患者さんの体験・心理についての「研究」を原著者に紹介してもらい、臨床で活用したいこころのケアを探ります。今回は、未破裂脳動脈瘤により血管内手術を受けた患者さんの心理についての研究です。

未発症で予防的手術を受けたことをどう感じている?

未破裂脳動脈瘤により血管内手術を受けた患者さん

 脳動脈瘤破裂は、くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage、SAH)の原因のほとんどを占める危険な状態です。そのため、無症候の段階で未破裂脳動脈瘤(unruptured intracranial aneurysm、UIA)を発見し、破裂を未然に防ぐために予防的手術(カテーテルを用いて脳動脈瘤にコイルを詰める「コイル塞栓術」)が行われるようになりました。

 未破裂脳動脈瘤により予防的手術を行うということは、一般的な治療のあり方とは異なります。何ら症状のない人が予防的手術を受けることで身体機能が120%になるわけではなく、100%以下にもなり得ることを意味します。この治療選択は、患者さんにとって非常に難しいことだと思われます。

 しかし、治療だけが独り歩きしてきた現状では、効果的な支援方法は確立していません。
 そこで、未破裂脳動脈瘤が発見された人々の体験を明らかにし、看護支援方法について検討しました。他の先端医療を受ける方への看護としても役立ててほしいと思います。

本研究は、以下の倫理的配慮のもとに実施されたものです。
●対象者には口頭および文書で研究目的・方法・参加の自由・拒否や途中辞退の自由・個人情報の保護などを説明し、同意をいただいて実施しました。
●面接時には、精神的心理的な状態に常に注意を払いながら行いました。

研究の方法

疑問(調べたこと)
●未破裂脳動脈瘤をもち血管内手術を受ける患者さんは、どのような“不確かさ”を抱き、どう対処している?

研究対象
●中核概念*1の抽出:未破裂脳動脈瘤(サイズ平均:5.53mm)により血管内手術を受けた患者さん19 名:男性2名、女性17名(平均61.3歳)1
●不確かさ”の構造化と看護支援の検討:未破裂脳動脈瘤(サイズ平均:5.17mm)により血管内手術を受けた患者さん21名:男性7名、女性14名(平均57.9歳)2

研究方法
●診断の受け止め、診断から現在に至るまでに体験したできごとやその思いについて自由に語ってもらう
●入院前および退院後の定期外来診察、および手術前の医師の説明に同席(参加観察)

*1【中核概念】患者さんが体験するおおまかなできごと。ここでは、〈体験した不確かさ〉〈対処〉〈意味づけ〉

発見1:発症前に治療を行う患者さんの体験・心理

患者さんは長期療養過程のなかで、さまざまな“不確かさ”を認知している

図1 未破裂脳動脈瘤により血管内手術を受ける患者さんが抱く“不確かさ”の経時的変化

図1 未破裂脳動脈瘤により血管内手術を受ける患者さんが抱く“不確かさ”の経時的変化
(文献2より引用、一部改変)

1)治療によって、身体機能が低下する可能性もある

 未破裂脳動脈瘤により血管内手術を選択した患者さんが、「診断」「治療選択~手術」「退院前~手術後1か月」「手術後3~6か月」の経過観察という長期療養生活のなかで、図1-①~⑦のように経過ごとに異なるさまざまな“不確かさ”を抱いていることがわかりました。

 ここで扱う“不確かさ”とは、将来が不明なことや、自分の下した手術を受けるという決断が正しかったのかわからない、といった不安や気持ちの揺れの原因と言えるでしょう。

 未破裂脳動脈瘤の存在を告げられた患者さんがよく口にするのは、「いつ破裂しますか?」という言葉です。ここから、患者さんは破裂への恐怖心を抱いていることが推察されます。実際に、未破裂脳動脈瘤の発見により心理社会的なQOLが低下することが徐々に明らかになってきています。
 
 また、前述の通り手術によって身体機能が低下する可能性もあります。 さらに血管内手術となると、新しい治療法であるがゆえの情報不足、晩期障害のあいまいさなどの情緒的苦悩につながることも懸念されます。

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