患者ー医療者間の新しいコミュニケーションのかたち「シェアード・ディシジョン・メイキング」①

advance care planning(ACP)との関係は?

 近年、事前指示(advance directive)に代わり、「人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス」としてACPが提唱されています1

 人生の最終段階を視野に、本人による意思決定が困難になった場合も想定して事前に行う意思決定に焦点があり、「人生会議」という呼び名にも表れているように、医療だけではない人生のさまざまな意思決定に関する話し合いを含むこともあります。

 ACPにおいても、SDMに基づいた意思決定は非常に重要です。なぜなら、ACPにおける意思決定には、医学的根拠だけでなく、患者による価値観や意向がより重視される選択が多く含まれるからです。

 その意味で、ACPのプロセスにはSDMが埋め込まれているとも言えるでしょう。

おさえておきたいこと

SDM実践における看護師の役割
●SDM実践における「時間がない」という障壁に対しては、チームによる分担・協働が不可欠
●看護師は“患者と距離が近い存在”であることを活かし、聴くことができた情報を共有することが重要

チーム医療における分担・協働のなかでの看護師の役割

 治療法の選択というと、患者と医師との話し合いと思われがちかもしれませんが、SDMの実践には、チーム医療の体制が欠かせません。
 意思決定を共有するのは、医師と患者だけなく、そのチームの医療者、患者や家族を含む全員です。

 SDMを実践するうえでの障壁として、「時間がない」という声が現場の医療者からよく挙がります。
 重大な意思決定であるほど情報の共有には時間がかかり、検討すべき点も複雑になりがちです。

 さまざまな専門性をもつ医療者による分担と協働は不可欠であり、看護の視点から重要なこと、“より患者との距離が近い看護師だから聴き取れた患者の情報”をチームに共有するとともに、医師の説明後の患者の理解や不安などをフォローすることも重要な役割になります。

患者への質問の仕方を工夫

 患者の理解を確認する際、「わかりましたか?」と聞くと、患者はしばしば、十分に理解できていなくても「はい」と答えてしまうことが知られています。

 また、質問がないのは聞きたいことがないからではなく、医師に対して遠慮していたり、何を聞いていいかがわからない状態であったりすることもあります。

 「先ほど、先生からどのような説明がありましたか?」「お家に帰ったら、ご家族にどう説明しますか?」など、説明した内容を患者自身の言葉で説明し返してもらうと、確実に理解しているかを確認でき、間違いや不足があれば説明をし直すことができます(「ティーチバック」と呼ばれる方法です)。

 多職種の医療者と患者や家族が協働することが効果的なSDMの実践につながると考えられます。

 そのために、チームでの情報共有と信頼関係の構築は欠かせないものであり、患者・家族はもちろん、チームの他の医療者とも十分なコミュニケーションを図っていくことが重要です。

1.厚生労働省 人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン 解説編.2018.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197722.pdf(2024.7.30アクセス)

「医療・看護の知っておきたいトピック」シリーズの記事はこちら

この記事は『エキスパートナース』2023年3月号の記事を再構成したものです。
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