『やさしくわかる透析看護 第2版』の試し読み記事をお届けします。今回は、腎代替療法の1つである腹膜透析(PD)の特徴やメリット・デメリット、患者への情報提供のポイントなどを紹介します。
腹膜透析(PD)は、PDカテーテルを介して、透析液を腹腔内に貯留・排液をすることで、生体膜である腹膜を利用して透析を行います。治療は主に自宅で本人や家族によって毎日行う治療です。
透析による身体的な負担が少なく、通院月1~2回のため自由度が高いことがメリットである一方、毎日PDを行い、PDに関する自己管理が必要です。
PD管理を継続しながらその人らしい生活が続けられるように情報提供を行いましょう。

PDの特徴
・血液透析(hemodialysis:HD)は、血液を体外に取り出して人工腎臓を介して血液の浄化を行いますが、腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)では生体膜である腹膜を利用して血液の浄化を行います。腹腔内に挿入したカテーテルを通して直接透析液を注入し、一定時間貯留している間に腹膜を介して血中の老廃物・水分や塩分を透析液に移動させます。十分に移動した時点で透析液を体外に取り出すことにより血液浄化が行われます1)。
・PDには、連続携行式腹膜透析(CAPD)と自動腹膜透析(APD)の2種類があり、生活スタイルや腹膜平衡機能検査(PET)の結果をもとに、CAPDかAPDどちらかの治療法を選択します。
腎代替療法の分類

PDのメリット・デメリット
医療的メリット
・残存腎機能の保持にすぐれている
・体液の恒常性が保たれる
・血圧の変動が少なく、心血管系にやさしい
・不均衡症状が少ない
・透析時に痛みを感じることが少ない
・血液の喪失がない
・抗凝固剤が不要
・HDと比較して食事制限が緩やか
・HD困難症でも、PD適応の可能性がある
医療的デメリット
・腹膜炎や出口部感染のリスクがある
・ヘルニア、腰痛、横隔膜交通症など腹圧上昇に伴う合併症のリスクがある
・蛋白質、アミノ酸喪失
・生体膜である腹膜の劣化
・PD液中のブドウ糖吸収による肥満や高脂血症を起こすリスクがある
・残存腎機能の低下に伴い、PD単独では除水や溶質除去など、透析不足になる可能性がある
・PD単独では透析不足の場合、HDの併用・移行など療法選択が再度必要になる(身体的・心理的負担)
・HD併用・移行、移植へ変更時再度手術を受ける必要がある
社会的メリット
・外来は月1~2回のため、通院回数が少ない
・社会的活動に制限が少ない
・旅行時には旅行先でも治療が可能で、自由時間が確保しやすい
・災害時には、自宅もしくは避難先でも病院に行くことなく治療を継続可能
・基本的に運動の制限がない
社会的デメリット
・PDを行う環境は清潔に保つ必要がある
・透析液の保管・在庫管理が必要(1か月分の物品=ダンボール30箱以上)
・PDに関するゴミが多量に出る(PD液や段ボールなど)
・屋内でペットを飼っている場合、PDを行う部屋にペットを入れない環境調整が必要
・自己管理やPD操作が困難な人は治療継続が困難(社会支援を受ければ可能)
PD導入に関する患者への情報提供
・PDは患者、家族が毎日自宅で治療を行います。通院は月1回と少なく、QOLが維持されやすいため、社会復帰もしやすい治療法です。また、治療による疲労感や疼痛、血圧の変動も少なく、HD困難な患者にとってもPD導入は選択肢の1つとなります。PDの有用性を活かすために、透析療法は計画的に導入することが望ましく、適切な時期に情報提供を行うことが重要です。PDを選択する場合、できるだけ早い段階からの導入(PDファースト)が有効といわれています。反対に、自宅で最期の時間を穏やかに過ごすためのPDラストという導入もあります。
・PDは病院に通院して行うHDと異なり、本人・家族が治療を行うため、手技・知識の獲得が重要です。理解度や受容段階に合わせて説明を行い、情報提供時に実際にPD物品に触れてもらいながら説明することも有効です。また、医療者側も患者の生活環境や生活リズムなどの状況を把握することで、安全に治療が継続できるよう個別性に応じた支援をすることが可能となります。PDを継続していくうえで協力者の存在も大切です。本人・家族ではPD継続に不安がある場合は、訪問看護など地域との連携を図り支援することも検討しましょう。
・PD導入後には、自宅に医師から処方された薬液やPD物品が毎月届き、PD機器は業者からのレンタル品を使用します。大量の物品が届くため、「こんなはずじゃなかった」とならないために、自宅のPD環境についても事前に説明しましょう。
・PDを継続しながら仕事や趣味を続けていけるように、患者・家族と一緒にPD開始後の生活をイメージしながら説明を行い、PD開始後も生活への不安軽減についても支援しましょう。
当院でのPD導入の流れ

