こんにちは、精神科医・産業医の西井重超です。今回からは数回に分けて、発達障害についてお話しします。

成長に伴う「ハードル現象」によって明らかになる大人の発達障害

 ADHDでは、小児期で診断がつかず、成人になって診断がつくものがある、という報告も複数あります。第6回で、子どもの頃から症状を認めるものであると言いましたが、子どもの頃に診断基準を満たさないまでも、多少症状のある閾値下の患者さんが大人になって診断されたケースが考えられています。

 高校生が、大学生や専門学生になって自主的に勉強しないといけない環境への対応ができず留年したりすることや、大学生や専門学生が社会に出て厳しい実社会に直面して仕事についていけないケースがあります。

 私は、ADHDにおいてもASDにおいても、環境のハードルが上がり不適応を起こしたり、発達傾向が明
らかになる現象を、「ハードル現象」と名づけて呼んでいます。

 看護学生のときは看護学生のときが一番しんどいと感じ、早く仕事を始めて楽になりたいと思っていても、実際は仕事を始めてからがとてつもなく大変という話は皆さんも聞くことがあると思います。

 このような成長に伴っての負荷の増加により、成人発症のADHDは、若い頃の比較的守られたゆるい環境では表れなかった不注意などの症状が、ハードルが高くなることで明らかになるケースがあると考えられます。

社会に出てうまくいかない理由に、仕事が合っていないこともある

 社会に出てミスを繰り返したり、なかなか仕事が覚えられなかったりするなど、仕事がうまくいかず発達障害ではないかと疑われて、受診や産業医面談に至るケースがあります。

 そのなかで発達障害を含め、何の精神疾患の診断もつかないケースがあります。よくよく話を聞いていると、仕事が合っていないことが明らかになってきます。

 仕事が合っていないというのは、創造的な仕事が得意で単調な仕事が苦手な人が単純作業をしていたり、営業トークが苦手な人が営業部に配属されていたり、せっかちな性格の人ががまんを強いられる仕事をしていたり、本人の能力と会社が求めることがアンマッチになっていることです。

 ファッションが好きだからファッション業界に入ったけど、じつは自分がおしゃれをするのが好きなだけで、人に服を売ったりするのは好きでないことに気づくといったケースもあります。

 ビジネススキルの問題であれば、本人がスキルアップすればいいと思うかもしれませんが、短時間でスキルアップできるものではないですし、会社は給料を払っているのですから、長い間待ってくれるわけでもありません。病気ではないので、精神科医に相談しても解決できません。

 指導をされている間に適応障害を起こして精神的に不調をきたす場合もあり、キャリアを含め今後のことをしっかり考えていく必要が出てきます。ただし、会社から現在の仕事以外のキャリアのことに踏み込みすぎると退職勧告と受け取られかねませんので、上司の立場である人は面談のときは言葉を選んで話をしましょう。

この記事は『エキスパートナース』2021年7月号連載記事を再構成したものです。
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