患者さんの体験・心理についての「研究」を原著者に紹介してもらい、臨床で活用したいこころのケアを探ります。今回は、大腸全摘術後の排泄障害をもつ患者さんの心理についての研究です。

家族性大腸腺腫症患者さんの排泄障害への対処法は?

家族性大腸腺腫症患者さんの排泄障害への対処法は?

排便回数や個人差が大きいため、個人に即した介入を行う

 家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis、FAP)の治療方法としては、大腸内視鏡検査による経過観察の過程で、ポリープががん化する前に予防的に大腸全摘術をすることが推奨されています。

 大腸全摘術後は時間経過に伴って改善される可能性をもっていますが、排泄障害を起こしやすくなります。術直後の排便回数は1日10~20回以上と差があり、止瀉剤の使用状況もさまざまです。
 また、家族性大腸腺腫症の年齢別累積大腸がん発生率を考慮すると20~30代で手術を受けられる方が多く、術後3か月で職場復帰できる方もいれば、手術をきっかけに離職される方もいます。

 このように個人差の大きい症状をマネジメントするためには、個々の患者さんに即して介入する必要があります。そこで、大腸全摘術後の排泄障害への対処方法を明らかにするために、患者さんがどのようなプロセスを経て対処方法を確立していくのか検討を行いました。

本研究は、以下の倫理的配慮のもとに実施されたものです。
●本研究は、研究倫理審査の承認を受けて行っています。
●対象者には口頭および文書で研究目的・方法・参加の自由・拒否や途中辞退の自由・個人情報の保護などの説明し、同意を得て実施しています。
●身体的・心理的な状態に注意を払いながら面接を行うことにより実施されたものです。

研究の方法

疑問(調べたこと)
●大腸全摘術後の患者さんは、術後の排泄障害へどのように対処している?

研究対象
●家族性大腸腺腫症患者さんのなかで、大腸のポリープががん化する前に大腸全摘術(回腸嚢肛門吻合術)*1を受けられた方5名(男性1名、女性4名。平均年齢は34±7.96歳)
●術後経過月数は14.8±8.61か月

研究方法
●術後の排泄障害の状況、排泄障害への対処方法、対処方法を獲得したプロセス、社会復帰状況などについて半構造化インタビュー*2を行った

*1【回腸嚢肛門吻合術】ileoanal anastomosis(IAA)。直腸粘膜切除・回腸嚢肛門吻合術とも呼ばれる。直腸の代わりに便を溜めるJ型結腸嚢(Jポーチ)を小腸で作り、肛門につなぐ方法。直腸粘膜もすべて切除するため、粘膜の再燃・がん化の危険性がなくなるが、術後の肛門機能が低下する可能性は高いとされている。そのため術後は、頻回排便、分割排便、便失禁、便意促迫、便排泄障害(残便感、便秘、排便時間の延長)、腹痛・腹部膨満感などの症状を呈することがある。

*2【半構造化インタビュー】ある程度の質問項目をあらかじめ決めておくが、対話の流れに応じ、表現や順序を変更して質問する面接法。

発見:親の症状体験の記憶をもとにしつつ、対処方法を確立

この記事は会員限定記事です。