診療報酬で定められている「入院基本料」というのは、わかりやすく言うと、すべての病院が満たしていなければいけない条件のことです。これまでは、①入院診療計画の策定、②院内感染防止対策、③医療安全管理体制、③褥瘡対策、④栄養管理体制の4つが基本的な条件とされていました。

2024年度診療報酬改定で「意思決定支援」「身体的拘束最小化」が追加

 2024年度診療報酬改定では、それらに新たに「意思決定支援」「身体的拘束最小化」の2つが加わりました。特に「身体的拘束最小化」は、それをやらないと“減算”(1日40点)されるという厳しい処置です。
 身体的拘束最小化は、「入院基本料」以外にも、「看護補助体制充実加算の評価の見直し」「認知症ケア加算の見直し」「訪問看護ステーションにおける身体的拘束の原則禁止」などの多くの項目で、その実施が強調されています。

 これまで、多くの病院で「やりたくはないけどやむを得ない」として行われていた「身体抑制」「身体的拘束」に対して強制的な力が入ったといえ、現場の看護師にとっては大きな意味をもつものといえるでしょう。

具体的な業務の見直しが必要、看護の質向上のきっかけに

 今回の改定では、「入院基本料」の「基本的考え方」として以下のように規定されています1

●医療機関における身体的拘束を最小化する取組を強化するため、医療機関において組織的に身体的拘束を最小化する体制の整備を求める。

●入院料の施設基準に、患者又は他の患者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束を行ってはならないことを規定するとともに、身体的拘束の最小化の実施体制を整備することを規定する。

 ここでいう「身体的拘束」とは、「抑制帯等、患者の身体又は衣服に触れる何らかの用具を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限をする」1こととされています。

 具体的には、①抑制帯(体幹用安全ベルト・四肢抑制帯・車椅子用安全ベルト)、②ミトン型手袋などが考えられますが、例えば「4点柵」や「体動センサー」「離床センサー」などはどうでしょうか。そのあたりから見直さなければならないでしょう。さらに、「緊急やむを得ない場合」の規定も必須になります。

 そして、以下のことが提示されています1

①身体的拘束最小化チームの設置:身体的拘束最小化対策に係る専任の医師および専任の看護職員から構成
②身体的拘束の実施状況の把握と職員への周知徹底
③身体的拘束を最小化するための指針の作成
④身体的拘束の最小化に関する研修の定期的開催

 厚生労働省の調査では、身体的拘束「0~10%未満」の病棟が多いものの、「身体的拘束の実施率が50%を超える病棟・病室」もあるとされています2。身体的拘束が「患者の尊厳」にかかわること、またADLやQOLを著しく低下させることは十分に認識されています。

 しかし、医療安全の面から必要不可欠な身体的拘束があることも事実で、それが、看護師のジレンマでもありました。まずは「緊急やむを得ない」身体的拘束かどうかという判断が重要でしょう。

 ただ、いきなり「身体的拘束最小化」対策の実施が減算対象とされても現実的には厳しいため、2025年5月31日までの経過措置がとられています。身体的拘束最小化の義務化によって医療安全が脅かされる、看護師の業務負担が一層増えるというように後ろ向きに捉えるのではなく、「看護の質向上」のための絶好のチャンスだとポジティブに取り組んだほうがいいかも知れません。

※『エキスパートナース』2024年7月号(6月20日発行)では、身体的拘束最小化に向けての現場での取り組みを紹介する座談会を掲載予定です。

1.厚生労働省ホームページ:令和6年度診療報酬改定について.

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html(2024.3.28アクセス)
2.入院・外来医療等の調査・評価分科会これまでの検討結果【別添】資料編⑤
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001161670.pdf(2024.3.28アクセス)

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