口腔ケアの実際

口腔ケアの習慣化への支援

 高齢者の口腔ケアを支援するためには、高齢者自身が生活に取り入れやすい口腔ケアを本人とともに見出していくという視点が大切です。高齢者は、それぞれの人生経験を通し口腔ケアに対してさまざまな価値観をもち個々の方法で行っています。まずは、その人が口腔ケアにおいてどのような物品を用い、どのようなタイミング・方法で行っているのかということを知ることからはじめる必要があります。

 そのうえで、高齢者自身が問題だと感じていることを見つけ出し、今まで行ってきた口腔ケアを尊重しながらも問題点に焦点をあて対処方法を共に考えることが大切です。そうすることで、効果的な口腔ケアを習慣化し、日常的に取り入れやすくなります。
 また、介護・医療職がよいと思う手法を一方的に指導することのないように注意しましょう。

事例から考える:夕食後に歯みがきをする習慣がなかったAさん

 高齢者では、歯間に汚れがたまりやすく、毎食後の口腔ケアや歯間ブラシなどを用いた歯間のケアがより大切になります。しかし、Aさんは、もともと歯みがきを朝食後と昼食後にしかする習慣がありませんでした。加えて、使用していた口腔ケア物品は、歯ブラシと歯みがき粉だけでした。そのため、Aさんの口腔は口臭が強くあるとともに、歯にはプラークも多く、白色の多量の舌苔の付着も認めていました。これらより、口腔カンジダ症の可能性も考えられ、口腔ケアに対しての課題がありました。

 夕方から寝る前の生活行動を知る必要があると考え、Aさんに確認すると、「夕ご飯は食べていないから、歯みがきはいらないと思っていた。夕方から寝るまではチビチビお酒を飲んで、ポテトチップスなどをつまんでいる。テレビを見ながら知らない間に寝ているよ。口臭は気になるから、マウスウォッシュをちゃんと使っている」とのことでした。

 Aさんは、食後の歯みがきの必要性は認識していましたが、お酒やつまみは食事と認識していなかったため、夕食後や寝る前の口腔ケアの必要性を感じていませんでした。しかし、口臭に対しては問題意識をもっており、なんとか対処しようと考えていることがわかりました。市販のマウスウォッシュは、口腔内の細菌を減らし、虫歯や歯周病、口臭をケアする効果がある一方、アルコール成分が含まれていることが多く、口腔内の乾燥の原因になることもあります。また、歯に付着しているプラークを除去するには、マウスウォッシュでは困難であり、ブラッシングによる機械的清掃が必要です。

 そこで、Aさんの行っている行動を否定せずに、マウスウォッシュを使用している取り組みに対しては認め、Aさんが問題と感じている口臭予防に焦点をあて、説明と提案を行いました。まず、口臭の原因が歯のプラークにあること、夕食以降の飲食がプラークを増加させていること、睡眠中は唾液分泌が減少するため、夜間に口腔内の細菌が増加しやすくなることなどを説明しました。

提案①Aさん自身で口腔ケアを効果的に行えるように、歯ブラシをヘッドの小さめのものへ変更し、ナイロン毛の舌ブラシを使用する

提案②カンジダ予防効果が期待できる口腔用ジェルを歯みがき粉として使用する

 市販の歯みがき粉にも口腔乾燥の原因となるアルコール成分などが入っているものが多く、免疫力の低下している高齢者の口腔ケアには適さないものも多くあります。ネオナイシン®やヒノキチオールの成分が含まれている口腔ケア用のジェルは、抗菌作用が期待でき、歯みがき粉をこのような成分を含む口腔ケア用ジェルに変更するだけでも、口腔カンジダ症予防効果が得らえることがあります。

提案③眠くなる前に口腔ケアを行う

 その後、Aさんの口腔環境は改善傾向を認めています。

1)ヴァージニア・ヘンダーソン著,湯槇ます,小玉香津子訳:看護の基本となるもの.日本看護協会出版会,東京,2016:16.
2)日本摂食嚥下リハビリテーション学会編:日本摂食嚥下リハビリテーション学会 eラーニング対応 第4分野摂食嚥下リハビリテーションの介入Ⅰ口腔ケア・間接訓練 -Ver.3.医歯薬出版,東京,2020:4.

自立と生活機能を支える
高齢者ケア超実践ガイド

前田啓介、永野彩乃 編
B5・304ページ、定価:3,850円(税込)
照林社

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