この記事は『考えることは力になる』(岩田健太郎著、照林社、2021年)を再構成したものです。
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看護の世界もタコツボです

 「はじめまして」
 
 岩田健太郎と申します。神戸大学医学部附属病院に勤務する内科医で、主に感染症あたりをやっています(「あたり」というのは、いろいろなことに手を出しているからで、本書もその派生物なのです)。
 
 日本は昔から他領域には口を出さない縦割り社会で、医療の世界は特にそうです。昔の政治学者、丸山眞男はこれを指して「タコツボ」と呼んでいました。タコツボの中は外からは見えない、タコツボの中のことはタコツボ内の人たちだけで決めていくって感じです。
 
 当事者の皆さんがどう感じているかは存じませんが、外から見ていると看護の世界もタコツボです。「なんで医者があたしたちに口出しすんの?」とブチ切れそうになっているような気がしますが、二言目には「これは看護マターです(だから医者のあんたは口出さないで)」と言われます。被害妄想でしょうか。
 
 確かに、「他人」に口を出すのは時にマナー違反ですし、面倒臭いことでもありますし、勇気も要ります。
 
 けれども、考えてみてください。皆さんにとってぼくは「あかの他人」でしょうか。もちろん、捉え方によっては他人といえましょう。でも、大きなくくりで「医療者」というカテゴリーで見ればぼくらは同業者であり、医療機関という同じ組織で働いているのです。仲間同士が職場の改善のためにコミュニケーションをとるのは、むしろ当然なのではないでしょうか。
 
 ある人と別の人を「仲間」とみなすか、「他人」とみなすか。そこには絶対的な真理や科学的な基準は存在しません。あるのはぼくらの「みなし」だけです。要するに、ぼくらが仲間同士と認め合えば仲間なのであり、「あかの他人」と考えれば、そうなるのです。