学習のツールのひとつとして注目したい、医療漫画。細部まで丁寧に作り込まれた作品や、現場のリアルが身近に感じられる作品などがそろいます。

 そんな医療漫画について、看護師のかげさん、ナースの大森ちゃん、そしてライター・白石弓夏の現役看護師3人が座談会形式で語り合うこの企画。今回は「番外編」として、『葬送のフリーレン』を取り上げます!

看護師のかげさんかんごしのかげさん

病院の内科・外科全般経験してきた中堅看護師。急性期領域、ICUの経験が一番長い。漫画は流行りやアニメ化・ドラマ化をきっかけに読み始めることが多い。考察ブログも読む。本屋さんの平積みをチェックし、表紙の絵柄やキャラクターに惹かれてジャケ買いすることが多い。ファンタジー系のジャンルが好き。
@877_727

ナースの大森ちゃんなーすのおおもりちゃん

看護師歴20年以上、緩和ケア病棟で15年ほど勤務。普段、少女漫画以外はなんでも読む、雑食系。現実離れしているぐらいの漫画が好みで、『呪術廻戦』『BLEACH』『進撃の巨人』などが好き。『週刊少年ジャンプ』は毎週買って読んでいる。週3~4回は本屋さんに通い、書籍や漫画をチェック。
@lemoned_nurse

白石弓夏しらいしゆみか

小児科や整形外科を中心に15年以上看護師として勤務。現在は看護師兼ライターとして活動。漫画は月50~70冊以上、欲するままにドカドカとカートに入れて読む。少女・女性漫画、少年・青年漫画、BL漫画など、好きなジャンルはそのときの気分・体調によって変わる。ジャケ買い、作家買いが多い。
@yumika_shi

『葬送のフリーレン』

原作:山田鐘人、作画:アベツカサ/小学館、少年サンデーコミックス

グリーフケアの教材にも?医療者の間で注目の漫画

※一部作品のネタバレがあります。

白石 医療漫画ではないんですけど、医療者の間でも注目されている漫画『葬送のフリーレン』(※)について語り合いましょう。私はこの作品からグリーフケアを知ったといっても過言ではありません。
(※)エルフである魔法使いのフリーレンが、勇者・ヒンメルたちと魔王を倒した“その後”を描く。

かげさん そうですね。グリーフケアの物語として、当たり前に語られるようになったのがめちゃくちゃ嬉しいです。

大森ちゃん 私も、グリーフケアの勉強会で『葬送のフリーレン』を紹介することがあります。この作品だけで勉強会ができそうなくらいです。

かげさん その勉強会、ぜひ参加してみたいです!本当に名言が多いんですよね。死や生きることを意識した言葉が魅力的だなと思って。

白石 ですよね。私、今回の座談会のために好きなシーンやセリフをメモしたんですが、選ぶのが大変でした。メモがビッシリで(笑)。

大森ちゃん わかります。私も選びきれませんでした(笑)。

勇者ヒンメルの言葉から学ぶ、「誰かに覚えていてもらう」ことの意味

白石 では、みなさんの印象に残っているシーンや好きなキャラクターについて聞かせてください。

かげさん 好きなキャラクターは主人公のフリーレン。元から強いチートキャラが好きなんですよね。レベル100から始まる系の。ただ、最近読み返して心に響いたのが、5巻の第47話です。過去の振り返りシーンで、フリーレンが「なんで人助けをするのか」とヒンメルに聞くと、「勇者だからさ」の後にこう言うんです。「誰かに少しでも自分のことを覚えていてもらいたいのかもしれない」「生きているということは誰かに知ってもらって覚えていてもらうことだ」って。

白石 あぁ、いいですよね!

かげさん そう、「覚えてもらう」って大事だなと。特に終末期の患者さんと関わるときに意識しています。患者さんのことを覚えていますよ、気にかけていますよって伝えると、本人もご家族もすごく安心されるような、ちょっとでも最期がいいものになるんじゃないかなと思うんですよね。

大森ちゃん そのシーン、実は私も好きでピックアップしていたんです。ヒンメルは「自分のためかもしれない」みたいに言っているけど、実はフリーレンへの深い愛情ってこと!?って、ひとり悶絶していました。

©山田鐘人・アベツカサ/小学館 「少年サンデー」連載中

白石 いやぁ、私もそう思います!ヒンメルって一瞬ナルシストかな、自己中心的なのかなってところがありつつも、最終的には(主にフリーレンへの)利他的な行動につながるんですよね。そこが個人的にはすごく好きで。利己だけでも利他だけでも長続きはしないだろうし、自分の希望や夢をかなえようと努力している行為そのものが実は周りの人たち(主にフリーレン)を幸せにしているようなところがいいなって。ちょっと哲学的な話になっちゃいましたけど(笑)。

