ドラマ化や本屋さんの平積みが読むきっかけに。「病理医が主人公って珍しい」
※一部作品のネタバレがあります
白石 では、本題に移りましょう。お2人が『フラジャイル』を読み始めたきっかけはなんでしょうか。私はドラマ化を知ったからでしたね。当時、仲が良かった小児科の医師が読んでいて面白いよと勧めてくれたのもあります。
かげさん 私もドラマ化したことと、X(旧Twitter)で話題にしている某病理医の先生がいて、それがきっかけです。ドラマや漫画では外科医がクローズアップされることが多いですけど、病理医の話って新しいなと。
病理医は大学の先輩にもいたので、わりと身近に感じました。読んだ当初は少し難しく感じることもありましたけど、今あらためて読み直すとわかることも増えてまた違った感覚で面白いですね。
大森ちゃん 私は本屋さんで平積みされているのを見て、病理医って珍しいなと思って手に取ったのがきっかけ。たしか1巻とか2巻が発売されたばかりの頃です。
1巻では緩和ケアの稲垣先生というキャラクターが出てきて、緩和ケアについて誤解や偏見なく取り扱われているのをみて、「これは安心して読めるぞ」と思いました。患者さんや医療者が抱えている想いや背景みたいなものがすごく丁寧に書かれているなと、読み始めたら面白くてハマってしまいましたね。
1巻からの伏線に涙するシーンも
白石 好きなポイント、印象に残っているシーンなどは?
かげさん 好きなシーンでいうと、まず1巻の第4話。緩和ケア科の稲垣先生が「彼がやると決めたら俺は全力でそれを手伝う それが彼の生きる気力になるんだったら生きる気力を与える それが緩和医療なんだ」「痛みなく死を迎えるためのものなんかじゃない 死ぬまでちゃんと生かす それが俺達の仕事」と、臨床検査技師の森井君に話をするんですね。本当に緩和って痛みを取るだけじゃないと思うんですよ。
この話、最初は腫瘍内科の先生と若い末期がんの小早川さんとのやりとりで、積極的な治療はもうしないという選択をするんです(1巻第3話)。
だけど、稲垣先生の「今のままならお前は死ぬ直前に絶対後悔する!」という言葉で、小早川さんは自分のやりたいことを思い出して、頑張ってみるようになるんです。
医師による治療の提案の仕方、医師との会話によって患者さんの気の持ちようがだいぶ変わるんだなと思いました。すごく考えさせられて、心にきたシーンですね。
大森ちゃん 私が印象に残っているのは、その小早川さんが最初で最後に作った曲が、6巻から8巻で登場する心不全の終末期にある茅原さんとその娘の笑美ちゃんに渡って、親子でオーケストラの指揮をする話です。
緩和ケアや終末期に携わる人にぜひ読んでもらいたいですね。お互いに想いが強くあるから茅原さんと笑美ちゃんがすれ違うこともあり、大切な人をなくすというつらさがぎゅっと詰まっていて、違和感なく読めるんです。
特に8巻第29話では、笑美ちゃんが公演用にお父さんのネクタイを借りようとしたときに、箱のなかにメッセージが入っていることに気づくんですね。それで、実際に舞台で楽譜を読みながら小早川さんの想いと共鳴するところや、お父さんのメッセージに対して自分の気持ちに気づくシーン。
ここまでの9ページの流れの美しさ、1文字1文字噛みしめて読んで、本当に涙なしには語れないです!一番好きなシーンですね。
かげさん 1巻とつながっているのがいいですよね。
大森ちゃん そうなんです。私、看護師の醍醐味ってこうした関わった人たちの命をつなぐことだと思っていて。小早川さんと茅原さん親子がつながっていくところは、すごく医療者の醍醐味のように感じられます。
白石 本当にそうですよね。私は特別このシーンがというのは絞りきれなくて…だけど、ちょっと違った視点で作品の好きなところをあげると、主人公である岸先生の過去の話や背景がかなり後にならないとわからないというのは、珍しいのかなと思いながら読んでいました。
なぜ病理医に転科したのか、なぜいつもスーツなのか、なぜ嘘にまつわるエピソードがこんなに出てくるのか…と、いろいろ不思議に思う伏線がようやく9巻になって回収されていってある意味カタルシスを感じられました。
あとは、看護師があまり出てこないのも個人的にいいなと思っています。よくかっこいい看護師さんや愛嬌のある看護師さんがモブキャラでも登場しますけど、『フラジャイル』ってほとんど出てこないですよね。それがある意味新鮮で、変におまけみたいな形より出てこないほうが潔くていいなという気持ちで読んでいます。