11月に発売された『看護記録を整える』は、看護記録について、「何をどのように見直し、改善を図るか」「誰が、どのように、何の作業をするか」を具体的にまとめた1冊。「記録委員になったけれど何をすればいいのかわからない」「管理者として記録を効率化したいけれど、何からとりかかればいいかわからない」「記録に関するスタッフ教育がうまくいかない」といった悩みを抱える方におすすめです。
今回は特別に、試し読み記事を公開!プロローグとなる「看護記録を『整える』前に」をお届けします。
DX推進によって、看護記録はどう変わる?
ココがポイント!看護記録の監査や教育
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“業務改善の一環として「看護記録の効率化を図る」という方針が出されたものの、何をどうしたらいいかわからない…” そんな悩みを抱える看護管理者、記録委員や記録リンクナースは、少なくないことでしょう。
看護記録の記載は、スタッフにとって「最も時間がかかる業務」ともいわれます。そのため「時間外労働時間の短縮」といった目に見える指標ばかりに気を取られてしまうと、“もっと機械化できないか” “もっと自動化できないか” といった方向に進んでしまいがちです。
看護は患者・家族をはじめとする人間に対して提供する技術ですから、効率化できないこともありますし、行きすぎた効率化によって悪影響が生じることもあります。看護記録の効率化を行うときには、そのことを忘れないでほしいと思います。
なぜ、いま看護記録を「整える」のか
Point①看護記録が「整っている」といえる条件は4つ
みなさんの施設では、看護記録は整えられていますか?
①看護記録の基準はありますか?
②看護記録基準に沿った記録ができるよう、監査はできていますか?
③看護実践ができ、その実践が看護記録に残るような教育は、できていますか?
④看護記録を分析し、看護実践を改善できていますか?
これらの質問すべてに “YES” と回答できれば、それは、看護記録は整えられているといえます。
しかし、現状では「すべて “YES”」と答えるのは難しい施設も少なくないと思います。なかには「①は “YES” だけれど、②③④は微妙…」という施設もあるでしょう。でも、どうして上記の4つがそろっていないと「看護記録が整えられている」といえないのでしょうか?
「基準がある」「教育している」事実より、内容や方法が大切
どの施設にも「看護記録の基準やマニュアル」は整備されていることでしょう。しかし、その基準が周知され、正しく活用されているかどうかは別問題です。
「入職時に、記録委員会で、しっかり教育を行っているから大丈夫」となってはいませんか?
経験を重ねたからスタッフだからこそ、出てくる悩みもあります。先輩が何となく記載していた記録が、そのまま病棟内で受け継がれてしまう可能性もあります。
だからこそ、継続的な教育や、定期的な監査に基づく見なおしが必要なのです。これらすべてが満たされた状態となって、はじめて「看護記録が整っている」といえるのです(図1)。
診療報酬の改定や看護必要度の導入など、時代の変化に伴い、看護記録のあり方も変わっています。昔は適切だったことが、現在では不適切となっていることもあります。
Point②記録の効率化は「働き方改革」の観点からも重要
看護記録は、時間外勤務の主な原因になっていることが指摘されています。その原因には、業務量の多さ、優先順位の問題、習慣化、非効率的な記録システムなどが考えられます(表1)。
これらの課題を解決するためには、
●看護記録全体の見なおしや標準化(標準看護計画やクリティカルパスの運用)
●記録システムの効率化
●業務プロセスの見なおし
など、「看護記録を整える」ことが必要です。そのためには、組織的な取り組みが重要になります。
働き方改革とは、労働者が個々の事情に応じた多様な働き方を選択できる社会をめざして提言されました。その筆頭が「長時間労働の是正」です。労働時間を短縮しつつ、ケアの質を担保するために、記録の効率化が求められているのです。
Point③電子カルテの導入・改善時は、看護記録を整える大チャンス
医療DX推進に向けて「電子カルテ導入」が進んでいる
医療DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、保健・医療・介護の各段階において発生するデータを、全体最適された基盤(クラウドなど)をとおして「整える」ことで業務やシステム・データ保存の共通化・標準化を図り、国民がより良質な医療やケアを受けられ、予防を促進していけるように、社会・生活の形を変えることをさします。
その一環として行われているのが、電子カルテの標準化によって情報共有しやすくする取り組みです。そのために、厚生労働省では「2030 年までに電子カルテ普及率 100%」という目標を掲げています。
しかし、厚生労働省の医療施設調査によると、2020 年時点での電子カルテの普及率は、一般病院全体で 57.2%です。
病床規模別の内訳をみると、
●400 床以上の大規模病院:91.2%
●200〜399 床の中規模病院:74.8%
●200 床未満の小規模病院:48.8%
●一般診療所:49.9%
となっています1)。
このデータから、大規模病院ではほぼ導入が完了している一方で、中小規模の病院や診療所では普及が遅れていることがわかります。
医療機関同士でスムーズにデータ共有できるようにするため、電子カルテ情報の標準規格化が進められています。その第Ⅰ段階として、電子カルテ普及率100%という目標が掲げられました。
小規模病院・クリニックでは、まず「電子カルテ導入」を
電子カルテの普及率は、2017 年の調査結果と比較すると全体的に上昇傾向にあります。しかし「2030 年までの電子カルテ普及率 100%」という目標には、いまだ大きな隔たりがあることがわかります。
普及が進まない主な理由には、導入・運用コストの高さや紙カルテへの慣れなどが挙げられます。この理由のために、電子カルテが導入できない施設では、まずは、電子カルテをどのように導入していくかを検討しなければいけないかもしれません。その際には、
●看護業務プロセス全体の見なおし
●看護記録の効率的な記入方法の見なおし
●他職種との情報共有方法の見なおし
といった点も含めて、全体像を検討するとよいでしょう。
電子カルテ導入済みの施設では、自施設の状況に合わせた改善を
すでに電子カルテの導入が進んでいる大規模病院では、
●標準化されたテンプレートの導入
●クリティカルパスの活用
により、ムダな記録を削除し、効率よく記録する方法を検討しましょう。この際に、記録を分析できる形に整えることも念頭に置くことが重要です。
同時に、音声認識による看護記録の作成や、通信機能つきバイタルサイン測定器の活用など、業務の効率化を図る必要があるでしょう。
また、分析可能な記録を整えた後には、実際に分析を行い、看護ケアの改善を持続的に行うことも必要となります。
電子カルテ情報の標準規格化が進められていることに伴い、自施設の電子カルテシステムを見なおし、大幅に調整する必要が生じることもあります。特に、自施設オリジナルの用語やマスターを運用している施設では、これらの作業が必須です。
〈ちょっと詳しく〉IT技術を最大限に活用するヒント
音声認識による看護記録の作成は、多くの施設で導入されはじめています。スマートフォンやタブ
レットなど、日ごろ使い慣れたデバイスを使用するため導入しやすいですが、「声に出す」ことへの抵抗感や、患者のプライバシー保護といった点への配慮が求められます。教育やマニュアルの整備が必要になるかもしれません。
また、近年、通信機能つきバイタルサイン測定器を看護記録に活用する施設も増えてきました。この測定器には、スマートフォンのおサイフケータイ機能や、交通系 IC(Suica、PASMO など)と同じ近距離無線通信(near field communication:NFC)と呼ばれる技術が用いられており、「体温・血圧・脈拍・SpO2を機器で測定し、所定の端末にかざすだけ」で電子カルテに測定結果が記録されるしくみとなっています(図2)。
これらの技術は、タイムリーな看護記録を可能とするだけではなく、転記による記録間違いの予防に
貢献することがわかっています。