おさえておきたいこと

シェアード・ディシジョン・メイキングとは
●医療者は科学的根拠に基づいた知識・情報を、患者は自身の価値観や意向をもち寄って話し合い、決定に至るプロセスを共有すること
●「パターナリズム」「消費者主義的な関係」を経て、「協働」「意思決定の共有」「相互参加」の関係をめざすなかで生まれてきた考え方

 シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)は、「共有意思決定」「協働的意思決定」などと訳されることもありますが、カタカナのまま使われ、SDMと表記されることも多いです。

 SDMの定義はさまざまですが、一般的に、医療者と患者・家族が、科学的根拠(エビデンス)に加え、選択肢、ベネフィットとリスク・害、患者の価値観や希望・状況などを共有し、一緒に健康に関わる意思決定に参加するプロセスであると考えられています。

 患者と医療者は、異なる視点や背景から、同じ健康問題や病気についても異なる考えや情報をもっています。

 その両者が、医療者は医学的根拠に基づいた知識や情報(エビデンス)、患者は自分の生活経験に基づいた情報(価値観や意向)をそれぞれもち寄って、「今、何が問題なのか」「何を目標に治療するのか」「そのためにはどんな方法があるのか」「それを実行するために、それぞれがどんな役割を果たすのか」などを話し合い、決定に至るプロセスを共有していくことがSDMの中心となります。
 具体的には、下記のような9つのステップも示されています1

SDMの9ステップ

①意思決定の必要性を認識する
②意思決定の過程において、両者が対等なパートナーと認識する
③可能なすべての選択肢を同等のものとして述べる
④選択肢のメリット・デメリットの情報を交換する
⑤医療者が患者の理解と期待を吟味する
⑥意向・希望を提示する
⑦選択肢と合意に向けて話し合う
⑧意思決定を共有する
⑨共有した意思決定のアウトカムを評価する時期を相談する
(文献1より引用)

「インフォームド・コンセント」とは何が違う?

 より古くから知られている類似の概念として、インフォームド・コンセントがあります。

 「説明と同意」と訳されることが多いことからもわかるように、必ずしも複数の選択肢がある場面に限らず、検査や治療法などについて、医療者から十分な説明を受けたうえで、患者が正しく理解し納得して同意することを指します。

 この場合、医療者側は、医学的根拠に基づき、比較的明確に「これがよい」と思われる選択肢や解決策をもっています。 一方、SDMがより必要とされるのは、医学的にどちらがすぐれているとも言えない選択肢が複数ある場合、患者の価値観やライフスタイルなどによる違いが大きい場合など、医療者にも最善の解決策がわからない場合です。

患者―医療者関係の変化とSDM

 日本の患者―医療者(医師等)関係の特徴として、よく言われてきたのが、父権主義(パターナリズム)に基づく関係です(表1の右上)2
 「医学のことは素人にはよくわからないから先生におまかせします」という患者のおまかせ志向のもと、医師の側もいちいち詳しい説明をせず、専門家としてその患者に最善と思われることを実施することがよしとされてきました3

表1 患者ー医師関係の類型
(文献2より引用、一部改変)

 この対極が、日本でも1990年代半ばころから、患者の自律性や自己決定が強調されるようになって注目されてきた消費者主義的な関係です(表1の左下)。

 この背景には、社会的な消費者意識の高まりとともに、医療過誤に関するマスコミ報道の増加、医療への社会的な不信感もありました。
 ここで、医療者に求められるのは、技術的な相談役として必要な情報を提供することであり、それに基づいて意思決定をするのは患者自身であるため、患者側の価値観などを医療者と共有することは必要とされません。

「協同」「意思決定の共有」「相互参加」への転換

 一方、2000年代後半ころから、行きすぎた消費者主義的関係の限界が認識されるようになり、「対立」から「協働」、「自己決定」から「意思決定の共有」「相互参加」を志向する関係への転換がめざされてきました(表1の右下)。

 SDMはこの関係の中心にあるものであり、医療者と患者との共通の基盤をつくるという、患者中心の医療の重要な要素にもなっています(図13

図1 患者中心的アプローチのモデル
1.中山健夫,藤本修平編著:実践 シェアード・ディシジョンメイキング 改題改訂第2版.日本医事新報社,東京,2024.
2.Roter DL,Hall JA著,石川ひろの,武田裕子訳:患者と医師のコミュニケーション より良い関係作りの科学的根拠.篠原出版新社,東京,2007.
3.石川ひろの:保健医療専門職のためのヘルスコミュニケーション学入門.大修館書店,東京,2020.

患者ー医療者間の新しいコミュニケーションのかたち「シェアード・ディシジョン・メイキング」②(10月28日配信予定)

この記事は『エキスパートナース』2023年3月号の記事を再構成したものです。
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