こんにちは、精神科医・産業医の西井重超です。今回からは数回に分けて、発達障害についてお話しします。

「神経発達症」という新たな名前をつけられた「発達障害」

 発達障害は、子どもの頃から症状を認める神経発達上の障害です。大人になってもその症状が引き続くものが、大人の発達障害や成人期発達障害と言われています。

 皆さんは、看護師国家試験で発達障害の代表的な2疾患である自閉スペクトラム症(autism spectrum
disorder:ASD)と注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)を学習したと思います。

 「発達障害」という用語については、発達の凸凹があるものの、凸凹をうまく使って社会で成功している人もいることから、うつ病など何か二次障害が出現した場合に障害というべきではないかという考え方もあります。また、障害と聞いた子どもが、自分は障害児なのだとショックを受けることも見受けられました。そのため、「障害」という言葉を用いずに「症」という言葉を用いて、「神経発達症」という呼称が新たにつくられました。

 ただ今は、まだ「発達障害」という言葉が有名すぎて「神経発達症」という呼称が十分に広がっていません。例えば、書籍のタイトルも発達障害という言葉がまだ主流ですし、私が産業医をするときに会社の人に説明する際も、伝わりやすい発達障害という言葉を用いて説明します。

 診断基準の改正に伴い、診断基準自体の若干の変更などはあるものの、患者さんや家族にわかりやすい言葉を使って説明するという原則に立てば、「社会不安障害」を「対人恐怖症」と説明することもしかり、あえて伝わりやすい呼び方で一般の方に説明することもありといえるでしょう。今回も、皆さんになじみの深い発達障害という言葉をあえて使って説明していきます。

発達障害にはさまざまな種類があり、それぞれ合併することを念頭に置こう

 国際的な診断分類であるDSM-5-TRを診断基準として、概要的な説明をします。

 発達障害は、こだわりがありコミュニケーションに問題のあるASD、不注意や多動・ 衝動を認めるADHD、読み・書き・算数という特定の発達に問題のある限局性学習症(specific learning disorder:LD、学習障害)のほか、チック症を含む運動症など、さまざまな特徴で分類されています。診断基準の改正も受けて、近年、発達障害同士は合併するという考えが一般的です。

 かつて、「広汎性発達障害」や「アスペルガー症候群」という分類がありましたが、診断基準や呼称の変更により、おおむねASDにまとめられました。

 知的能力障害(いわゆる知的障害)は、日本では3障害の1つとして精神障害と別に分類されていますが、DSM-5-TRでは神経発達症として扱われています。

 発達障害同士の合併例は比較的多く、国家試験のように単一の発達障害だけをもっていると考えるより、まずはASDとADHDが合併していることを念頭に対応するのが実践的です。カルテや診断書にADHDと書いてあっても、ASDを合併している可能性も十分にあります。診断名がADHDだからコミュニケーションには問題はないと思わず、患者さんの普段の言動を観察することが大切です。

発達障害を理解するために大切な「スペクトラム」という概念

 スペクトラムという考えは、発達障害を知るうえで理解しておく必要があります。「連続体」や「グラデーション」や「濃さ」という意味合いです。

 発達障害と診断されていても重度の人もいますし、軽度の人もいますし、診断基準にギリギリ届かなかったが限りなく発達障害の要素が濃い人もいる、という考え方です。

 スペクトラムではない病気としては、例えば検査である遺伝子やある抗体があるかないかで診断がつく疾患などが挙げられます。

 よく、「発達障害かどうかを知りたい」と受診される人がいますが、あるのかないのかではなくて、どの程度の症状があるのかが実際は大事になってきます。これは、同じ診断名なのになぜ症状が違うのだろうという理由の1つです。

 スペクトラムなので、発達障害の対応方法はギリギリ発達障害ではない人の対応方法としても応用可能です。

発達障害とのかかわりは、疾患とその人の生活を合わせて考える

 同じ診断名なのに別の病気に見えるという理由はほかに、患者さんそれぞれが別の人間であるというところにあります。私が日々診察をしているときに、一番大きな原因かもしれないと感じる要因です。

 別の言い方をすると、発達障害の患者さんにも性格があるということです。陽気な人や不安が強い人、怒りっぽい人などさまざまです。実際に診断基準としても、人格の問題と発達障害は合併することはあるとされています。

 こういった場合、看護師の皆さんが好きな言葉(だけど苦手な対応?)である、個別性という考えで対応していく必要があります。

 発達障害に限りませんが、穏やかで優しい性格の人は、多少コミュニケーションが苦手でもある程度人とうまくやっていけますし、逆に被害的であったり、攻撃的な人はうまくいかないことが多いです。発達障害に対応するうえでは、少なくとも、この人はどういう性格で、どういう疾患かという2つの観点から考えたほうがしっくりくるでしょう。

働くナースのための精神医学【第7回】社会に出ることで明らかになる大人の発達障害

この記事は『エキスパートナース』2021年7月号連載記事を再構成したものです。
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