おさえておきたいこと

『看護職の倫理綱領』改訂の背景
●倫理綱領は専門職自らの行動を規定し、 専門職たらしめる重要なもの
●看護職においてはその取り巻く環境やニーズの変化を受け、いっそう高い倫理観が必要とされることから、倫理綱領の改訂を行い『看護職の倫理綱領』を公表

 倫理綱領とは、専門職自身が専門職集団内部の人間の行動を規定する文書であり、専門職を専門職たらしめるものとして非常に重要なものです。

 日本看護協会は、「あらゆる場で実践を行う看護職を対象とした行動指針であり、自己の実践を振り返る際の基盤を提供するもの」¹、また、「看護の実践について専門職として引き受ける責任の範囲を、社会に対して明示するもの」¹として、『看護職の倫理綱領』を公表しています。

 日本看護協会は、1988年にわが国初の看護職の行動指針として「看護師の倫理規定」を公表しました。その後、時代の変化に応じて2003年に「看護者の倫理綱領」を公表しました。 年月の経過に伴い、看護を取り巻く環境は大きく変化し、看護職が活躍する場や求められる役割はますます広がっています(表1)。

表1 看護を取り巻く環境の変化と倫理綱領の改訂

 さらに、人々の看護へのニーズが多様化・複雑化するとともに健康や生き方に対する価値観も変化していることから、看護職はこれまで以上に複雑かつ困難な倫理的問題に直面するようになっています。

 看護職が専門職としてより質の高い看護を提供するためには、専門知識だけでなく、よりいっそう高い倫理観が求められます。

 こうした状況から、日本看護協会は『看護者の倫理綱領』の公表から約15年経過した2018年に『看護者の倫理綱領』の改訂に向けた取り組みを開始しました。そして2021年3月に、前文および16の本文で構成される『看護職の倫理綱領』を完成、公表しました。

『看護職の倫理綱領』における5つの改訂ポイント

今回の改訂に伴う主な改訂のポイントは、以下の通りです。それぞれのポイントを解説します。

①タイトルを含め、「看護者」を「看護職」に変更
②構成の変更
③本文中の用語に注釈を付記
④本文の修正
⑤災害支援に関する看護職の行動指針となるよう、「本文16」を新たに追加

①タイトルを含め、「看護者」を「看護職」に変更

 タイトルを含め、「看護者」という言葉を「看護職」に変更しました。これは、『看護にかかわる主要な用語の解説 概念的定義・歴史的変遷・社会的文脈』(日本看護協会 2007年)に記載の内容に照らして検討した結果です。

同書において「看護者」を「看護職の免許の有無を問わず、看護をする人を広く指す場合が多い」とし、「看護職」を「保健師・助産師・看護師・准看護師のいずれかもしくは複数の資格を持ち、看護の職務を担当する個人(者)をいう」としています。

そこで「看護職」という言葉がより適していると考え、変更しました。

②構成の変更

 2003年公表の『看護者の倫理綱領』は、「前文」「条文」「解説」の3つで構成していました。

 しかし『看護職の倫理綱領』では、看護職が本文の1つ1つに対する意図まで十分な理解を深め、行動につなげることを目的に「前文」と「本文」の2つで構成し、一体的な活用を勧めることとしました。

③本文中の用語に注釈を付記

 『看護職の倫理綱領』では、旧版の『看護者の倫理綱領』では使用していない用語として「ウェルビーイング」と「パートナーシップ」を使用しています。

 これらの用語は、看護職に広く周知されているとはいいがたく、また『看護職の倫理綱領』は、看護を学ぶ者も含め、すべての看護職にとって身近で、わかりやすいことが望まれるため、「用語の注釈」を新たに追加しました。

 注釈をつける用語の条件を「抽象的あるいは概念が本邦に浸透していないもの」として、以下の3つの用語を選定しました。

●最高水準の健康を享受するとい権利
●パートナーシップ
●ウェルビーイング

④本文の修正

 医療の高度化や、治療・療養の場が病院から人々の住み慣れた地域に移行するなかで、今後ますます看護職の活躍する場が拡大し、これまで以上に高い能力を発揮することが求められています。
 そこで、人々の健康や人生に対する価値観の変容等に伴って権利に対する考え方も多様化・変化していることなどにより以下の7点について見直し、変更しました。

<本文見直しの主なポイント>
1.あらゆる場で活躍する看護職の行動指針となるような表現へ変更
2.看護職が人々の尊厳をまもり尊重することを強調
3.人々の権利に対する意識の変化を反映
4.専門職として対象となる人々と適切な関係を構築することを追加
5.十分な話し合いを通じた合意形成である意思決定の視点への変更
6.人々に対する不利益や危害への対応についての視点を追加
7.多職種との有機的な連携と協働を強調

⑤災害支援に関する看護職の行動指針となるよう、「本文16」を新たに追加

 近年、わが国では、自然災害が頻発し、平常時から災害発生直後、復興までの過程において生命と健康を守る活動が必要とされます。
 そのため、相次ぐ自然災害における看護職の行動指針について、「本文16」を新たに本文へ追加しました。

 『看護職の倫理綱領』は、あらゆる場で活躍している看護職が、『看護職の倫理綱領』を自身の行動指針とすることができるよう、看護を取り巻く環境の変化や社会情勢の変化に応じた内容に改訂しています。
 看護職が適切な倫理的判断を行うよりどころとして、また臨床現場で事例検討やカンファレンス等を行う際にも、『看護職の倫理綱領』をご活用ください。

『看護職の倫理綱領』は、日本看護協会公式ホームページからダウンロードが可能
https://www.nurse.or.jp/nursing/rinri/rinri_yoko/index.html

1.日本看護協会:看護職の倫理綱領:1.
https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/statistics_publication/publication/rinri/code_of_ethics.pdf(2024.2.13アクセス)

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この記事は『エキスパートナース』2022年1月号の記事を再構成したものです。
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