この記事は『がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと』(西村元一著、照林社、2017年)を再構成したものです。
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がんが見つかり治療が始まってからけっこう時間が経ち、ときどき以前のことを振り返ることがあります。
そこで今回は、「そのときどき」で考えていたことを書きたいと思います。当然ながら時期によって考えていたことはだいぶ異なっていますが、ただ言えるのは患者となってみて、単に治療に関することだけではなく、「自分のこと」「家のこと」「家族のこと」「仕事のこと」など本当にたくさんのことを考えてきた、ということです。
治療当初は「やっておくべきこと」で大忙し
「何も治療をしなければ予後半年」と言われて治療が始まったころは、どちらかというと「医療をある程度知った患者」になりきり、医局の後輩を中心とした医療チームにすべて任せてしまっていたこともあって、「この先どうなるのか?」というよりも「公私いろいろな面で自分がいなくなって困ることはないか?」「元気なうちにやっておく必要があるのは何か?」ということばかり考えていたといっても過言ではありません。
もともと整理整頓が不得手であるのに「迷ったらまずは保留」という感じにものごとを先送りにしたり、頼まれたことは基本的に「Noとは言わない」性格が災いしたりしてか、けっこういろいろな仕事を抱えていました。かつ秘書のような役割を担ってくれるような人もおらず、結果として自分の手帳(というより頭の中)のみでマネジメントを行いながらギリギリの生活を送っていました。
そのような「危機管理がなっていない」状況のなか、まさか自分がこのような病気になるとは夢にも思っていなかったので、当然のことながらやっておかないといけないことでてんてこ舞いになってしまい、病気のことを考える余裕がなかったとも言えます。加えて今考えると、現実から目を背けたかったのかもしれません。
次は治療そのものや自分自身のことで頭がいっぱいに
そして本格的に抗がん剤治療が始まってからはじめて、「どんな副作用が出るのだろう?」というような治療に関することとともに、先が見えないことから「効かなかったらどうなる?」「治療はこの先どうなるのか?」「今の治療がダメなら次はどうなるのか?」「本当にずっと治療を継続しないといけなくなったらお金は大丈夫だろうか?」などということを考え、ひどいときは夜も眠れないこともありました。
そして本当に治療でつらいときには「治療を止めたら楽になるのかな?」とけっこうネガティブな気持ちになったこともあります。
ただ言えるのは、前述のように本格的な抗がん剤治療が開始された当初は、基本的には「治療そのもの」や「自分自身に関すること」を考えていた時間が非常に多かったような気がします。もともとがん治療に携わっていたのでわかりすぎるくらいにわかっているつもりではいましたが、いざ自分が治療を受ける立場になると、知識なんて頭から飛んでしまい、「不安や苦しみに対すること」で頭がいっぱいいっぱいで、まわりのことを考える余裕などなかったのは間違いありません。
今度は家族やまわりのことを考え、さらに関心は外に向き…
治療期間がだんだん長くなり、それなりに安定してくると、今度は「家族やまわりのこと」を考えるようになりました。「自分がこのまま想定外に早く逝ってしまうと、あとに残された家内は大丈夫だろうか?」「手を離れたと言ってもまだ独身である子どもたちは?」などと、特に自分がいなくなってからのことをよく考えるようになりました。
さらに状態が落ち着いていた場合には、関心が外に向き、昔自分が関与していた仕事のことなどを考えたり、懐かしい友人や仲間のことを考えたり、行きたい場所・食べたいものなどを考えたりすることもありました。
治療そのもののことも考えますが、治療が始まった当初とは考える内容が異なってきたのは確かです。
患者が「何を考えているのか」を常に意識することが大切
当然、病状によっても考えることは変わると思います。根治が期待できる状況や非常に安定した状態であれば、おそらく残す家族のことよりも仕事関係、すなわち自分のキャリアのことが中心になるかもしれません。また、年齢によっても違うはずです。若ければ若いほど家族のこと、仕事のことなど考えることは多くなるはずです。
患者は少なくとも一人ひとり病状が異なり、そして家族関係をはじめとしてさまざまな環境も異なるので、当然「考えること」「考えないといけないこと」も千差万別です。「患者がどのようなことを考えているのか?」といつも気にするということも、良好なコミュニケーションをとるうえで重要なのではないでしょうか?
『がんになった外科医 元ちゃんが伝えたかったこと』
西村元一著
照林社、2017年、定価1,430円(税込)
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