この記事は『考えることは力になる』(岩田健太郎著、照林社、2021年)を再構成したものです。
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マニュアル思考にならないためには?
「ナースがロジカルに考えられるように教えてほしい。ナースというとハウツーものばかりで、“結局どうすればいいの?”式の知識しか得られていない。マニュアル思考になっているんです。そうではない形で論理的に物事が考えられるようにしたいのです」と、ある方に頼まれました。
「なるほど、わかりました。では」といろいろ説明してみたのですが、どうもお気に召さなかったようです。
「岩田先生、そういう回りくどくて面倒くさい話ではなくて、“結局どうすればよいか”わかりやすく教えてほしいんですが……」
おいおい、それじゃ、そのまんま「ハウツー」じゃん。マニュアル思考にならないためのマニュアルなんて求めてどうすんの? とぼくはのけぞってしまったのでした。ドジャーン。
この「結局どうすればよいの?」という質問。わかるんです。そう聞きたくなる気持ち。とりあえずどうすればよいか、それだけ、エッセンスだけ、ポイントだけ教えてちょーだい。楽だから。腕を振って足を上げてハウツー、ハウツーって、これ元ネタわかんないですよね(なら書くなよ)。
いずれにしても、ことほどさようにナースの皆さん、ナースの社会にはハウツー思考、マニュアル思考が染みついています。染みついていることすら自分で気がつかないほどに。時々汗をかくと汗臭い自分に気がつきますが、染みついて常態化した体臭は自覚できないんです。
常態化した体臭を消すには意識的に引き剥がす工夫と努力が必要です。といっても一朝一夕に“体臭”を変えるのは難しいですから、具体的な行動パターンから始めて、だんだん変わっていく必要があります。ま、最初はやっぱりハウツーってことですかね。
「結局○○ってことですよね」という「結局」を言わない
まず提案したいです。「結局○○ってことですよね」という「結局」を言わないようにしましょう。「結局~」という言葉には思考停止があります。これ以上考えない。複雑なことも単純化して、わかりやすくしてしまう。「結局これってセクハラじゃないですか~」というセリフはすべての問題をチャラにしてそれ以上議論も考察もしなくてよい、という態度が透けて見えます。「これをセクハラと判断する根拠はいったいどこにあるんだろう」と質問を重ねていくのがロジカルな態度になります。
ロジカルでない物の考え方の特徴に「安易なレッテル貼り」があります。思考をやめ、ロジックを捨ててレッテルを貼ってオシマイ、ってやつです。その象徴的な言い方が「結局これって~」という口調になるんですね。
「外来の看護、こんなふうにしたらよいと思うんですよ」
「それは先生が医者だからそういうんですよ。看護の世界はそんなもんじゃないんです」
というふうに、「医者だから」というレッテルを貼ってしまえばこれ以上の議論は不要ですよ、という最後通告にすることができます。これは立場の表明でもあります。立場を表明してしまうと言動がイデオロギー的になり、思考停止的になります。私の立場だからそうなんだ、ではなく、どんな立場にあっても大切なのはなんだろう、という党派性を捨てた思考のほうがより深みがあり、よりロジカルです。
というわけで、今日から、「結局~」と言うのはやめましょう。口調を変えるだけで思考の方法は変わってくるものですよ。
『考えることは力になる ポストコロナを生きるこれからの医療者の思考法』
岩田健太郎 著
照林社、2021年、定価1,430円(税込)
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