添えられて記載されましたが(図3)、すでに国際的には重要視されています。日常診療において狭心症や心筋梗塞、脳梗塞の発症へ注意を払っておくことが大切です。
 しかし、消化器や肝臓専門医としてはついつい配慮不足になる点であり、ぜひナースの皆さんからも医師や患者さんへの声かけ、注意喚起をお願いします。

図3 脳・心血管疾患系リスクの絞り込みフローチャート

⑤最新の治療方法

 メタボリックシンドロームと関連が強い疾患であることから、やはり食事・運動療法が大前提となります(図4・5)。肥満の有無によらず、7~10%の減量をめざします¹⁰。しかし、減量にはリバウンドがつきものです。こちらもナースの皆さんからの支援が重要です。

 薬物療法は、NAFLD/NASHに適用がある薬剤はいまだありません。合併する生活習慣病に対する治療薬で、NAFLD/NASHの脂肪化や炎症、肝線維化の改善にも効果が期待できる薬剤が用いられているのが現状です。

 糖尿病であればチアゾリジン系薬剤であるピオグリタゾン、血液中のブドウ糖を尿へ排泄させるSGLT2阻害薬、インクレチン関連薬であるGLP-1製剤が¹¹、また脂質異常症があればスタチンやペマフィブラートが、また高血圧があればACE阻害薬やARBに効果が期待されています(図5)。

 国際的にたくさんの治療薬の開発が進められていますが、日常診療で使用できるようになるのは、もうしばらく先になりそうです。

図4 改善する肝臓の組織所見
図5 NAFLD/NASH治療フローチャート

脂肪性肝疾患の新たな日本語病名が決定

 2023年6月に、欧州肝臓学会(EASL)、米国肝臓病学会(AASLD)、ラテンアメリカ肝疾患研究協会(ALEH)が合同で脂肪性肝疾患の病名と分類法を変更することを発表しました。
 これを受け、日本消化器病学会のNAFLD/NASH診療ガイドライン作成委員会と日本肝臓学会では、2024年8月に以下の通り、日本語での新たな病名を決定しました。

●Steatotic Liver Disease(SLD):脂肪性肝疾患
●Metabolic Dysfunction Associated Steatotic Liver Disease(MASLD):代謝機能障害関連脂肪性肝疾患
●Metabolic Dysfunction Associated Steatohepatitis(MASH):代謝機能障害関連脂肪肝炎
●Alcohol Associated (Related) Liver Disease(ALD):アルコール関連肝疾患
●MetALD:代謝機能障害アルコール関連肝疾患
●Cryptogenic Steatotic Liver Disease:成因不明脂肪性肝疾患
●Specific Aetiology Steatotic Liver Disease:特定成因脂肪性肝疾患

 NAFLDはMASLD、NASHはMASHとなりますが、診断基準は異なる部分もあります。今後の情報にも注目していただければと思います。

1.日本消化器病学会 日本肝臓学会編:NAFLD/NASH診療ガイドライン2020 改訂第2版.南江堂,東京,2020:xviii,xix.
2.Eguchi Y,Hyogo H,Ono M,et al.:Prevalence and associated metabolic factors of nonalcoholic fatty liver disease in the general population from 2009 to 2010 in Japan:a multicenter large retrospective study.J Gastroenterol 2012;47:586-595.
3.Tsuruta G,Tanaka N,Hongo M,et al.:Nonalcoholic fatty liver disease in Japanese junior high school students:its prevalence and relationship to lifestyle habits.J Gastroenterol 2010;45:666-672.
4.Angulo P,Kleiner DE,Dam-Larsen S,et al.:Liver fibrosis,but no other histologic features,is associated with long-term outcomes of patients with nonalcoholic fatty liver disease.Gastroenterology 2015;149(2):389-397.
5.Nakahara T,Hyogo H,Yoneda M,et al.:Type 2 diabetes mellitus is associated with the fibrosis severity in patients with nonalcoholic fatty liver disease in a large retrospective cohort of Japanese patients.J Gastroenterol 2014;49:1477-1484.
6.Gomez V,Michel JA:The great mimicker.Gastroenterology 2012;143(6):1441.
7.Promrat K,Kleiner DE,Niemeier HM,et al.:Randomized controlled trial testing the effects of weight loss on nonalcoholic steatohepatitis. Hepatology 2010;51(1):121-129.
8.Harrison SA,Fecht W,Brunt EM,et al.:Orlistat for overweight subjects with nonalcoholic steatohepatitis:A randomized,prospective trial.Hepatology 2009;49(1):80-86.
9.Wong VW,Chan RS,Wong GL,et al.:Community-based lifestyle modification programme for non-alcoholic fatty liver disease:a randomized controlled trial.J Hepatol 2013;59(3):536-542.
10.Promrat K,Kleiner DE,Niemeier HM,et al.:Randomized controlled trial testing the effects of weight loss on nonalcoholic steatohepatitis.Hepatology 2010;51(1):121-129.
11.Armstrong M,Gaunt P,Aithal GP,et al.:Liraglutide safety and efficacy in patients with non-alcoholic steatohepatitis(LEAN):a multicentre,double-blind,randomized,placebo-controlled phase 2 study.Lancet 2016;387(10019):679-690

この記事は『エキスパートナース』2021年10月号の記事を再構成したものです。
当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。