ロジカルであるためには感情の量が必要

 さて、ロジカルであるためには、当然覚醒している必要があります。もちろん、まっとうな見当識も必要です。感情の種類は……まあ、ケースバイケースかな。

 しかし、感情の量、生きるエネルギーが小さいと、ロジカルでいることはとても難しいんです

 ロジカルでいるということは「上手に質問を重ねること」といいました。さて、質問をするのと、しないのとではどっちが楽かといいますと、これは「質問をしない」ほうが楽に決まっています。それ以上の努力、エネルギーは必要ありませんから。

 しかし、質問し、さらに質問を重ね、納得いくまで突き詰めていくような探索的なものの考え方を続けるためには、かなりの精神的なエネルギー量を必要とします。いくら頭の回転の速い人でも、エネルギー量が十分になければ「もういいや」と投げてしまうんです。頭はいいのにロジカルでない人はとても多いですが、そういう人の多くがこういう「投げやりな」人たちです。

 エネルギーは、別の言葉で言い換えるならば「意志の力」と呼んでもよいと思います。本当に問題の根っこはそこにあるのか、最後の最後まで吟味したい、という強い欲求の度合いです。誤解のないように申し上げておきますが、必ずしも大はしゃぎしなさい、と申しているわけではありません。静かに燃えるタイプのエネルギー量の大きさだってあるんです。

 医療・医学・看護の世界に「100点満点」はありません。どんなにベストを尽くしたつもりでも、やはりまだ改善点は残ります。これ以上改善の余地のない医療・医学・看護などは存在せず、われわれは今もこれからも改善を重ねていくのです。「これで100点満点」と満足している人がいるとすれば、それは幻想的な自己満足にすぎません。

 なので、「これでいいのか、本当にこれでいいのか?」と問い続ける(質問を重ねる)ことは、現状に満足せず、さらに改善を重ねていくために必要なエネルギーなのですね。それは「ロジカルにあり続けるために必要な燃料」と捉えてくださってもよいと思います。

『考えることは力になる ポストコロナを生きるこれからの医療者の思考法』

岩田健太郎 著
照林社、2021年、定価1,430円(税込)
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