この記事は『考えることは力になる』(岩田健太郎著、照林社、2021年)を再構成したものです。
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「私の知らない世界」が、知らなかった世界への窓を開けてくれる
配偶者とのコミュニケーション問題を解決したあとで、次にお勧めしたいのが、患者さんとのコミュニケーションです。
もちろん、ナースたるもの、患者さんとのコミュニケーションは得意とするところです。これに比べると医者なんてまったくダメでして、多くの患者さんの問題は医者によっては吸い取られません。あとでナースがこっそり、「じつはあの患者さん、こんなこと言ってましたよ」と医者に耳打ちするのです。患者さんから見ると、医者よりも圧倒的にナースのほうが相談しやすく、他の医療職よりもナースのほうが相談しやすいのです。
病院で患者さんが一番心を開いて相談できる相手がナースです。間違いありません。さて、そこでお勧めしたいのは、「医療・医学と何の関係もない、診療治療にほとんど役に立たない話にのめり込んでください」ということです。
「傾聴」が大事とはどの看護の教科書でも教えるところです。医者向けの教科書でも最近ではそう教えます。フツウのナースなら、そこで医学・医療的な側面から傾聴します。少し優れたナースなら、そこに社会心理的側面なんかを加味するでしょう。
さらにレベルを上げるのならば、「自分が思いもしないような内容について話を聞きたい」と考えてみましょう。「○○について聞こう」と思っている限り、それは「自分の知っている範疇について聞きたい」になりがちだからです。医者についてもナースについても、わりと観察されるのは「自分に了解可能な話しか、聞かない」という態度です。それ以外は捨象……「なかったこと」にされてしまいます。
例えば、患者さんの職業を聞くとき、「今は無職ですが、昔は会社員でした」と答えたとしましょう。医者もナースも多くの場合、ここで止まってしまい、「そうか、元会社員か」で終わらせてしまいます。
「会社員というと、具体的にはどんな仕事をしていたんですか」
「いや、船舶関係の」
「といいますと」
「○○造船で、昔は潜水艦を作ってたんだ」
「潜水艦って、戦争に使う?」
「そう」
「今でも作ってるんですか」
「オレは作ってないけど、今でも日本で作ってるよ」
と、こういう会話は医療と何の関係もありません。99%のナースにとって、潜水艦のトピックは関心のないトピックだと思います。でも、そのような「私の知らない世界」が、知らなかった世界への窓を開けてくれるのです。その窓を閉じたままにするか、開けてみるかはあなた次第です。患者さんの窓を開けてみると、知らなかった世界が開けてきます。これを「快感」と感じることができれば、新しい知の体系にアプローチすることができます。
こっからが“本当のロジカルシンキング”の萌芽です。逆に、これができなければ、自分の世界の外に目を向けることができなければ、ロジカルシンキングは形式的なスローガンにすぎず、いつまでたっても自分の世界観、自分の価値観の枠内でしかものを考えられません。どちらがベターかは、言うまでもありません。
『考えることは力になる ポストコロナを生きるこれからの医療者の思考法』
岩田健太郎 著
照林社、2021年、定価1,430円(税込)
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