【前編】がんゲノム医療ってどんなことを行うの?①がんゲノム医療の現状

おさえておきたいこと

がんゲノム医療が抱える課題
●がん遺伝子パネル検査を受けられる病院は、 計256病院のみ(2023年11月現在)
●必ずしも遺伝子変異を発見できるわけではない
●「診断時」には検査を受けられない

 このような先進的な技術で発展してきたがんゲノム医療は、今後医療の進歩に加速度的に貢献していくことが広い分野から非常に期待されているのですが、まだまだ新しい技術であり、解決すべき課題がたくさんあります。

がん遺伝子パネル検査は、すべての病院で受けられるわけではない

 まず、①がん遺伝子パネル検査はすべての病院で受けられるわけではありません
 厳密な精度管理と、検査後の専門的なケアが必要なため、「がんゲノム医療中核拠点病院(13か所)」「がんゲノム医療拠点病院(32か所)」「がんゲノム医療連携病院(211か所)」の計256病院 図1 1)でしか検査を受けることができません。

図1 がんゲノム医療中核拠点
(文献1を参考に作成)

 患者さんががん遺伝子パネル検査を受けたい場合、これらのいずれかの病院へ紹介状と手術検体や生検検体を送り(これは患者さんから希望があった場合に主治医が手続きを行う)、患者さんが受診する必要があります。

 その後、各病院の担当医が検査会社にがん遺伝子パネル検査のオーダーを行いますが、検査を行っても結果の解釈が(医師であっても!)とても難しく、遺伝カウンセラーや分子遺伝学の専門家の協力が必須です。

 どこの病院にも専門家がいるわけではないので、結果の解釈はがんゲノム医療中核拠点病院、もしくはがんゲノム医療拠点病院で行う必要があり、検査結果はそれらの病院と共有されます。

 また、がん遺伝子パネル検査の結果は今後よりよい医療を実現するために非常に重要な情報であるため、患者さんの情報や治療経過は、がんゲノム情報管理センター(C-CAT)という国の研究機関へ登録されることとなります(図2)。

図2 がん遺伝子パネル検査の流れ

その他の課題

 ②治療の対象となる遺伝子変異がすべての患者さんに発見されるわけではなく、検査のなかでは見つからない可能性があります。国内のデータでは、60%くらいの方で治療の対象となる遺伝子変異が見つかりました。

 ③遺伝子変異があっても、必ずしも治療を受けられるわけではなく(国内データでは10~20%程度)、特定のがんセンターや、大学病院などでしか治療が受けられない、という可能性があります。

 ④現在、医療保険の適用は「標準治療終了後または終了見込み」の患者さんを対象としているため、不安が大きくさまざまな治療法を模索する時期である「診断時」には検査を受けることができません

 ⑤検査を受けても、結果が患者さんに伝えられるまで1~2か月かかります。

 ⑥遺伝性のがん(アンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝性のBRCA遺伝子変異に対して乳房予防切除を受けたことは有名です)が望むにしろ望まないにしろ判明することがあり、結果は本人のみならずそのお子さんや兄弟にも影響を及ぼす可能性があります。

 などなど……挙げていてツラくなるほど、たくさんの課題が山積みになっています。しかし、先進的な技術を少しでも患者さんに還元するためには、まず医療として走り出すしかありません。
 こういった課題は、がん患者さんにかかわる1人ひとりの医療者の努力によって、少しずつ解決していくしかないのだと思います。