PD生活についての説明内容
仕事
・制限なし
・仕事内容・勤務時間・環境によってメニュー検討
・職場への配送可能(別途料金必要な場合あり)
食事
・大きな制限なし
・蛋白質:PD液への蛋白漏出があるため、良質な蛋白質の摂取が大切
・カリウム:毎日治療を行うため、HDに比べて制限は緩やか
・塩分:塩分摂取は過剰にならないように注意
旅行
・制限なし、旅先で治療継続
・PD物品:患者自身で持参する/宿泊先への宅配サービス(別途料金必要)の利用が可能
・国内旅行は1か月前、海外旅行は2~3か月前までにスタッフに報告と相談を
運動
・基本的に運動制限なし、積極的に運動をすすめる
・運動時にはカテーテル出口部がこすれないようにガーゼなどで保護する
入浴
・毎日入浴可能
・浴槽のお湯は入浴ごとに入れ替え、浴槽を洗い清潔に気をつける(一番風呂がベスト)
・入浴前にカテーテルと出口部を保護して入浴、入浴後は消毒。術後2~3か月はパウチで保護(クローズド入浴)。カテーテルの出口部の状態によってはパウチを使用しない入浴(オープン入浴)も可能な場合あり。温泉やプールに入る場合には必ずパウチ装着
環境
・透析部屋はこまめに清掃
・透析液の保管は直射日光や高温多湿を避け保管(配送業者が指定の場所まで搬入対応)
・ペットはPDを行う部屋には入れないようにし、ペットに触れた手でPD操作をしない。腹膜炎のリスクになる可能性あり、特に換毛期には掃除をこまめに施行すること。ペットの爪などでカテーテル破損に注意
・敷布団を利用している人でAPD導入の場合、APD機器を床に近い低い位置に設置する
性生活
・出口部の圧迫やチューブが絡まないなどの配慮をすれば可能
・妊娠を考えている場合は、HDへの移行も必要となるため、主治医に相談する
PD開始後の留意点
・PD治療中でも、残存腎機能が低下する場合、腹膜の劣化によるPD効率の低下、合併症などでPD継続が困難と判断した場合、HDの併用やHDへの完全移行が必要になります。
・治療開始後も、患者の状況に応じて、PD⇄HD、PD⇄移植チームとの連携や情報の共有を行うとともに、患者に対しても情報提供を行い、治療の変更に伴う不安の軽減に努めるなどPD後の生活を継続して支援していくことも大切です。
- 1.日本腎臓学会,日本透析医学会,日本移植学会,他:腎不全 治療選択とその実際 2022年度版.
https://jsn.or.jp/jsn_new/iryou/kaiin/free/primers/pdf/2021allpage.pdf(2025.7.1アクセス)
2.腹膜透析ガイドライン改訂ワーキンググループ編:腹膜透析ガイドライン2019.2019.
\続きは書籍で/

やさしくわかる透析看護 第2版
小林修三 監修、日髙寿美 編著、愛甲美穂 編著
B5・240ページ、定価2,970円(税込)
照林社
前回の記事はこちら↓
腎代替療法における意思決定支援と腎移植の基礎知識
血液透析の目的と帰室後の血圧変動のリスク
連載記事一覧はこちら
当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。