もう一度顧みてほしい、医療者と患者のコミュニケーション
治療がうまくいくかどうかは医者の腕、と言ってしまえばそれまでですが、医療者と患者・家族とのコミュニケーションが不可欠であることは間違いありません。特に根治できないようながん治療にとっては、周囲からの精神的な支えは重要です。
「コミュニケーションをうまくとる」とひと口に言っても、簡単ではありません。ワークショップなどで学んだとしても、そんなに簡単に「相手の本当の気持ち」がわかるわけはないのです。「仕事ができるけどコミュニケーションがへたな人」と、「仕事はいまいちだけどコミュニケーションがうまい人」など、いろいろな人がいます。みんなが両方を備えていればベストですが、そういうわけにもいきません。どちらが重要かは状況によって違います。
現在が過渡期だとは思いますが、病院のスタッフはリスク管理などにあまりにも手を取られすぎていて、コミュニケーションが以前より軽視されている……今回患者になってみて、そんなふうに感じました。
本当の気持ち、身体や心の痛みは当人にしかわからず、それをうまく伝えられずにもどかしく思う患者も少なくありません。実際、医療の専門職である自分でさえ、術後の肩の痛みや言葉にできない「病や みだるさ」、精神的な苦痛などはうまく伝えられませんでした。
コミュニケーションがうまくいっていないと、患者は医療者に「上から目線」で話しかけられていると受け取り、変な誤解を生む可能性もあります。やはり医療者側がうまく患者の「声」を聴きとり、双方向性の会話に持ち込むしかすべはないものと思います。
いま看護師が時間を取られている業務(電子カルテへの記載ダブルチェックなど)では、もっとIT化が進み、例えばウェアラブルなツールが普及すると、ベッドサイドに看護師が行かなくても検温結果が電子カルテ上に示されるようになるかもしれません。そうなると、看護師の業務はどのように変化していくのでしょうか?
医療の世界に限りませんが、今のうちから「人間にしかできないこと、人間だからできることは何か?」ということをしっかりと認識しておかなければなりません。そして、絶対に残るものの一つにコミュニケーションがあるはずです。
今後、医療や技術がどんどん進歩するなかで、流れに合わせていくことも重要ですが、先を見て、「世の中が変わったとしても変化しないものは何か?」を考えておくことも大切ではないでしょうか。
そして、波乱の次章へ
手術後の合併症も軽快し、経口摂取も開始となったため、転院してリハビリをしながら徐々に社会復帰を考えよう。そんなふうに意気揚々と思い描いていた矢先……。世の中、特に進行がんの治療は思った通りにいかないことを実感することになります。
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