コミュニケーション支援に関連する公的支援制度

 コミュニケーション支援には、AAC機器の入手などの物的支援と、コミュニケーション方法の指導や調整などの人的支援(下記)が必要です。このような支援に関連する公的制度について述べます。

人的な支援に関する制度
●障害者ITサポートセンター
●難病相談・支援センター
●入院コミュニケーション支援事業:難病などで意思疎通に支障がある人の一時入院の際にヘルパーが病室でコミュニケーション支援を行う

物的な支援に関する制度

 重度意思伝達装置などのハイテクノロジーエイドの多くは、障害者総合支援法に基づく公費支給の対象です。政令で定める特殊な疾病(指定難病とほぼ同一)の場合は、診断書で対象疾患であることが確認できれば、身体障害者手帳を持っていなくても利用申請が可能です。

 制度では、音声による意思疎通困難および運動機能障害により機器操作が困難な状況にある人を対象に、重度障害者用意思伝達装置の購入や、借り受けの補助が受けられます。機器本体に加えて、身体機能に合わせた入力スイッチや、負担のない姿勢で使用できるための架台など、個々の療養環境に合わせた準備が必要です。

 ALSなど病状の進行が予測される場合は、早期支給を申請することもできます2-3)。支援事業の実施主体は市町村で、地域独自の制度を実施しているところもあります。病院のMSWや保健所の保健師に相談し、地域で利用可能な福祉制度を適切に活用しましょう。

 難病患者の機能評価やAAC適合、導入時の使用指導、利用維持を目的とした調整などは、医療機関や地域の専門家の協力を得ましょう3)

コミュニケーション支援における多職種との連携

 難病患者の残存機能評価に合わせたコミュニケーション方法の検討、環境整備、AACの導入とコミュニケーション機能の維持継続に向けた調整や指導などを行うには、医療・保健・福祉の多面的な支援が必要です。

 コミュニケーション支援においては、さまざまな専門職が関わるだけではなく、一貫した支援方針をとるために、専門職種間で情報共有と相互補完などの連携も求められます。
 関連する主な職種と役割を図2に示します。

図2 コミュニケーション支援 にかかわる多職種と役割

経過に応じたコミュニケーション支援の実際

 ALS患者の経過をコミュニケーション機能の視点で、準備期利用期困難期の3つの時期に分け、それぞれの支援について述べます4)

AAC準備期

 障害が軽く、言語的コミュニケーションが可能な時期です。コミュニケーション機能障害に対する支援は現在と先を見すえた早期からの対応が重要です。
 病状が進行してAACが必要となることに備え、予測できる経過や予後を見越した説明を行います。さらに、パソコン操作などの習得や操作性の改善を行い、AACとしての利用を想定した支援も視野に入れます。

AAC利用期

 何らかのAACを使用する時期です。残存機能や随意的な身体活動を評価し、AACの導入や、入力方法の検討を行います。

 病状の進行によって、利用している機器や入力装置(スイッチ)の不適合が生じ、AACの使用時間や頻度が低下する場合があります。そのため、おおむね半年ごとに身体機能を再評価し、入力方法の見直しや調整を行い、コミュニケーションを維持・継続させる支援が求められます。療養にかかわる多職種
で情報の共有を行い、必要な支援につなぎましょう。

AAC困難期

 随意的な機器操作が困難になります。そのため、患者さんの微細な表情の変化や生体信号などにより意思確認を行う場合があります。

1)林健太郎,望月葉子,中山優季,他:侵襲的陽圧補助換気導入後の筋萎縮性側索硬化症における意思伝達能力障害 -Stage分類の提唱と予後予測因子の検討-.臨床神経2013;53(2):98-103.
2)日本リハビリテーション工学協会編:「重度障害者用意思伝達装置」導入ガイドライン2019年度改定版.
https://www.resja.or.jp/com-gl/gl/pdf/isiden_2020-1of2.pdf(2024.7.31アクセス).
3)井村保編:神経疾患患者に対するコミュニケーション機器導入支援ガイドブック. https://rel.chubu-gu.ac.jp/files/2016-rep/guidebook-all.pdf(2024.7.31アクセス)
1)永坂充:筋萎縮性側索硬化症患者とのコミュニケーション.脳神経内科2020;93(3):356-361.

神経難病の病態・ケア・支援がトータルにわかる
中山優季、原口道子、松田千春 編著
髙橋一司 医学監修
B5・248ページ、定価:4,070円(税込)
照林社

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