かげさん たしかに。勇者という誰かのために戦う職業なのに、「自分のため」って言うギャップが面白いですよね。

大森ちゃん いろんなところに自分の彫像を作ったり、町の人に覚えていてもらったり。亡くなった後でも、自分たちはおとぎ話じゃないんだよって、フリーレンのために残しているんですよね。どれだけ深い愛情なのか…。「君が未来で一人ぼっちにならないようにするためかな」って…ねぇ。

かげさん BIG LOVEどころじゃないですよね(笑)。

白石 本当に。グリーフケアって亡くなった後だけのケアだと思っていたけど、生きているうちからできることもあるんだなと。しかも、悲しみとか寂しさ、別れのようなネガティブな感情だけじゃないんだって気づかされましたね。

大森ちゃん そうなんです。グリーフケアやビリーブメントケアとも言いますが、亡くなった人のことを誰かが覚えていて、その話ができるというのは、残された人にとってすごく支えになるんです。社会のなかでまだ生きているからって。

白石 うわぁ…いい…。

©山田鐘人・アベツカサ/小学館 「少年サンデー」連載中

時間の感覚と寿命の違い、医療現場との共通点

かげさん 作品のなかで度々話題に上がりますが、時間の感覚の違いも印象的でした。人間とドワーフ、エルフと、種族によって寿命が違うから、時間の捉え方も全然違うじゃないですか。

白石 そうですね。1巻の最初のページでヒンメルが「君のこの先の人生は僕達には想像もできないほど、長いものになるんだろうね」ってフリーレンに言うところが実は好きで。時間の感覚や人生の捉え方みたいなのものもそれぞれ違うからこそ、お互いに気づけるものがあるんだろうなって。フリーレンにとっては「たった10年」でも、人間にとっては長いですもんね。その10年(※)がフリーレンを変えたと思うと…。
(※)フリーレンはヒンメルたちと10年、ともに旅をした。

かげさん そう、それが私たち看護師と患者さんの関係にも通じるなと思うんですよ。私にとっての1日と、終末期の患者さんにとっての1日の重みは全然違うんじゃないかって。

大森ちゃん 深いですね…。フリーレンの不器用さも、そういった時間感覚の違いから来ているのかもしれません。

白石 そういえば、最初のころのフリーレンって、ヒンメルたちとの10年の旅をあまり楽しそうに語らなかったですよね。

かげさん そうでしたね。ヒンメルの死を受け入れられていなかったからかな。

白石 でも、新たな仲間と旅を続けるなかで、「楽しい旅だった」って振り返るようになりましたよね。

大森ちゃん ヒンメルたちとの旅を思い出し、彼らのことを知って、少しずつ変わっていったんでしょうね。フリーレンはヒンメルたちに出会うまでは、師匠(大魔法使いフランメ)の死に蓋(ふた)をして生きていたんじゃないでしょうか。だから山の中にこもっていたのかなって思うとね…。1巻で「人間の寿命は短いってわかっていたのに」とヒンメルの死を前に後悔するところで、また気づいたんでしょうね。時間の流れが違うことに。

©山田鐘人・アベツカサ/小学館 「少年サンデー」連載中

何度も読みたくなる魅力、『葬送のフリーレン』の多層的な世界

白石 主にヒンメルとフリーレンの話になってしまいましたが、本当に奥が深いですね。今日語ったことを踏まえてまた読み返したくなりました…!

大森ちゃん そうですね。今日はみなさんと語り合えて楽しかったです。まだまだ話し足りないくらいですが(笑)。グリーフケアや生と死の問題だけでなく、人と人のつながり自己成長など、さまざまなテーマを考えさせられる作品ですよね。

かげさん フリーレンの心情の変化が目まぐるしいですよね。今いるパーティーのフェルンやシュタルクたちと旅をしていろんな人と関わっていくなかで、過去を振り返り初めて気づくこともあって。フリーレンはめっちゃ自分で自分をケアしていると感じます。ずっと悲しい気持ちを背負っていたら身がもたない。どう考えてどう向き合うか…その過程を知れるのこの漫画は!?すごくない!?って思いましたよ。未読の人はぜひ読んでもらいたいです!

『葬送のフリーレン』第1・2話の試し読みはこちら

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。

医療漫画を語り合う会【第5回】『竜医のルカ』
医療漫画を語り合う会【第4回】『神辺先生の当直ごはん』
医療漫画を語り合う会【第3回】『ブラック・ジャック』
医療漫画を語り合う会【第2回】『こころのナース夜野さん』
医療漫画を語り合う会【第1回】『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』