「決して能登を忘れない」から始まった、災害に強い看護職の育成

 令和6年能登半島地震・豪雨災害の経験を未来に活かすために開設された石川県立看護大学 石川県寄附講座「災害実践看護学」。被災地に最も近い看護大学として能登での支援を続けながら、今夏に起こった令和8年熊本地震にも学生を派遣してきました。いつどこで起こっても不思議でない甚大災害に即座に対応できる“災害に強い看護職”の育成が求められています。

「災害に強い看護師・看護研究者の育成」を大学の最上位方針に

 「令和6年能登半島地震では、災害時に対応できる看護職が少ないことが改めて浮き彫りになりました。石川県は『石川県創造的復興プラン』に看護大学における防災・災害教育の強化を明記し、大学も『私たちは決して能登を忘れない』を掲げて、『災害に強い看護師・看護研究者の育成』を方針の最上位に据えました。その流れのなかで、県の寄附により開設されたのが本講座です」と言うのは、木田亮平教授です。

 全国的にみても災害看護に携わる看護職の人材不足は深刻です。就業看護師約140万人に対して、災害支援ナースの登録は約1万1,500人と1%に届きません。災害看護専門看護師(CNS)は全国でようやく50人に届くかどうかですが、当講座の窪田直美講師と登谷美知子講師は臨床経験の豊富な災害看護CNSです。災害看護学を必修にしている看護系大学は約半数しかなく、さらにその95%が2単位以下にとどまっています。

 「災害は必ず起こるもの。病気と同じように、起こる前提で教育しなければならない――というのが本講座の根底にある問題意識なのです」と木田教授は言い、災害に強い看護職像を示してくださいました(図1)。

図1 災害に強い看護職像
災害に強い看護職像の図
木田亮平 教授
木田亮平 教授
窪田直美 講師
窪田直美 講師
登谷美知子 講師
登谷美知子 講師

災害看護を7単位に、卒業時に全員が基礎力を

 同大学では、2026年度から災害看護関連科目を従来の1単位から7単位に拡充しました。
 1年次の災害看護学概論で災害と防災を知り、2年次には「災害サイクル」と「場所」の2軸で方法論を学びます。救護所や避難所、高齢者施設での看護も扱い、ここまでは全員必修です。3年次には、体育館で限られた物資を使うトリアージ演習や、病棟で地震が起きたときの初動対応の机上演習などに取り組みます。4年次はDMATを置く医療機関での実習に加え、能登に近い立地を活かし、災害後に中長期の健康課題を抱えた人への看護を学びます。
 「災害看護学は、成人看護学や老年看護学と同じように、一貫した教育プログラムが必要なのです」と木田教授は話します。

能登へ、そして熊本の避難所へ

 本講座では能登半島地震の後、奥能登(珠洲市・能登町・穴水町)の仮設住宅の集会所などで健康相談サロンを続けてきました。血圧や骨密度の測定、生活の聞き取りは、現在では学生主体で運営しています。参加学生は2025年度が延べ31名、2026年度は現時点で延べ71名にのぼります。

 そして、2026年7月28日に令和8年熊本地震が発生すると、窪田直美講師と登谷美知子講師が発災から約1週間後に現地に入り、熊本県の保健医療福祉調整本部やDWATと連携して支援ニーズを調べました。そして木田教授と相談のうえ、中長期の支援が必要と判断して学生の派遣を決めました。ボランティア募集では定員20名に対して43名が応募。5名ずつ4陣に分かれ、福祉避難所となった氷川町の公民館を訪れています。

 当初は断水を想定して清潔ケアを考えていましたが、上水道の復旧とともにニーズは変わりました。避難者は80歳前後が中心で、要介護2以下の人や認知症の人も含まれます。日中の活動が乏しく、心身の機能低下が最大の課題でした。そこで学生が企画した風船バレーや昭和歌謡に合わせた体操で身体活動を促し、レクリエーションに出てこない人には個別に声をかけ、トイレへの付き添いなども行いました。

被災地ボランティアで熊本に出発する石川県立看護大学の学生たち
被災地ボランティアで熊本に出発する学生たち

災害関連死は「当たり前」ではない

 能登半島地震では災害関連死が500人を超え、直接死を大きく上回りました。一方で、災害関連死には医学的・疫学的な統一定義がなく、行政上は災害弔慰金の認定が事実上の基準になっています。講座では、行政上の定義と医学・疫学的定義を分けたうえで、看護の視点から「防ぐことができた災害関連死」を定義し、研究していくことを課題に据えています。避難生活における生活不活発病や廃用の予防は、その最前線にあります。

 能登と熊本の被災地での実感を窪田講師と登谷講師はこう語ってくれました。「熊本の避難所では、自宅に戻れる状態であっても、人とのつながりがあって『避難所のほうが居心地がよい』と帰宅をためらう人もいました。能登で多く聞かれた『帰りたい』という声とは対照的で、地域性や被災状況の違いが生活再建にどう影響するかも検討課題だと思います」

避難所で行うレクリエーションの様子1
避難所で行うレクリエーションの様子2
避難所で行うレクリエーションで、高齢の避難者の活動を促し、生活不活発病を予防する

現役看護師へのリカレント教育

 現在、臨床で働いている看護師のなかで災害看護を学んでいる看護師はごくわずか。本講座では能登・金沢・加賀の3地区でセミナーを開き、2025年度は70名が参加しました。危機管理の基本に加え、病棟初動対応と避難所運営の机上シミュレーション、被災した職員どうしのこころのケアを扱います。

 「病院から避難所へ看護師を派遣するスタイルは今後増えるでしょう。患者さんがどんな環境から搬送されてくるのか。退院先が避難所ということもあります。病院の外の災害現場にも目を向けてほしい」と木田教授。来年度からは初級・中級・上級の体系的なプログラムとし、VRも活用して、修了者には大学から認定証を出す構想です。

熊本の避難所に向かう学生ボランティア

熊本の避難所に向かう学生ボランティアの青山さんと古田さん

青山葵星きらさん(左)「公民館に集う住民どうしが協力し合っているようです。支援する人と地域の人とのかかわりや、地域のつながりを自分の目で見てみたい」

古田美季奈みきなさん(右)「身体面だけでなく、不安などの精神面にも目を向け、その人に合わせた看護をしたいと思います」

こちらもチェック

石川県立看護大学 石川県寄附講座「災害実践看護学」
https://www.ishikawa-nu.ac.jp/dnps/our-laboratory/

※このレポートはエキスパートナース2026年12月号(11月20日発売予定)にて掲載予定です。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。