この記事は『がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと』(西村元一著、照林社、2017年)を再構成したものです。
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執筆、講演活動の反響

 体調が落ち着いてきた頃から、講演活動を開始しました。以前に書いたように、残された人生の目標として「金沢マギーの実現」とともに「自分の体験を話すこと」の2つを掲げており、その一環としてやっています。

 がん治療医でがんになられた方はそれなりにいらっしゃると思いますが、積極的に講演活動をされている方はそれほど多くはないと思います。私は、とりあえず最初は近場の北陸3県で活動をスタートさせました。
 
 講演活動を始める前から専門誌、そして一般の方向けに新聞にコラムを書いて おり、両者ともにそれなりに反響が来るので、おそらく講演のニーズはあるものとは思っていましたが、実際のところは心配していました。

 しかしながら結果を見ると、案外「受け」もいいようで口コミなどで広がり、他地域からの依頼も増えてきました。自分自身としては「もし自分の体験を話すことによって何か参考になれば」と思い、依頼があれば積極的に受けています。

講演で伝えていること:医療者へ

 医療者対象の講演では、「がん治療医ががんとなって見えたもの、考えたこと」というようなタイトルで患者の立場から話しています。内容としては、患者になってわかったこと(患者になる前の想像とは異なったようなこと)、医療者に求めることや残された人生の目標などについてです。そしてそのなかの「質疑応答」が大事だと思っています。そこで、最近の質問で記憶に残っていることを2、3挙げたいと思います。

Q「治療中のところどころでQOLの変化はありましたか?」

 治療状況にもよりますが、そのところどころでも変化することは間違いありません。考えていたことより結果がよかったりすると、すぐにQOLは上昇します。逆にちょっとした症状、例えば単なる腰痛症のような感じでも、症状が持続するような場合にはどうしても『がん』と結びつけてしまい、簡単に低下します。全体の大きなQOLの流れと日々の小さな動きを別にとらえたほうが、わかりやすいかもしれません。

 ただ、医療者はすぐにQOLが何%云々と言いますが、その原点をどこにするか?ということに関して、患者はけっこうとまどっているのが本当のところではないでしょうか。スコア化して推移をみることも重要ですが、やはり患者の『声そのもの』も、きちんと取り上げるべきだと思います。

Q「先生が自分の病状なども含めてここまでさらけ出すのは、何がそうさせているのでしょうか?」

 いろいろな役職に就いていたので、ある程度周囲に自分の病状を話さないといけなくなりました。
 そうすると『誰に話して、誰に話していないか』ということがわからなくなりそうだったので、それならばオープンにすべてカミングアウトしようということにしました。そして、せっかくそうするならば、少しでも皆の参考になるようにということで専門誌や新聞にも書かせてもらうようになりました。そのことが自分自身の闘病意欲につながっている、『Win-Winの関係』となっています。

講演で伝えていること:一般の方へ

 一般向けの講演では、「がんと言われてやってきたこと、やっておけばよかったこと」というテーマで、がんと診断されてからやってきたこととともに、自分自身はできなかったことや、自分の反省として「準備しておいたほうがよかった」と思うことを話しています。

 さらに医療者として、患者さんに「こうしたことを日ごろから準備しておいてほしい」ということや、逆に「医療者だからこんなことはわかっていたつもりなのに、実際に患者になったらこんなところが足りなかった」というようなこと、そしてまだなじみのない方もおられるインフォームド・コンセントやセカンドオピニオンについてお話ししています。そういう講演の質疑応答のなかで、よく聞かれることは以下のようなことです。

Q「治療する病院を選択する際に注意することは?」

 今までのように、『この病院で見つけてもらったからここで治療を受けないといけない』などと考えるのではなく、設備やスタッフなどをよく調べて治療施設を決めるべきです。そしてマスコミなどに変に踊らされないことも重要です。また治療が長引くこともあるので、家族の利便性のことなども考える必要があります。

Q「なかなか看護師さんたちに声をかけづらいのですが、どうすればよいですか?」

 やはり日頃からのコミュニケーションが重要なので、患者さんたちのほうからできることといえば、まず『自分の受け持ち看護師さんや薬剤師さんが誰であるか』を知っておくこと。そして病棟のスタッフにできるだけあいさつをするようにしておくと、お互いに声をかけやすくなると思います。
 
 今後も自分の体調の許す限り、自分の話でよければぜひ講演活動を続けていきたいと思っていますし、そのことが何よりも、闘病意欲につながるものと思っています。

がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと【第14回】予想外に長生き!

『がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと』

西村元一著
照林社、2017年、定価1,430円(税込)
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