入院そのものにかかる費用について患者さんから相談されたら、看護師はどう答えればよいのでしょうか。高額療養費制度について患者さんに説明できると、不安を軽減できる場合も。看護師FPが詳しく解説します。

患者さん

これ以上長く入院するにはお金が足りないんだよね。だから早く退院したい

看護師

お金が足りないことは不安ですよね。ですが、治療のこともありますので、もう少し詳しくご状況を教えていただけますか?

「お金が足りない」に込められた複数の意味とは?

 患者さんの「お金が足りない」という言葉のなかには、入院費の心配以外にもさまざまな不安が隠されている場合があります。このような不安が聞かれたとき、「退院して、通院が可能な病状なのか」といった身体的な面からの評価を行うとともに、患者さんの発言の本心を探っていくことが大事です。
 これは、患者さんに一番身近な看護師だからこそできることです。まずは患者さんが発した言葉の意味を確認していきましょう。

患者さんの不安の本質をつかみ、看護師と医療ソーシャルワーカー(MSW)が連携

 制度やお金の説明は複雑で、患者さんが使える細かな金額などを聞き出すとなると、専門的な制度やお金の知識が必要となってきます。また、聞き出すために時間も要するため、「病棟ではなかなか説明の時間がとれない」という声も聞きます。

 そのため、院内のMSW(medical social worker:医療ソーシャルワーカー)と連携していくことが望ましいのですが、その際に看護師として患者さんの不安の本質がつかめていると、MSWとの円滑な連携が行えるのではないでしょうか。

 そこで、日々のかかわりのなかで患者さんに確認しておくとよい内容と、そのために必要な制度やお金の情報について解説していきたいと思います。

患者さんと確認したい内容

1.高額療養費制度の理解度と、想定している入院期間

 患者さんが抱えているのが漠然とした不安なのか、入院期間はどのくらいを想定しているのかといったことのほか、高額療養費制度の理解についても確認しましょう。

 「個人差はあるが、高額療養費制度により医療費は一定額まで抑えられるので、1か月内であれば延長しても金額は一緒である」ということを表1を見せながら説明できると、患者さんも安心されることがあります¹。

 なお現在、国では高額療養費制度の「ひと月あたりの上限額」の引き上げが検討されています。そのため、表1の上限額が今後変更になる可能性があることに注意してください。

表1 高額療養費制度の自己負担上限額の違い

高額療養費制度の自己負担上限額の違い
(文献1を参考に作成)

2.食事代やレンタル代、個室差額ベッド代などの状況

 公的な保険が使えない食事代や諸器具などのレンタル代、個室のベッド代の差額といった金額がかさみ、入院費が心配だという声も多く聞かれます。厚生労働省のデータによると、1人室の1日あたりの差額ベッド代の平均額は8,322円でした(図1)²。

 地域によって差はありますが、首都圏では数万円以上する部屋もあります。患者さんの希望の有無はもちろん大切なのですが、各医療機関での決まりもあるため、差額ベッド代が入院に伴う心配ごとであることが判明した段階で、病棟責任者やMSWとの相談をすすめるのが望ましいでしょう。

図1 1人室の1日あたりの徴収額(金額ごとの集計、令和4年7月1日現在)

1人室の1日あたりの徴収額(金額ごとの集計、令和4年7月1日現在)
(文献2を参考に作成)

3.入院費以外のお金に関する心配ごと

 働いて収入を得ている患者さんは、入院中は働けずに収入が減ってしまうことで、家賃や光熱費などの毎月かかる支払いに対する心配を抱えていることがあります。特に自営業の方は会社員などのような公的な収入保障がないため、入院費のほかに家計や事業の存続のお金について悩んでいることがあります。また、家族を養っている場合には、家族の生活費や教育費、親の介護のことなど、心配ごとは尽きません。

 患者さんの収入源は、就労によるものか年金か、それ以外にもあるのかによっても変わります。入院時に職業や家族情報などの社会的な情報を聞くときに、このような心配がないかどうかも確認できるとよいでしょう。

 なお、公的な制度では解決が難しい費用捻出の方法についてはファイナンシャル・プランナー(FP)が専門家となります。家計の見直しは実際に反映されるまでに時間を要しますので、早めに相談できるとよいでしょう。

4.退院した後の生活をどのように考えているのか

 患者さん自身で、身の回りのことや体調管理などを行える状況であればよいですが、難しい場合には通院の頻度も多くなり、そのぶん交通費がかかることなども想定されます。自宅療養中の介護費用なども含めた療養生活の費用について、MSWやケアマネジャーとともに検討していく必要があります。
 そのため、退院後の生活や治療について患者さん自身はどう考えているのかを伺えるとよいでしょう。

1.厚生労働省保健局:高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から).
https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf(2025.2.4アクセス)
2.厚生労働省:主な選定療養に係る報告状況.
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001117412.pdf(2025.2.4アクセス)

【第3回】治療や介護サービスの費用についての患者さんの悩みにどう答える?(3月18日配信予定)

この記事は『エキスパートナース』2024年6月号連載を再構成したものです。
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