この記事は『不登校・ひきこもりが終わるとき』(照林社)より再構成したものです。
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不登校やひきこもりになると生じる共通の心理状態とは
先に私は、いじめられている子のなかでも、「今の自分でいいのか?」という「感覚」を呼び覚ます「エネルギー」が「奥深くから沸き上がってくる」かどうか、言い換えれば「無意識からの指令」が「学校を休んではならない」という「規範意識」より強くなるかどうか、という違いによって、不登校になるかどうかが決まると述べました。
ということは、同じような状況でも、不登校やひきこもりになるタイプとならないタイプがある、ということになります。すると「不登校やひきこもりにならないタイプに育てるべきだ」という考え方が出てくるでしょう。というより、現に多くの人がそう考えていることでしょう。
でも私は、それは不可能だと考えています。前述のような「エネルギー」や「無意識からの指令」が出てくるかどうかは、そのときになってみないとわからないからです。
まして、ひとたび不登校やひきこもりになった人は、多くの場合どのような性格であっても共通の心理状態が生じるのです。
そのことを、ふたつの観点からお話しします。
ひとつは、不登校やひきこもりの人たちの傷の深さ、疲れの深刻さについてです。
どんなきっかけであれ、不登校やひきこもりには何らかの傷つき(トラウマ)体験や精神的疲労が、程度の差はあれ関わっています。
しかし、自宅に閉じこもればそれが癒され、安穏と暮らせるようになるのかと言えば、そうはなりません。
「学校に行けなくなった」「社会に出られなくなった」という体験そのものが、新たな傷や疲労を生むからです。
要するに、不登校やひきこもりというのは、まず「きっかけになった出来事で傷つきあるいは疲れて」次に、「学校や社会に出られなくなったという自分の状態に傷つきあるいは疲れる」という、二重の傷や疲労を招く現象なのです。
したがって、本人たちは登校や社会参加をしないで、自宅で呑気に暮らしているわけではなくて、自宅でも気が休まることなく、頭の中では常に「登校すべきだ」「社会参加すべきだ」という規範意識と、そうできない自分自身への罪悪感で、日々傷を深め、疲れを増しているわけです。
もうひとつは、当たり前のことができなくなったとき、人はそのことに対して意識過剰になってしまう、という心理についてです。
私たち現代人は、入学すれば通学して卒業し、おとなになれば就職して通勤することを当たり前だと思っています。ですから、私たちは必死に通学や社会参加している(いた)わけではなく、それらは毎日の習慣にすぎない(すぎなかった)わけですよね。
したがって「そうしなければならない」という規範が意識の上にのぼることも、それがプレッシャーになることもなく、ゆとりをもって実行できている(いた)わけです。
ところが、通学や社会参加ができなくなると、感覚が大きく変わります。すなわち、習慣でできていた通学や社会参加が「そうしなければならないもの」という規範として意識されるようになり、プレッシャーを感じ、実行するのに必死になります。
そして、本人は心のゆとりを失い、通学や社会参加に対して意識過剰になり、かえって実行が困難になっていくのです。
たとえば、登校や就職活動などに対して〝失敗の予感”を強く感じて「失敗を回避しなければならない」というプレッシャーが異常に強まったために、かえって実行できなくなり、ますます落ち込んでしまう、という悪循環にはまっていくわけです。
このような、当たり前のことに意識過剰になるという心理は、決して不登校やひきこもりに特有なものではないはずです。
ゴルフで「ミスショットをしないのが当然(であるべき)」と思っている人は「池に入らないように」とか「木に当たらないように」と意識しすぎて、かえって池に入れてしまったり木に当ててしまったりすることがあります。
寝ることが当たり前だと誰もが思っていますから、不眠症になった人は、眠ろうと意識しすぎて、かえって寝つけなくなります。
不登校やひきこもりの人たちが、しばしば「普通」への憧れと執着を過剰なまでに口にするのも、それと同じです。一般の人たちは「普通」に憧れたり「普通でありたい」と意識したりはしません。
不登校やひきこもりになって、はじめて「普通」であることがどういう状況なのかが見えてくるわけです。
ところが〝普通の生き方”を求めれば求めるほど、前述のような悪循環から抜けられなくなるのです。悪循環から抜けるためには、皮肉なことですが「普通」を求めることをやめなければならないわけです。
前述のゴルフの例では「木に向かって打て」「池に向かって打て」とアドバイスすることがあるそうですね。この、過剰な意識を逆手に取る逆説的アドバイスは、不登校やひきこもりに対応するうえで、大いに参考になると思います。
『不登校・ひきこもりが終わるとき』
丸山康彦 著
照林社、2024年、定価 1,870円(税込)
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