褥瘡・創傷ケアのコツを豊富な症例写真とともに解説。今回はICU患者の評価スケールd1褥瘡において、ドレッシング材の選び方や皮膚保護パッドを活用したケアについて紹介します。

この記事は『エキスパートナース』2018年6月号特集を再構成したものです。
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ICU患者のd1褥瘡へのケア方法は?

〈症例〉
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●70歳代、女性。
●心配停止蘇生後脳症、心筋梗塞。既往歴:高血圧。
●胸部痛を訴えたあと心配停止状態となり、家族の救急要請により救命救急センターに搬送された。
●蘇生処置後に体外膜型肺(ECMO)が導入され、緊急冠動脈造影の結果、左冠動脈主幹部の狭窄により心筋梗塞であると診断。
●経皮的冠動脈形成術後、脳低温療法が開始されたが、入院後4日目に仙骨部に深さd1の褥瘡が発見された。

ICU患者d1

改定 DESIGN-R® 2020を用いた褥瘡の評価についてはこちら

d1褥瘡でのドレッシング材の選び方は?

 持続する発赤(深さd1の褥瘡)を認めた場合、創面を保護しながら、その後の創面の変化を観察することが必要になります。

 そのため、皮膚の色調や変化を容易に観察することができる透明のドレッシング材(ポリウレタンフィルムなど)で褥瘡を被覆することが勧められます(図1)。フィルムによって、創面を摩擦などから保護します。

図1 透明なドレッシング材(ポリウレタンフィルム)の例

エアウォールふ・わ・り®の製品写真
エアウォールふ・わ・り®(画像提供:スキニックス)
3M™ テガダーム ™ ロールトランスペアレント フィルム ロールの製品写真
3M™ テガダーム ™ ロールトランスペアレント フィルム ロール(画像提供:スリーエム ヘルスケア ジャパン合同会社)

 PCPS(経皮的心肺補助)やECMO(体外膜型肺)を用いた補助循環治療が行われている患者さんであっても、循環動態が安定し血圧が保たれていれば、患者さんのバイタルサインをモニタリングしながら積極的な体位変換を実施することが可能です。

 循環動態への影響を危惧するあまり、除圧対策に消極的になることは避けなければなりません。

体位変換を行えない場合はどうする?

 循環動態が不安定で、積極的に体位変換を実施することができない場合は、スモールチェンジによる圧分散を行います。

 スモールチェンジとは、体の一部を移動させることで、わずかながらも血液循環の変化を起こす方法をいいます1

 例えば、マットレスの下にポジショニングクッションを挿入し、患者さんの体に勾配をつけることで重心移動を起こし、それに対して起こる“姿勢反射”を機能させることで同一体位による同一部位への持続的圧迫を取り除きます。

 あるいは、患者さんとマットレスの間に腕を差し入れ、マットレスを下方へ押しつけることによって患者さんの体をマットレスから離し、持続的な圧迫を取り除きます(図2)。

図2 マットレスを押し下げる除圧法

マットレスを押し下げる除圧法

①患者の身体の下に手を差し入れる
②マットレスを下方へ押しつけて患者の身体をマットレスから話す
一時的な除圧を図ることができる

 これらのケアは、患者さんを訪室するたび、あるいは、ケアや処置実施後など、患者さんの褥瘡発生リスクの度合いに応じて実施頻度を決めます。

 わずかな体位の変化や時間であっても、体にかかる圧をこまめに低減させることが褥瘡発生の予防につながります。

重症患者の褥瘡に対する皮膚保護パッドは?

 重症患者の仙骨部・踵部の褥瘡予防に対する多層構造シリコンフォームドレッシング図3)の予防効果が検証され、その予防効果と高い費用対効果が明らかにされています2,3

図3 多層構造シリコンフォームドレッシングの例

多層構造シリコンフォームドレッシングの例
メピレックス® ボーダー プロテクト(画像提供:メンリッケヘルスケア株式会社)

 本来、褥瘡ハイリスク状態にある重症患者には、入院直後から予防対策としてドレッシング材の使用を検討することが望ましいといえます。

 しかし日本では、予防を目的としてドレッシング材を用いる場合は、保険償還の適応になりません。そのため、使用にあたっては検討が必要です。

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