子どもは自分の力で生きている

この記事は『不登校・ひきこもりが終わるとき』(照林社)より再構成したものです。
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 おとなはよく「子どもがわからない」「子どもは宇宙人みたい」という言い方をします。問題のある子どもへの「心の闇」という表現も当たり前になっています。実際、不登校や、それに付随して表れるさまざまな行動に直面して〝不可解〞という思いに苦しんでいる親御さんも多いようです。
 
 不登校など「問題」とされる生きざまの子どもを、われわれおとなはどのように理解したらよいのでしょうか?
 
 広告に問題がないかをチェックしたり、苦情を受け付けたりする機関「公共広告機構」が、かつてこんなコマーシャルを流していました。1度見ただけなので記憶が定かでないのですが、簡単に再現してみます。

小学校の図工の授業中、ひとりの男の子が、一心不乱に、画用紙を黒く塗りつぶしている。帰宅しても続けるわが子の異様な雰囲気に、心配になった親は病院に連れて行く。医師は彼をプレイルームに入れ観察するが、彼はそこでも画用紙を次々に黒く塗りつぶしていく。しばらくして、医師や看護師や親が見たもの、それは、床一面に敷かれた何十枚もの画用紙によって描かれた、大きな鯨の絵だった。そう、彼は、鯨の黒い部分を描いていただけだったのだ!

 これと似たようなストーリーが、以前放送されたテレビドラマにもありました。こういうものです。

引っ越すために乗っていた新幹線のなかで、向かいに座った女性から、銀紙に包まれたおにぎりをもらったわが子。ところが彼、おにぎりは床に落として、包んであった銀紙を窓にかざしてよろこんでいた。引っ越した先でタクシーに乗っていたら、何かを見つけて騒ぎ出した彼。仕方なく降りたら、いつの間にかビルの屋上の給水塔にのぼって、銀色のアドバルーンに手を伸ばしていた。
  
新居での生活がはじまってからも、引き出しを開けたりテーブルの上をのぞいたりして、手当たりしだいに物を落とすため、家じゅう散らかり放題。そんなある日、布袋に入っていた銀紙(もらったおにぎりを包んでいたもの)を見つけた彼は、再びそれを窓にかざして悦に入っていた。
  
そう、彼は、キラキラ光るものが大好きだったのだ!

 ご覧になった方もいらっしゃると思いますが、これは、自閉症の子を持った母親が主人公のドラマ「光とともに」(2004年放送)です。
 
 ここに挙げたふたつの話が表現しているのは、子どもがおとなとコミュニケーションをとらない(とれない)状態のまま、自分の目的に向かって一心不乱に没頭している姿であり、なおかつ、あとになってからその理由がまわりのおとなにわかる、という結果です。
 
 このようなプロセスは、不登校の多くにも共通しています。
 
 つまり、本人が原因・理由を話さないまま、あるいは取るに足らないような原因・理由しか話さないまま、明けても暮れても「朝は不機嫌なのに、学校の下校時刻が過ぎると笑いながらテレビを観ている」「自室に閉じこもって一日じゅうテレビゲームをやっている」といった生活を続けます。新緑の時期などには「こんなに気持ちのいい季節なのに、なぜ外出しないのか」と不思議がる親御さんもおられます。
 
 まわりのおとなにとっては、まさに「どうかしている」「わけがわからない」という印象です。そして「この子は永遠にこのままでは?」という心配から、不登校をやめさせるための対応をしては、多くの場合、徒労に終わったり、ますます頑強に不登校が続いてしまったりします。
 
 ところが、不登校が終わると、本人たちは、何事もなかったかのように元気に生きるようになります。その様子を見た周囲の人たちは「あれは何だったのか?」「あれほど心配していたのに」と、拍子抜けしてしまうことがしばしばです。なかには、先に挙げた場面のように「なぁんだ、そういうことだったのか」と、意味がわかったり、理由に納得したりするケースもあります(私の場合もそうでした)。
 
 このようなプロセスは、不登校を含めて、子どもの行動の多くが、しばしば子ども自身にも原因・理由が自覚できないまま、子どものなかからわき上がってくるエネルギーに突き動かされて生じるものだ、ということを示しています。しかもそのエネルギーは、多くの場合、創造的であったり、あとから納得できる意味があったりするわけです。
 
 このことからわかるのは、子どもというのは、われわれおとなが思っている以上に、自分の人生を自分の力で生きている、という事実です。
 
 画用紙を黒く塗りつぶしている段階でやめさせたら、その子がなぜそんな行動をしていたかがわからなかったように、子どもの行動の〝途中経過〞の段階で、それを「どうかしている」「わけがわからない」と即断して対応する限り、子どもを理解することは不可能でしょう。
 
 子どもの行動が何であるかを即断したい気持ちをぐっとこらえ「もう少し見続けてみよう」と思い直すことができるようになれば「子どもがわからない」と嘆くことも少なくなるかもしれませんね。

『不登校・ひきこもりが終わるとき』

丸山康彦 著
照林社、2024年、定価 1,870円(税込)
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不登校・ひきこもりが終わるとき【第6回】不登校やひきこもりになる理由①