こんにちは、精神科医・産業医の西井重超です。今回は、病院での産業医の利用のしかたについて話をします。

産業医はどんな疾患の相談も受けなければいけない

 産業医が受ける相談は基本的に、業務に関すること、かつ健康に関することはなんでも対象になります。「職場で薬剤のにおいがきついので調査をしてほしい」などの職場巡視の相談、残業など長時間労働の面談や、ストレスチェック後の面接、健康診断での面談など各種面談、そういった機会がなくても、普段から業務にかかわる腰痛がひどいなどの相談もできます。

 よく、「産業医が内科の先生だから、心の相談ができない」と言われる場合がありますが、それは間違いです。産業医と診療科はまったく別で、産業医であればどの科の疾患の相談も受けなければなりません

 ただ、得手不得手はありますので、相談を受けたうえで医療機関の受診を促すなどの適切なコンサルトを行います。相談のうえで、企業での配慮が必要な場合は、企業側と相談し、就業措置を行います。

産業医には守秘義務があるので相談内容は外に漏れない

 「この方がしんどくなっています」と産業医が企業側に問題点を指摘するのと、皆さんが「私しんどいです」と直接、企業側に改善を求めるのでは、企業側の動きが違ってくる場合があります。

 産業医には守秘義務があり、会社に相談内容を漏らすことができません。相談内容が漏れることが心配であれば、「産業医面談の内容って、守秘義務で守られているんですよね」と一言先に言っておくと、産業医もいつも以上に気を引き締めて情報管理をしてくれると思います。

どんなときに産業医に面接に行けばいい?

 ストレスチェック後の面接に関しては、高ストレス者になったら産業医面接にぜひ行ってください。相談したからといって、内容によってはすぐには改善に至らないこともありますが、少なくともマイナスにはなりません。前述しましたが、産業医には守秘義務がありますので、心配があれば相談前にひとこと言えばよいでしょう。

 月80時間以上の残業がある場合も、産業医面談をぜひとも受けてください。長時間労働者への面接指導という面接になります。タイムカードではなく、パソコンでのログイン時間も残業時間の参考になります。

メンタル不調を感じたときの一般的な対応の例

 最後に、自分がメンタル不調になった場合の対応を話します。

 一番軽症のケースは、メンタルクリニックを受診して治療を行っているが、就業配慮は行われていないケースになります。仕事先に受診のことを伝えていない人と、伝えている人がいます。

 次は、会社で夜勤制限などの業務配慮をされているケースです。

 一番悪い状態は、休職をしないといけない状態です。就業配慮を考えるかどうかの目安としては、月に一度でも勤怠不良(遅刻、欠勤、早退)があるかどうかです。「月に一度くらいなら」という方もおられますが、普通は月に一度体調不良で休むなんてことはありません。休まないと出勤できない状態は明らかに異常です。月に4回以上勤怠不良がある場合は、休職が必要な場合が多いです。

 休職になった場合は、「傷病手当金」という給付金が最大1.5年間、健康保険によってもらえます。月給の約2/3が毎月非課税でもらえるので、実質月給の7~8割くらいが毎月手元に入ることになります。
           
 今回書いた内容はごく最低限の対応と言っても過言ではありません。ただ、自分の勤めている病院が、きちんと産業保健活動をしている病院かを確かめる指標にもなると思います。

 医療機関に勤めている限りは臨床に集中したいものですが、臨床以外の知識も必要になってきます。ぜひ、産業保健に関してもこの機会に知ってみてください。

この記事は『エキスパートナース』2021年5月号連載記事を再構成したものです。
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