11月に発売された『看護記録を整える』は、看護記録について、「何をどのように見直し、改善を図るか」「誰が、どのように、何の作業をするか」を具体的にまとめた1冊。「記録委員になったけれど何をすればいいのかわからない」「管理者として記録を効率化したいけれど、何からとりかかればいいかわからない」「記録に関するスタッフ教育がうまくいかない」といった悩みを抱える方におすすめです。

 今回は特別に、試し読み記事を公開!「DX推進によって、看護記録はどう変わる?」をお届けします。

看護記録を「整える」前に

 院内の看護記録が「整った」ら、時代に合わせて改良を重ねていく段階に入ります。医療 DX が急速に進んでいる現在、中小規模病院やクリニック・施設などでは、これから急ピッチに電子カルテを導入することもあるでしょう。その際には、看護記録を再度整えていく作業が必要となるかもしれません。

 看護記録が重要なのは、病院だけではありません。地域で患者を支えるために、訪問看護や療養施設などでは「入院中はどのような治療が行われ、現在どのような状態なのか」が重要となります。医療職だけでなく、介護職や福祉職にとっても、看護記録は非常に重要な情報です。

 看護の本質を見失わないよう、整えた看護記録を、より使いやすく、より質向上につなげるためにはどうすればいいか、考えていきましょう。

変化の時代における看護記録のあり方を考える

Point①看護記録は時代に合わせて変化していくもの

 看護記録は、患者へ質の高いケアを提供するための重要なツールであり、医療チームの連携や継続的なケアを支える礎となるものです。
 本書では、看護記録基準を整えることから始め、標準看護計画を整え、クリティカルパスとの整合性をとり、監査の徹底と教育体制の構築まで、看護記録に関する包括的な内容を取り上げました。これらの要素を適切に整えることで、看護記録の質の向上と、業務の効率化を図ることが可能となります。

 しかし、医療を取り巻く環境は急速に変化しています。そのような時代においては、看護記録のあり方も、今後さらなる進化が求められるでしょう。特に注目すべきは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展です(→看護記録を「整える」前に)。

中小規模病院でも電子カルテ化の波には逆らえない

 大規模病院では、電子カルテの普及により、紙媒体からデジタル化への移行が進んでいます(図1)。今後は AI(artificial intelligence:人工知能)やビッグデータ解析などの先端技術が搭載された、より高度な看護記録システムの導入も期待されます。

 例えば、音声認識技術を用いた看護記録の自動入力や、AI による記録内容のチェック機能の実装により、看護師の記録業務の負担軽減と記録の質の向上が同時に実現できるかもしれません。
 また、ウェアラブルデバイスや IoT(Internet of Things:モノのインターネット)機器からリアルタイムで患者データを取得し、自動的に記録に反映させることで、より詳細かつ正確な患者情報の把握が可能になり、看護師にしかできないケアを実践できる環境になっているかもしれません。

Check

ウェアラブルデバイス:身体に装着するタイプの電子機器。 スマートウォッチ(腕時計型)やスマートグラス(眼鏡型)などが代表的
IoT機器:インターネット接続可能なデバイスの総称

〈ちょっと詳しく〉早期警戒システムは「急変を防ぐ」ために開発された

 当院には、早期警戒徴候対応ガイドラインがあります。ガイドラインには、患者の状態変化、バイタルサインの異常、意識レベルの変化があった際に National Early Warning Score(NEWS)を用いて患者の状態を評価することが定められ、評価点数やリスク判定に準じた対応方法が示されています。

 患者の評価に使用するのは、7つの観察項目(呼吸数、SpO2、酸素投与、体温、収縮期血圧、心拍数、意識レベル)です。これらのデータを自動集計し、入院患者の全状況をモニタリングするしくみとして、当院では2022年8月から早期警戒システムを稼働しました(上記図1)。

 このシステムでは、電子カルテに記録したデータだけではなく、異なるベンダーの心電図モニターから得られるデータや、「眠り SCAN(パラマウントベッド株式会社)」から得られる心拍数と呼吸数(参考値)を、定期的に集めることができます。

 また、NEWS の評価が高リスクになった場合はナースコールが発報し、受持ち看護師のPHSにリスク評価の結果と点数が表示されます。
 このシステムの運用によって、エマージェンシーコール(患者の容態悪化時に全館一斉放送されるコール)は減少し、患者へ安全で安楽な医療とケアの提供につながっています。

Point②地域連携推進のため多施設での看護記録の共有が進む

 さらに、地域連携や他施設連携の観点からも、看護記録の重要性は増していきます。高齢化社会の進展に伴い、在宅医療や地域包括ケアシステムの充実が求められるなか、異なる施設間での円滑な情報共有が不可欠となります。

 クラウド技術を活用した統合的な医療情報プラットフォームの構築により、病院、診療所、介護施設、在宅サービスなど、さまざまな場所で提供される医療・介護サービスの記録を一元管理し、シームレスな連携を実現することが可能になることが予測されます。その場合、個人情報保護やセキュリティ対策にも十分な配慮が必要となるため、これらを統合的に検討し対応が求められると考えられます。

 これらの変化に対応するためには、看護記録の標準化データの構造化がさらに重要になります。看護記録の既存の枠組みを基盤としつつ、より柔軟で汎用性の高い記録形式の開発が求められるかもしれません。

Point③DXが進んでも、看護の本質は変わらない

 テクノロジーの進化に伴い、看護師に求められる能力も変化していきます。デジタルツールを効果的に活用する能力や、データ分析に基づく看護実践の重要性が増すことが予想されます。したがって、看護教育においても、これらの新しいスキルの習得を支援するカリキュラムの導入が必要になることでしょう。

 しかし、どれほど技術が進歩しても、看護の本質は変わりません。患者との対話や観察を通じて得られる情報、看護師の専門的な判断や洞察は、今後も看護記録の中核を成すものです。テクノロジーはあくまでも手段なのです。
 今後予測される看護記録のあり方としては、より患者中心のアプローチが進むと思います。

 また、エビデンスに基づく看護実践(evidence-based nursing:EBN)の重要性が高まるなか、看護記録はケアの効果を評価し、新たなエビデンスを生み出すための貴重なデータソースとしての役割も担うことになるでしょう。
 大規模なデータ解析により、より効果的な看護介入方法の発見や、患者の特徴をふまえた看護計画の立案が可能になるかもしれません。本書で解説してきた看護記録の基本的な考え方や「整え方」は、こうした未来の変化にも対応できる基盤になると考えます。

 看護記録は単なる業務の一部ではなく、看護の質を向上させ、患者の健康と幸福に貢献する重要なツールです。
 私たち看護専門職は、常に患者のために最善を尽くすという使命を胸に、これからも看護記録の進化と向上に取り組んでいく必要があります。看護記録を見直すタイミングはさまざまありますが、そのタイミングが来たと感じた際には、ぜひ、本書をもう一度、手に取っていただければ幸いです。

(村岡修子)

看護記録を整える
NTT東日本関東病院看護部記録委員会 著
相馬泰子 監修
村岡修子 編集
B5・144ページ、定価:2,860円(税込)
照林社

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