Q. 狭心症で入院の患者さんの心電図を見ると、いつのころからかT波の逆転がみられます。それは血流が改善し虚血が解消したからと聞いたのですが、なぜ虚血が解消するとT波が逆転するのですか?

A.
T波が陰性化する理由には、虚血が関係します。心筋細胞の仕事は放電(脱分極)と充電(再分極)です。このとき放電も充電も、仕事の始まりは心筋の内膜側から外膜側へと向かいます。その様子を体の外側の電極で眺めていると、それぞれ近づくと見えることで心電図波形として上向きに描かれます。

ところが心筋が虚血状態に陥ってしまうと、放電は一瞬に起こることで本来の順序どおり内膜側から外膜側へと向かうのですが、充電は外側から内側へと逆方向を向いてしまいます。その理由は、心臓に血液を供給する冠動脈という血管は心臓(左室)の外側を通り内側に枝分かれをし心筋に血液を送っています。そのことから内膜側は川の流れでいうと下流側になり、そのため上流側からの血液供給が少なくなると、まず下流側に影響が現れやすくなります。そのため下流側である内膜側の仕事に影響が生まれ、結果として、充電過程が逆になるという変化が生まれます。これがT波が陰性化する原因で、この現象は虚血の始まりでもあり、また、虚血が改善する場合にも、しばらく残る現象で、簡単にいうと虚血の行きと戻りにみられる現象です。

『ハート先生の心電図なんでも質問箱』
市田 聡 著
A5・112ページ、定価:2,200円(税込)
照林社

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