同行しながら考えた、Aさんの生活に必要な支援
Aさんの自宅までの道中には、大きな商業施設がありました。Aさんはいつもここを通っているらしく、“入口の椅子”と“出口あたりのジュース販売機横の椅子”で、二度の休憩をとりました。
「いつもここで休んでいくの。飲みものも買えるしね」と笑顔が見られたため、自宅での様子をもう少し聞いてみることにしました。食事は外出時に買ってきたものを食べることが多く、甘いパンが好きだと話してくれました。
いま困っていることはないか、掃除や洗濯はどうしているのかなどを尋ねると、「そうですねえ。まあ、できるぶんだけするようにしています」と表面的な答えが返ってきました。
15分ほどかけてご自宅に着きました。玄関先から見える室内には、買いもの袋や服が散在していました。私はAさんに、地域包括支援センターが日常の困りごとの相談にのってくれることを伝え、管轄の地域包括支援センターへ今日のことを伝えてよいか尋ね、了解を得ました。
Aさん宅から病院へ帰る途中、商業施設の店員に声を掛けられました。“Aさんが週に3~4回ここを通っていること”“最近、苦しそうにしているのを見かけて気になっていたこと”を話してくれました。
私は、苦しそうにしていたら声を掛けてみてほしいこと、その際、Aさんと一緒に酸素の流量計を見てみてほしいことを伝えると、「どうすればいいかわからなくて、これまでは声が掛けられなかったんです。今度はそうしてみます」と店員は笑顔で了解してくれました。
かかわりのなかで私は、Aさんが自ら困りごとを整理し、周囲へ支援を求めることは難しいだろうと感じていました。
Aさんが今後、支援を得ながら暮らすうえで鍵となるであろう地域包括支援センターに連絡し、今日のできごとを伝え、Aさんと連絡をとってほしい旨を伝えました。 認知症の可能性もあり、支援体制を変える時期に来ているのかもしれないという私の考えも話しました。
新たな支援を受け入れたAさんの生活を確認する
後日、地域包括支援センターから連絡がありました。自宅訪問をしてAさんと話をしたこと、Aさんの希望で、遠方のB病院から自宅近くのC病院へかかりつけ医を変えることにしたこと、介護保険申請を了承し、準備を始めたことなどを報告してくれました。
私はC病院の医師に、外来受診時の酸素やリュックの中身のこと、B病院の受診をAさんが覚えていなかったことなどを話し、認知機能の評価も検討してほしいと依頼しました。
その後AさんはC病院に通うようになり、アルツハイマー型認知症の診断を受けました。酸素と服薬管理を目的とした訪問看護が導入され、訪問介護と配食サービスも入るようになりました。
外来受診にはヘルパーが同行し、なじみの食堂への外出は、周囲の見守りのもと、現在も続けられています。
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この記事は『エキスパートナース』2016年11月号特集を再構成したものです。
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