この記事は『がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと』(西村元一著、照林社、2017年)を再構成したものです。
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「治療効果との引き換え」と覚悟していたものの…

 自分自身の場合、がんによる自覚症状はありませんでしたが、「抗がん剤治療」「手術」「放射線治療」に伴うさまざまな副作用に出くわしました。ある程度「治療効果との引き換え」と覚悟していたとはいえ、その症状がひどく、先が見えなかったため治療をやめたくなったときもありました。

 また、後述する放射線治療後の腰椎破壊のように治療終了後に徐々に出現するものもあり、治療期間だけではなく、ある意味、生きている間じゅうが副作用との戦いの連続と言えなくもありません。

 そして新たな症状が出現したり、もしくは増強してきたりしたときには、その症状が副作用によるものではなく、がんの進展によるものではないか?と疑心暗鬼になってしまったことも一度や二度ではありませんでした。治療と副作用、治療効果と副作用は、治療を実施してみないとわからない面も多々あります。

 しかし、治療が中途半端に終了することがないように可能な副作用対策を実施するとともに、起こりうる症状に対してのきちんとしたインフォームド・コンセントをしておくべきと思います。

 自分自身も現在までさまざまな症状を経験していますが、特にQOLを悪化させた症状をいくつかまとめてみたいと思います。

味覚障害による「頭の中」と「口の中」との味のイメージの違いに衝撃

 最初に経験したのは、抗がん剤治療に伴う「味覚障害」でした。繰り返しになるかもしれませんが、単に味覚障害と言ってしまえばそれまでですが、「頭の中にある食べものに対する味のイメージ」と「口に入れて味わった味のイメージ」とが違うというのは、言葉に表せないくらい衝撃的なことであるということだけは強調しておきたいと思います。

 それは、味覚障害が本当にひどいときに好物を食べて、その「味のイメージの違いによる」衝撃を経験すると一気に食べられなくなる(嫌いになる)かもしれないほど大変なことです。

 そしてその経験は、味覚障害が軽減したときにも残ってしまう可能性も考慮しておくべきと思います。そこで無理をしてしまうと、口から食べることに嫌気がさしてしまうかもしれません。単に「食べていますか?」と聞くのではなく、「おいしく食べていますか?」と聞いて、ヒントを得ることが重要だと思います。

 また、抗がん剤治療ののち、一昨年6月に下部食道の一部を含み周囲の横隔膜を合併切除した胃全摘術などの拡大手術を受けましたが、術後の「ダンピング症状」によりQOLは著しく低下しました。ひどいときには食後4時間あまり、腹満から始まり、冷や汗、傾眠など腹部症状から全身症状までずっと継続して起きてしまい、場合によっては食べるのが怖くなったこともありました。また、このダンピング症状に抗がん剤治療の消化器症状が加わったときに乗り越えられたのは、家内と仲間の栄養士がいろいろと工夫してくれたおかげだと思っています。

 今も経口摂取後4時間の間には何が起こるかわからないため、「食べるという行動」が生活を規定していると言っても過言ではありません。ただし、全体としての食事量は、よくて通常の半分量であり、現在も経静脈栄養による補充を行っています。

今後どうなっていくのか──。悩ましい運動機能障害

 次に苦しんだのは「末梢神経障害」でした。オキサリプラチンを使ったので覚悟はしていましたが、想定外に早期に、それもあっという間に運動機能障害という形で出現しました。

 結果的に、右の腓骨神経麻痺と左橈骨神経麻痺との診断でQOLの著しい低下を認めました。ただちにオキサリプラチンが中止となりましたが、回復までの時間は非常にかかり、約8か月後あたりから徐々に回復傾向になりました。機能障害のため活動量が減り、結果として筋力低下にもつながり、外出時には家人の支援が必須となったため、生活上、さまざまな制限が出現しました。

 そして現在、最もQOLを低下させているのは、大動脈周囲リンパ節への放射線照射後の後遺症です。第一腰椎と第二腰椎の椎体が破壊されたことにより「脊柱の前方への屈曲」を認め、コルセットで外固定を行わないと、体動時に腰から側胸部の激しい痛みが認められます。

 画像診断では徐々にその屈曲が強くなっており、姿勢も亀背のような状態になってきています。おそらくそのためと思われる痛みが、安静時にもときおり両側背部に認められるようになってきました。今後どうなっていくのか?ということはがんの進行とともに悩ましい限りです。

 いずれにせよ、がん患者はさまざまなことにナーバスになっており、そのときの症状が治療の副作用のためだと頭では理解していたとしても、内心では「がんが骨に転移したのではないか?」「がんが進行したのではないか?」などと思ってしまいがちです。

 医療者としてはできるだけ曖昧にするのではなく、きちんと説明をしたうえで、できる範囲内の症状緩和に努めるべきだと思います。

『がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと』

西村元一著
照林社、2017年、定価1,430円(税込)
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