皆さんが看護師として、日々行っている臨床現場での「実践」。それらは、どんな“気づき”をきっかけとして起こるのでしょうか?また、“患者さんの力”をどう引き出すのでしょうか?
 事例紹介をもとに、看護介入をナラティブに伝えます。

延命のための化学療法を続けているAさんとの出会い

 60代の女性Aさんはある地方に住んでおり、S状結腸がんイレウスと診断されて切除術を受けたのち、化学療法(mFOLFOX6+Bevacizumab〈ベバシズマブ〉)を7コース受けていました。
 その後、関東に住む子どもたちの近くで過ごしながら治療することを望み、夫を残して単身、上京しました。

 多発肝転移していたため、Panitumumab(パニツムマブ)単剤療法2コース施行後に、肝部分切除術を二度に分けて受けましたが、病勢は治まらずに多発肺転移がわかりました。
 CVポートを造設し、化学療法(FOLFIRI+Panitumumab)2コース目のときに、私は外来の化学療法室でスタッフナースとしてAさんに出会いました。

経過は順調ながらも冴えない表情

 お会いしたときのAさんには多発肝転移はありましたが、肝機能に問題はなく、ADLは自立しており、PS(パフォーマンスステイタス)はスコア0(まったく問題なく活動できる)でした。
 治療室に入り、笑顔であいさつをした足取りの軽いAさんを見たときに、遠方から引っ越してきて治療を続けられているが、症状もない様子で、順調な経過だと思いました。

 しかし、治療準備を整えて椅子に座ったAさんは、“手術や治療で少し痩せた”と穏やかな笑顔で静かに話しながら、やや肩を落とし、表情が冴えない様子でした。私は、Aさんの雰囲気が暗いことに気づきました。Aさんの病状が深刻なことから、死を強く意識するできごとがあったのではないかと思いました。

 そしてAさんが病気や死とどのように向き合っているのか、また、どのような方なのかを理解してからかかわる必要性を感じ、Aさんの様子を観察しながら、前回の治療後の自宅での様子や生活についてうかがうようにして、Aさんへの理解を深めるとともに、話しやすい雰囲気作りと関係作りに配慮しました。

 Aさんの表情の変化を感じながら、場の雰囲気が少し和んだところで、少し間を置いて、「今日は何か気になることでも?(あるのですか?)」とAさんの様子に合わせ、同調するよう配慮しながら問いかけました。 私は、治療のための点滴準備をしていましたが、視線と気持ちをAさんに向けて、Aさんが話し出すタイミングを待ちました。