事例➂ 患者さんからハラスメントに該当する言動があったとき、とるべき行動は?

 発言や行動に問題のある患者さん。スタッフに対するセクハラ・パワハラ行為がみられます。しかも、看護師と接するときと、リハビリテーションスタッフとで態度が違うようです。同じ職場で、ハラスメントを受けるスタッフと受けないスタッフがいるとき、どのように(ハラスメントを受けている)スタッフを守っていけばよいか、そのためにどう協力すればよいかについて考えていきます。

患者さんの情報

●60歳代後半、男性
●妻との2人暮らし。息子夫婦は遠方に在住。仕事は建築関係で、部長職に就いた後、定年退職。現在は非正規雇用で勤務。妻いわく、「本人はがんこな性格です。典型的な亭主関白ですね」とのこと。
●数年前より下肢の痛みやしびれがあり、腰椎脊柱管狭窄症の診断を受けた。しかし、もともと病院嫌いであり、手術を拒否。整骨院に通いながら薬物療法などを行い、様子を見ていた。
●今年に入ってからは仕事にも影響が出るようになり、家族の説得もあって手術目的にて入院。
●入院当初から「あの看護師さんは好みのタイプ、結婚しているのかな」「自分がもうちょっと若かったらアタックしていた」など、看護師の個人情報を詮索するような発言などがあった。しかし、病棟看護師は「冗談をよく言うちょっとやっかいなおじさん」と受け流していた。
●手術直後からは「痛いと言っているのに、なんで薬が使えないんだ!責任者を出せ!」「ナースコールを押したらすぐに来い!」などと、特に若い看護師に対して声を荒げる場面も見られるようになった
●しかし、リハビリ時の男性スタッフや医師、男性看護師に対しては終始穏やかであり、「いつもありがとう」などと感謝の言葉をかける場面もあった。
●これらのことから担当医に状況報告をしたが、「もう数日で退院だから……」との返事。病棟では要注意患者として、若い女性スタッフのかかわりは極力避け、男性スタッフがメインとなってかかわることにした
 
※事例は、メディッコメンバーの経験に基づいて設定した架空のものです。

喜多

きた

メディッコ代表。理学療法士、12年目。回復期リハビリテーション病院でリハビリスタッフたちをまとめつつ、病棟スタッフとの架け橋役として奮闘している。

みややん

みややん

言語聴覚士、11年目。在宅医療を提供する法人で訪問STとして勤務。平スタッフながら、いろいろな部署に顔を出して、自他の働きやすさを考えている。

久原

くはら

臨床工学技士、13年目。総合病院にて子どもから大人、急性期から慢性期までの幅広い業務に従事している。

ふくっち

ふくっち

看護師、8年目。公認心理師。精神単科病院の認知症病棟に所属し、週に1日、心理室で心理師として働いている。

rosso

ロッソ

護師、16年目。脳卒中リハビリテーション看護認定看護師。急性期を経て、現在は回復期病棟の看護師。

猫兄貴

ねこあにき

薬剤師、8年目。がん基幹病院にて勤務。今年から治験部門で多職種と連携しつつ働いている。

メディッコメンバーの視点

喜多(理学療法士) こういうケースの患者さんは少なくないですよね。ただ、リハスタッフとしては「あの患者さん、対応が大変なんです!」といった言葉を看護師さんから聞くことはあっても、そういう姿を直接見ることがなくて、アドバイスや対応に悩むこともあります。看護師さんの悩みが多職種と共有されず、がまんを強要されるとつらいですよね……。

みややん(言語聴覚士) 確かに、こうしたハラスメントの悩みは共有されづらいですよね。言語聴覚士は個室の訓練室を使うことが多いのですが、似たような場面に出合ったことが何度かあります。冗談だと思って笑っていても、だんだんと内容がエスカレートしていったり、内容によっては人に相談しづらかったりします。「私の勘違いかも」と自分をごまかすことも正直、ありました。

久原(臨床工学技士) この事例は、セクハラもパワハラもある「ダブルパンチ」な状況なんですね。僕がたまたま遭遇したことがないだけか、これは架空の事例だとわかっていても、実際に似たようなことがあるとは正直驚きです。顔を合わせることが多いぶん、エスカレートしていくのか……。これが看護師の職場環境として「よくある事例」だとしたら、早急に職場全体として対策をする必要があると感じます。

ふくっち(看護師) 女性の看護師さんから、このような話は何度も聞いたことがありますし、実際にそのような態度の患者さんを見たり、かかわったりしたことがあります。
 基本的には男性看護師が対応するようにしますが、例えば夜勤帯では看護師が少数になって、男性看護師が対応できない場合もありますからね……。女性看護師の不安やストレスは大きいと思います。

rosso(看護師) 特に若い女性看護師は、ターゲットになりやすい傾向にあると思います。
 しかし、この患者さんの場合で考えてみると、重い腰をあげてようやく手術を受けたにもかかわらず、想像以上の痛みや入院生活だったのかもしれません。だからといってセクハラ・パワハラが許されるわけではないと思いますけどね。患者さんのバックグラウンド(生活背景)を理解しつつ、ハラスメントをスタッフ間で情報共有・対策できるようにしなければならない事例ですね。

猫兄貴(薬剤師) 医療者側は「患者さんも入院生活でいろいろとストレスがたまってそうだから……」とやさしく様子を見ることもありますが、度を超えてくるとそれでは済まない話になってくるから困りますよね。
 病棟にいたころは、薬に関するクレームだったら薬剤師の自分が対応したり、配薬のタイミングで看護師さんと一緒に訪室したりしていました。
 ただ、自分もいつも病棟にいられるわけではないですし、そうした患者さんの担当を常に男性看護師にするのも限度があるので難しいですよね。