気管吸引時、吸引カテーテルが入りづらいときは気管チューブ内にキシロカインスプレーを使用してもよいのでしょうか。看護ケアのなかで“改めて聞かれると迷うところ”を解説します!
Q. 気管吸引時、気管チューブ内にキシロカインスプレーを噴霧してもいい?
ひとこと回答
ショックや中毒症状が生じる恐れもあり、噴霧は中止すべきです。吸引カテーテルが挿入しづらくなった本来の原因に対処しましょう。
吸引カテーテルが入りづらいとき、“気管チューブ内にキシロカイン®ポンプスプレーを噴霧すると入りやすくなる”と言われているようですが、キシロカイン®ポンプスプレー8%は、リドカインと添加物(マクロゴール400、エタノール、サッカリン等)を含有します。
マクロゴール400は、湿潤性と粘着性があり、噴霧直後は潤滑剤になりますが、エタノールが揮発すると痰とともに気管チューブ内壁に固着します。すると吸引カテーテルは挿入しづらくなり、噴霧量が増すという悪循環に陥ります。
卯野木ら1の調査で、反復噴霧で気管チューブと吸引カテーテル間の静止摩擦係数が上昇することが明らかになりました。反復噴霧は、吸引困難から吸引不十分・気管チューブ閉塞につながる恐れがあります。
ちなみに、気管チューブ“外側”の噴霧は、カフ損傷・印字消失が起こりうるため噴霧禁止です2。
キシロカインは重大な副作用が起こることも
キシロカイン®ポンプスプレー8%は、劇薬・表面麻酔薬で、ひと押しで溶液0.1mL(リドカイン8mg含有)が噴出する定量式構造です。
気管内噴霧は吸収が早いため、ショックや中毒症状(意識障害、振戦、痙攣)などの重大な副作用が起こることがあります。そのため、キシロカイン®は、医師の指示下で、慎重に使用を考慮すべき薬剤です。
気管チューブ内壁の湿潤目的であれば、生理食塩水や滅菌水の使用で十分です。
吸引カテーテルが挿入できない原因を明らかにする
このようなことから、キシロカイン®の噴霧はやめるべきです。
吸引カテーテルが挿入困難になった本来の原因を(下記参照)明らかにして、対処しましょう。多くの場合、適切な加湿を保つための観察・管理の見直しが必要かもしれません。
気管チューブ
●気管チューブ内の閉塞・狭窄
●気管チューブの屈曲
●気管チューブ先端が気管壁に密着
●頸部位置による気管の弯曲
●患者が気管チューブを咬む
吸引カテーテル
●細い吸引カテーテル
●吸引カテーテルのねじれ・たわみ
●吸引カテーテル表面の乾燥
- 1.卯野木健,木下佳子,水谷太郎,他:気管内吸引時のキシロカインスプレー反復噴霧は気管チューブ内壁の摩擦力を増大させる.人工呼吸 2003;20(2):146.
2.キシロカイン®ポンプスプレー8%添付文書.
この記事は『エキスパートナース』2018年7月号特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。
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