この記事は『はじめまして病理学』(市原真著、照林社、2021年)のプロローグを再構成したものです。
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 マンガやドラマなどで、初対面の相手と意気投合した主人公が、
「初めて会った気がしない! ずっと前から知り合いだった気がする!」
などと喜ぶシーンがあります。

 このような出会いを、実際に経験したことがある方もいらっしゃるかもしれません。

 私たちが人生で通り過ぎてきた「ストーリー」や「エピソード」、便利に使ってきた「言葉」が、たまたま相手と共通していると、すごく話がかみ合います。馬が合う、と言ってもいいでしょう。会話はとてもスムーズに進み、すぐにお互いの考えをシェアすることができます。じっくりと深い話も進められるでしょう。

 このことは、何も人間関係にだけあてはまるわけではありません。
 新しい教科書を開き、概念を学ぼうとするとき、その学問と「話がかみ合う」なら、しめたものです。

 内容がスッと頭に入ってくる。
 「初対面」のはずなのに、イメージがわきやすい。
 言葉がストンと理解できる。
 どれだけ高度な学問の話をされても、ついていけるような気になる。


 これ、理想ですよね。
 どうやったら、学問と仲良くなれるでしょう。例えば、病理学という学問と意気投合するにはどうしたらよいのでしょうか。

 病理学は、とても情報が多いです。「病(やまい)の理(ことわり)」という字面の通り、病気のメカニズムについて考える学問です。世の中に病気は無数にあり、メカニズムもまた膨大に存在します。
病理学を単なる暗記科目と考えると、知らなければいけない「言葉」が多すぎて、死にます。これは比喩で言っているのではなく、実際に脳細胞とか胃腸の細胞とかが物理的に死にます。きっと心も死にます。

 死なないためには工夫が必要です。あの偉い先生もあの大学教授も、みんな病理学を丸暗記して身につけてきたわけではありません。コツがあるのです。

 「言葉」の裏にある、「背景」を理解する

 これが極意です。病理学と意気投合するためには、「背景」、すなわちストーリーやエピソードを理解してから学ぶのがコツです。歴史を勉強するときに、マンガや小説などで先に展開を知っておくと、
難しい人名や出来事がスッと覚えられるようになるのと一緒です。

 私はこの本で、病理学の言葉を理解するためのストーリー、エピソードを紹介しようと考えています。

 みなさんが、まずは病理学と仲良くなって、病理学の「背景」を理解し、いずれ病の理を表す「言葉」を勉強できるようになるために。

 あなたは、誰ですか。どんな人ですか。
 勉強が好きですか。得意ですか。
 がんばらなければいけないとわかっているけれど、難しくて心が折れそうだったりしませんか。
 好きとか嫌いとか関係なく、ひたすら努力するしかないのだ、と、ストイックに悟っている人ですか。
 国家試験に受かるためにひたすら知識を詰め込んでいる人ですか。
 試験が終わったら教科書を全部破って川に捨ててやろうとたくらんでいる人ですか。
 すでに医療の現場で働いているけれど、病理学については、あまりきちんと学んだ記憶がない人ですか。
 毎日医療を実践していて、さらに深く病の理を知り、明日からの臨床に活かしたい人ですか。

 どんな方がこの本を手に取られてもいいように、私はこの本で、言葉を慎重に選びます。勉強が嫌いな人でも、ラクに読めるように。かつ、勉強が大好きな人が退屈しないように。

 私は病理医の市原といいます。これからみなさんと病理学とが意気投合できるよう間をとりもつ、仲人みたいな存在です。なあに、悪いようにはしません。一通りお膳立てをしたら、あとは若い者同士で。病理学はああ見えて、懐の広い奴です。きっと気に入ってくれると思いますよ。

つづきは書籍をご覧ください
『はじめまして病理学』

市原 真 著
照林社、2021年、定価1,760円(税込)
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